5.なぜ自分だけが生き残ったのか-そんなゼロフォーだが、転機が訪れる-
全34話予定です
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ソフィアは独りになってしまった。そんな彼女が身を寄せられる場所は無い。
必然的に孤児院に入る運びとなった。
当時の孤児院といえば、戦争で身寄りがなくなった者や元々身寄りと呼べるのがいない者が集められる場所であり、どこも満室に近い状況であった。
その見た目といえば、オンボロな平屋にトタン屋根を敷いただけという、貧民街のそれとほとんど変わりがない外観に、ぎっちり詰まった人数、さらには満足な分の食事が供給できない為の餓死者というのが相場だった。
ソフィアはその中で[なぜ自分だけが生き残ったのか]と考えていた。それは身を挺して助けてくれた両親や兄にどう向き合えばいいのか分からない、そんな気持ちが支配していたのであろう。
食事も提供はされたが不足が続いていた。そんな中で孤児たちの争いは常に起きていた。ソフィアはまさに[生きる屍]になっていたのだ。数日に一度ありつける食事で何とか生命を保ち続けていた、そんな状態であった。
そんなソフィアだが、転機が訪れる。
ある日、孤児院の職員が[これからテストをするから並べ]と言って広場に並ばせた。どんなテストかと言えばIQももちろん測られたが、記憶力、考察力、それらを総合的にテストされたのだ。
このテストは現在の同盟連合の孤児院では、ある時期を境にそこら中で行われていた。それは第一期生が途中まで成長した、という頃からである。[子供]を作る事でパイロットとサブプロセッサーは肉親、という縛りが一つ取れ、マッチングテストの向上で更に自由度が増した研究所は、より良い[素体]を欲しがったのである。
そんな中、ソフィアは他を寄せ付けない圧倒的なスコアの違いを見せてトップでテストを終えたのである。それからしばらくして彼女のいる孤児院にある人たちが訪れた。
その人たちは[トップスコアを見せろ]と言ってテストの結果を見たあと、ソフィアを呼んだ。
そして、
「きみはこれから別の孤児院で育っていく事になる。身支度をして直ぐに我々と一緒に来るんだ」
そう言われて国を出た。向かった先は同盟連合のとある孤児院である。
そこでの暮らしと言えば、確かに食事などは粗末であったが、他の施設に比べれば食事の奪い合いもないし、ちゃんと人数分は支給された。その献立も、ちゃんと栄養を考えられたものであった。
多分、他の娘たちもソフィアと同時期に連れてこられたのはほぼ間違いないだろう。建物も新しかったのもある。
孤児院と言えば、オンボロな平屋と相場が決まっていたのに、鉄筋の、それこそ[軍用ではないか?]と、今ではそう思えるほど頑丈に出来ていたのだ。実際、ペンキの匂いがまだ取れていなかったのもこの建物が新造されて間もない事を裏付けていると言えるだろう。
――――――――
ここまでがソフィアの抜け落ちた記憶である。一部に彼女の記憶もあるが、カズが可能な限り調べ上げた内容でもある。
カズは調べた一つ一つを、抑揚なくソフィアに言って聞かせた。
「これがすべてだ。このあとの話は自分でも覚えているだろう? 研究所で不幸な事故があって、きみは記憶をすべて無くした。そこから現在に至るまできみは回復したんだ」
――これが、私、なの?
ソフィアはどこか他人事のように感じている自分に驚いていた。それはもしかしたら記憶を失ってからの彼女の人格形成が大きいのかも知れない。今の彼女はまさに思考するコンピューターだ。論理的なことを好み、非論理的なことを嫌う。そんな現在の性格が、もしかしたら幸いしたのかも知れない。事実、両親のむごい死を知っても、兄の事を知っても無感動だったのだから。
「どうかな? この報告は決してきみの満足のいく結果ではないと思う。むしろ聞かなかった方が良いとも思えるだろう。だけど、今のきみなら、今のきみならきっと受け入れられる、そう思ったんだ。だから」
「隠さずにすべてを開示して頂けた、という訳ですね。ありがとうございます、とまずは感謝を。確かにこれは私の望んだ結果ではないと思います。ですが」
とまで言って一区切りする。
――今の私はこの情報を情報として処理出来るだけの冷静さは持っているつもりなんです。
ソフィアはそんな事を考えながら、
「両親を、兄を失ったことはとても悲しいことだと思います。ですが今は今の自分がいます。そしてその今を作ってくださったのはマスターたちです。私はそれで良いのだと思います。もしかしたらあとで一人になった時に泣くのかも知れません。ですが、それで良いのだと思います。本当にありがとうございました」
そう締めくくったのだ。
もしかしたら、人はそれを[成長]と呼ぶのだろうか。
記憶は思い出に変わり、思い出はやがて端の方から断片的に消えていく。それでなくともソフィアは一度すべての記憶を失っている。だからなのかもしれない。
冷静、とも違うその独特の感覚に、ソフィアは包まれていた。そしてその感覚の余波というのはやがて波として襲ってくるものなのかも知れない。しかし今の彼女はとてもフラットに受け止めていたのである。
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