第四話 冷めたご褒美
「……食べないの?」
テーブルの上には、私が買ってきた真っ白なレアチーズケーキ
悠はそれを一瞥もせず、ベッドの隅で膝を抱えて固まっていた
拓海くんがドアの向こうで叫んでいたあの瞬間から、彼は一言も発していない
「せっかく悠のために、行列に並んで買ってきたのに。酷いな」
私はわざとらしく溜息をつき、フォークでケーキの端を削り取った
悠は、私を睨んでいる
その瞳には、恐怖だけじゃない
はっきりとした「憎しみ」と「拒絶」が宿っていた
いいよ
その目、最高にゾクゾクする
私という存在に、それだけ強い感情を向けてくれている証拠だから
「……灯が、追い返したんでしょ、拓海を……」
ようやく絞り出した声は、怒りで震えていた
まだ、悠は諦めていない
私の嘘を疑い、外の世界に手が届くと信じている
「追い返した? 心外だなあ。彼は納得して帰ったんだよ。……『悠が君みたいな女と一緒にいるはずがない、早くアイツを返せ』って、最初は威勢がよかったけど。私が”痕”を見せたら、急に黙り込んじゃって」
「……え?」
「真っ青な顔をして、逃げるように帰っていったよ。親友だと思ってたのに、そんなものなんだね。……やっぱり、悠を本当に愛してるのは私だけなんだよ」
これも、嘘
拓海くんは最後まで食い下がろうとしていた
でも、悠の中に「見捨てられた」という毒を少しずつ、丁寧に流し込んでいく
「嘘でしょ……そんなの……!」
悠が立ち上がり、私からフォークを奪い取ろうとした
その腕を掴み、私は彼をベッドへと押し倒す
彼女のお腹に手を当て
強く押し込んだ
「嘘だと思うなら、もう一度呼んでみればいいよ。……でもね、悠。次に来るのが警察でも、親でも、結果は同じ。私が、あなたを『壊れた』ことにしてあげるから」
私の瞳に宿る本気の狂気を感じ取ったのか、悠の体が強張る
抵抗する心はまだ死んでいない
けれど、その火を一つずつ消していく作業が、愛おしくて堪らないんだ
「さあ、ケーキ。食べさせてあげる」
私は笑って、あなたの震える唇に、甘すぎるケーキを押し付けた




