31.手術、受けるんだね-止めて、欲しい?-
全34話です
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「呼ばれて来てはみたけれど」
と所長室に入ってきたのは[襟坂恵美]こと中の人、天野千歳である。言うまでもないカズの最愛の女性であり、彼の妻であり、研究所のナンバースリーである。
「これを見せておこうと思って」
そう言ってタブレットを渡す。[襟坂]はひとしきり目を通したあと、
「手術、受けるんだね」
と返って来る。それくらいに阿吽の呼吸がなっているというところか。
――まぁ、この状況下ではそれしかないもんなぁ。
カズの命は既にカズだけのものではないのだから。
「あたしもこのまま行けばきみと同じ手術を受けないといけないんだ」
そう、現在の[襟坂恵美]という入れ物の中に千歳の脳核は収納されている。そして免疫機構の拒絶反応を恵美が開発したクスリで抑えているのが現状なのだ。
「その為の第一号になってくるよ。まぁ、実績も積んだ技術だ、そうそう何か起きることはないだろうからね」
そう言ってカズは[襟坂]を抱きしめて、キスをする。彼女もそれを拒否したりはしない。しばらくそうしていたが、
「続きはあとで、いいかい?」
とカズが続けて[襟坂]のはにかんだ[いいよ]という言葉を聞いてから、
「ちなみにいつ決行するの?」
と尋ねられる。その問いにカズは、
「まぁ、早いほうがいいんだろうな、とは思ってる。なので一週間後に設定したんだ」
と返す。[襟坂]は[そっか]とだけ言葉を発して、しばらくの沈黙が訪れる。
「止めて、欲しい?」
沈黙を[襟坂]が破る。だが、カズは、
「正直なところとしては、ね。だけどそれが許されないのもまた事実。それに今まで手にかけてきた命に対して、まだ贖罪をしていないんだ。研究は確かに進んだ。だけど、これが終わりじゃあない。だからその先を進まないといけないんだ。それがオレがとれる贖罪なんだろうと思う。別に長生きがしたいわけじゃあない、それでも長生きを迫られればオレにそれを拒否する事はできないよ」
――そう、長生きが目当てじゃあない。研究所を、みんなを引っ張っていかないといけないんだ。後継を育てなかったのはオレの落ち度ではある。でもオレ以外に後継を任せられるほど残忍になれなかったんだよ。
カズの言葉はそれが真実なのだろう。
カズの立場というのはカズが作ってきた道に沿ってできている。研究所の[人員整理]もその代表的な一環だ。そして今いる大将という立場もそうだ。今から代わりを、と言っても誰も納得はしない。それは皆が、政府の上層部含めて皆が[カズだから]任せてきたのだから。
「いいよ、どこまでも二人で行こう」
[襟坂]はそんな言葉をカズに投げかけた。そしてもう一度キスをする。いつもより少しだけ長めのキス。そうすることで二人は互いの意思を共有するかのように。まるでそれはある種の誓いにも似ている。
そんな時間もすぐに過ぎて、
「それじゃあやるんだね?」
答えの分かっている最後の確認。その言葉に、
「ああ、もう少しこの世に留まらないといけないのであれば」
と返した。それはもう決定事項なのだ。そう、カズは脳核だけの存在になることにしたのである。
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