第1話 優しい檻の作り方
「ねえ、今日も外は騒がしかった?」
玄関の鍵を閉める音が、やけに重く響く
雨に濡れて帰ってきた彼女の肩を
私はそっとタオルで包み込んだ
君の視線は泳いでいて、どこか遠くの、私の知らない誰かのことを考えているのが分かってしまう
それが、どうしようもなく不愉快だった
「……また、あいつらに何か言われたの?」
あなたは黙って俯く
その震える指先も、泣き出しそうな瞳も、全部私だけのものなのに
外の世界は、どうしてこうも無神経にあなたを傷つけるんだろう
私はあなたの頬を両手で包み込み、強制的に視線を私へと固定させた
逃がさない
あなたの網膜に映るのは、私だけでいい
「もういいよ、頑張らなくて。あんな場所、二度と行かなくていい」
私はあなたのポケットからスマートフォンを取り出し、迷わず床に落とした
高い音を立てて画面に亀裂が走る
あなたが息を呑むのが分かったけれど、私はそのまま、耳元で甘く、毒のように囁いた
「大丈夫。私が全部管理してあげる。あなたの予定も、交友関係も、考えることすべて。……ねえ、君には私がいれば十分でしょう?」
瞳から光が消え、代わりに私という存在が、その空洞を埋めていく
「……あ、かり……?」
亀裂の入ったスマホを見つめたまま、悠が掠れた声で私の名前を呼んだ
その声に含まれた微かな恐怖が、私の胸を甘く、鋭く突き刺す
「そうだよ、悠。私の名前を呼んで。他の誰の名前も、もう呼ばなくていいから」
私は悠の濡れた髪に指を通し、優しく、けれど拒絶を許さない力で引き寄せた
悠は抵抗することもなく、私の胸に顔を埋める
外の世界で擦り切れた彼の心には、今の私しか縋るものがないんだ
「ねえ、悠。明日からの予定、全部キャンセルしておいたから。学校も、バイトも、あのうるさい友人たちも。……全部、私が『もう会えない』って伝えておいたよ」
悠の体がびくんと跳ねる
でも
あなたは逃げない
私の腕の中で震えながら、ただ静かに絶望を受け入れていく
その過程が、たまらなく愛おしい
「これから、悠の時間は全部私のもの。君の朝も、昼も、夜も。全部、私が決めてあげる」
私は部屋の隅にある重い遮光カーテンを、一分の隙間もなく閉め切った
これでいい
ここには、私たちを邪魔する光も、音も、他人も存在しない
「……幸せだね、悠」
その言葉に応えるように、悠の細い手首を、私はリボンのような赤い紐で、けれど容赦ない強さで縛り上げた
ベッドに沈み込む悠の瞳は、恐怖と、それでいてどこか私に委ねきったような熱を帯びて潤んでいる
「痛い? ごめんね、でもこうしておかないと。悠、また外に出ようとしちゃうかもしれないから」
私は悠の耳たぶを甘噛みし、そのまま鎖骨へと顔を寄せた
そこには、私がさっき付けたばかりの、どす黒いほどに鮮やかな「痕」ができている
「これ、鏡を見るたびに思い出すんだよ。悠の体は、もう私以外の人間には見せられないものになったんだって」
私の指先が、彼の鎖骨の痕をなぞる
悠が短く息を吐き、私の肩に顔を埋めた。 拒絶の言葉は出てこない
ただ、私に縋るように、縛られた手首を私の背中に回そうとして……自由が利かないことに気づき、絶望したように笑った
「灯……。もっと、壊して……」
その言葉を待っていた
私は満足して、彼の唇に、深く、呼吸を奪うようなキスを落とした
これが、私たちの世界の「夜」の始まり
―――
悠が眠りについた後、私は床に転がったままの、画面がバキバキに割れたスマートフォンを拾い上げた
辛うじて息をしている液晶が、しつこく光っている。
『悠、大丈夫? 最近全然返信ないから心配だよ。明日、家に行ってもいいかな?』
送り主は、クラスの女子
あざとい笑顔を振りまいていた女だ
私は暗闇の中で、口角が吊り上がるのを抑えられなかった
「……身の程知らず」
私は悠の指をそっと取り、指紋認証でロックを解除する
眠る彼の指先は少し冷たくて、私の所有物であることを主張するように、鎖骨の痕が淡く闇に浮んでいた
私は悠になりきって、彼女への返信を打ち込む
『ごめん、今まで我慢してたけど、正直君の好意、ずっと重くて迷惑だったんだ。もう連絡してこないで。顔を見るのも不快だから』
送信
そして、間髪入れずにブロック
ついでに連絡先も、これまでの履歴も、すべてこの世から消去する
ふふ、これで一つ、世界が綺麗になった
私は満足してスマホをクローゼットの奥へ放り込み、ベッドで丸まっている悠の背中に、背後から覆いかぶさった
「ねえ、悠……。君の周りから、どんどんゴミがいなくなっていくよ。嬉しいね」
私の囁きに、悠は夢の中で微かに身悶えし、逃げるように私の腕に深く沈み込んだ
そうだよ
あなたの味方は、世界中で私だけ
今回は、私じゃなくて友達に書いてもらってます
なので結構文体違います
ご了承を




