30.ある程度予想はしていましたが-このまま行けば一年以内に死亡の可能性が高い-
全34話です
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その頃、カズのいる研究所ではある問題が発生していた。それはカズの寿命である。
定期的に精密検査を受けていたが、そろそろ限界が近づいている、という話なのだ。
「ある程度予想はしていましたが」
アイザックがカズと一緒にデータを見ていた。そこには[このまま行けば一年以内に死亡の可能性が高い]と、検査値と一緒に出ていた。
ここで二つの選択肢が提示された。
一つはこのまま寿命を待つ、というものである。だが、到底それは受け入れ難しものだし、まず上層部が許さないだろう。カズはこの時、軍のほぼトップにまで上り詰めていた。階級で言えば大将である。そしてただの大将と違うのは作戦立案や軍事行動一連、兵器開発と多方面に権限が付与されている事だろう。今の同盟連合はカズなしでは考えられない、そんな立場まで上り詰めているのである。
二つ目の選択肢、これが一番現実的なのだが脳核の摘出、つまりはサブプロセッサー化である。これにはもう一つ訳がある。
アポトーシス、それは細胞自身が死を選ぶという、体を構成する細胞の死に方の一種で、体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされる、管理・調節された細胞の自殺、すなわちプログラムされた細胞死の事である。
これにはDNAの末端であるテロメアという部分が関係しているといわれている。テロメアが限界のサイズまで小さくなるとアポトーシスが起きるのだ。
今までパイロットとしてカズは前線に出ていた。その際に恵美の開発したクスリによって体内にあった[子供]の部品への拒絶反応を抑えていたのだ。だがこのクスリは、遺伝子レベルで効く為、このテロメアの長さをも徐々に縮めてしまうのである。
そしてカズは一度倒れている。そこで[子供]の部品が原因と判断、摘出手術を受けて既に健常者と何も変わらない生活を過ごしている、と言いたいところだが失ったテロメアは元には戻らない。
それを言えば、脳核だけにしても遺伝子のテロメアの減少スピードは抑えられない、はずなのだが、恵美博士が新たに開発したものの中に、今まであったクスリの逆応用というべきなのだろうか、分子式を一部弄る事でテロメアの減少を止め、失われたテロメアをほんの少しであるが復活させられるという効果が期待できるものが開発出来たのである。ただし、そのクスリは生身の人間には使用できない。何故なら体の防御機構である血液脳関門(Blood-brain barrier,BBB)を通り抜けられないからである。これを通過できなければ全身に対しての作用は期待できるものの、肝心の脳へクスリを届けることが出来ない。それでは人間の根幹である脳核だけが寿命を迎えて死亡、という結果になってしまう。ならば脳に直接注射を、と言っても今度は前述の防御機構が邪魔をするのである。つまり一定期間で排泄されずに残ってしまわれても困るのだ。
まとめると、脳核だけ取り出して生命維持装置を付け、薬剤の投与をより確実かつ簡略化しなければならないのである。しかしそれは、裏を返せば失われつつある寿命を延ばすことだって可能だ、そう言っているのだ。
「さて、どうなさいますか?」
アイザックがカズに聞いてくる。カズは、
――これだけの人間をさばいておいて今更、だよな。それに選択肢は事実上一つだ。だったら。
そう考えつつ、
「手術を受けますよ。その準備をお願いしたいのですが」
アイザックにそう伝える。彼は[本当によろしいのですね]と再度の確認をしたがカズの[選択肢は残っていませんから]という一言で、
「分かりました」
と言ってくれた。
そんなアイザックにカズは、
「ひとつ、お願いがあるのだけど」
そう告げて、ある人物を所長室に呼ぶように伝えた。
それは直ぐに、
「了解です。確かにここで話しておく必要がありますね」
そう返ってきたのである。
――さてと、どうしたものか。
カズはこれからの話の持って行き方に思案をしていた。
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