第2話 偽りの安息
カーテンの隙間から、ほんの僅かな光が差し込んでいた
悠が重い瞼を開けるとそこには見慣れた天井ではなく
私の部屋の、深い紺色の天井がある
「……おはよう、悠。よく眠れた?」
私が声をかけると
悠はビクッと肩を揺らし
それから自分の手首を見た
赤い紐はもう解いてあげたけれど、そこにはくっきりと
あなたが私に囚われていた証拠が残っている
「灯……僕、学校……行かなきゃ……」
掠れた声でそう言って、悠がベッドから這い出そうとする
私はその背中にそっと手を添え、抗えない優しさで、もう一度シーツの上へと押し戻した
「行かなくていいんだよ、悠。昨日も言ったでしょう? あなたの居場所は、もうここしかないの」
「でも、先生とか……友達とかが、心配するし……」
「ふふ、大丈夫。みんなにはちゃんと伝えておいたから。悠は心の病気で、しばらく誰とも会いたくないって。……そしたらね、みんな『そうなんだ』って納得してくれたよ。誰も、悠を追いかけたりなんてしない」
それは、真っ赤な嘘だ
昨夜のスマホから送信した拒絶のメッセージ
そして今朝、担任に送った偽りの欠席届
世界から、悠という存在を消すための手続きは、すべて私が完璧に済ませておいた
「嘘……だよね……?」
「嘘じゃないよ。ねえ、悠。外の世界はあなたを傷つけるノイズで溢れてる。でも、ここなら私しかいない。私があなたを守ってあげる。……ほら、お腹空いたでしょう? 好きなもの、作ってあげるから」
私は悠の鎖骨にある「痕」に、おまじないをするように指先で触れた
悠は絶望したように瞳を揺らし
やがて、諦めたように力を抜いて、私の胸の中に顔を埋めた
彼にとって、学校も、友人も、未来も、もう窓の外の「存在しない景色」になったんだ




