宮廷女医の私と結婚したがる国王陛下と王太子殿下が親子で取り合いを繰り返しているのですが……
私の名前はオルフィーナ。
ウルリク王国に仕える宮廷女医。
宮廷に出仕している人々、そして王族の方々が体調を崩してしまったときに治療をするのがお仕事。
質素な医療着に髪が隠れるな布を頭に巻いた飾り気のない服装で日夜仕事に打ち込み続けてきた。
そのかいあって27歳の今では宮廷の医療責任者まで上り詰めているけれど、未だに独身。
でも……。
この王宮二階の医務室からは中庭を隔ててバルコニーが見える。
そこでは毎日のように──。
「オルフィーナとは私が結婚する! この世間知らず息子が!」
「結婚するのは僕だ! このわからずや父上!」
親子が私の取り合いをしている。
しかも、バルコニーで向かい合っているあの親子は──。
「色恋沙汰になぞ囚われるな! 王太子の自覚を持て! ロレンツォ!」
「そちらこそ一人の女性にうつつを抜かすのではなく、国を思うべきでしょう! ルーベン国王陛下!」
ウルリク王国の国王陛下と王太子殿下だったりする。
「私は半年前に落馬で大怪我をしてしまったとき、懸命に治療をしてくれたオルフィーナを愛してしまったのだ! この想いは止められぬ!」
そう叫んだ年長の立派な髭を生やしている方がルーベン国王陛下。
42歳。
「僕だって半年前に高熱でうなされていたとき、親身になって世話をしてくれたオルフィーナが女神に見えたのです! それ以来、心を奪われたままなのですよ!」
言い返した方の、まだどこか幼さの残っている青年がロレンツォ王太子。
21歳。
「オルフィーナは絶対に譲らぬ! 今日こそ決着をつけてくれようぞ!」
「望むところ!」
キン!
二人が腰の剣を引き抜き、切っ先を打ち合わせた。
「私はお前の母が亡くなってからずっと独り身でいたが、ようやく心惹かれる女性に出会えたのだ! 父が幸せになるのを応援できぬのか!」
ルーベン国王陛下が斬撃を放った。
ギィン!
それをロレンツォ王太子が剣で受け止める。
「父上こそ、息子の初婚を応援なされよ!」
ガギリ!
ロレンツォ王太子の反撃をルーベン国王陛下が防ぐ。
「どうした! ロレンツォ! 踏み込みが甘いぞ! お前のオルフィーナと添い遂げたいという思いなどその程度か!?」
ガツ!
「なんの! 父上こそ動きが止まって見えますよ! オルフィーナへの愛が足りないのでは!?」
カァン!
「減らず口を! 私はオルフィーナと一緒にいるためならなんだってするぞ!」
ガン!
「僕だって! そのためならこの身を刺し貫かれる覚悟とて出来ている!」
ビッ!
「ふふ。ロレンツォ。かすったぞ」
ジッ!
「父上こそ脇が甘い。かすめましたよ!」
「なんの! もっと鋭い攻撃を繰り出してこなければ私は倒せぬ!」
「それはこちらの台詞です! 手加減無用!」
ギリギリギリギリ!
二人が接近して鍔迫り合いになった。
「っていうか、ロレンツォお前。さっきわざと攻撃をもらおうとしただろ! 怪我すればオルフィーナに治療してもらえるから」
「ふふ。ばれましたか。でなければ父上の耄碌した剣などかすりもしません!」
「抜かしたな! 私だってお前の攻撃をわざともらうとしたんだぞ! そうすればオルフィーナの治療プラス、息子に酷いことされたアピールできるし~」
「あっ。父上、卑劣!」
「悔しかったら攻撃を当ててみろ! その治療のときにオルフィーナに膝枕してもらうもんね!」
「国王としての、親としての威厳はないのですか! さあ、まだまだ息子に引けを取らぬところを攻撃で見せられよ! 怪我した僕はオルフィーナの腕枕をゲット! DV親父との結婚なんて当然ナッシング~」
「させぬぞ、ロレンツォ!」
「させるか、ルーベン!」
ルーベン国王陛下とロレンツォ王太子が熾烈な戦いを繰り広げている。
いつものように。
だけど決着を見るまでもない。
私が愛している人は、たった一人しかいないのだから──。
「オルフィーナ先生。お茶が入りましたよ」
「ありがとう。トルクヮート君」
トルクヮートが机の上にティーカップを置いてくれた。
眼鏡が似合う知的な好青年。
現在25歳の彼は私の優秀な助手。
そして──。
「国王陛下と王太子殿下は相変わらずのようですね」
窓の向こうのバルコニーを見ながらトルクヮートが苦笑した。
「大怪我をなさったりしないと良いのですが」
「大丈夫でしょう。いつものことなのだから」
私も苦笑してお茶を口に運んだ。
「美味しいわ」
「それは良かったです」
本当に美味しい。
こうやってトルクヮートが入れてくれたお茶を飲むのは幸せなひと時。
なぜなら、愛する人が用意してくれたものだから。
「僕とオルフィーナ先生が来月結婚することを、国王陛下と王太子殿下に伝えなくてよろしいのでしょうか?」
「別にいいんじゃない? だって私、あのお二人とは治療のこと以外で話をしたことは一度も無いんだもの」
それなのにバルコニーでは相変わらず──。
「オルフィーナは王である私と結婚すべき王妃に相応しい女性なのだ! やあ!」
「いいえ! オルフィーナは僕の妻の王太子妃になるべき女性なのです! とう!」
王宮に響き渡るような大声を張り上げながら、勝手な親子喧嘩が繰り広げられている。
正直いい迷惑。
「息子!」
「父上!」
バルコニーではまだ親子喧嘩が続いている。
ルーベン国王陛下とロレンツォ王太子の剣が打ち合わされ、火花が散った
「それにあんな王と王太子では、この国の行く末はだいぶ不安ねぇ」
私はティーカップを軽く回しながらため息をついた。
「二人で異国に移り住むことも考えたほうがいいかしら?」
「オルフィーナが望むのであれば、僕はどこにだって行くよ」
「ふふ。ありがとう」
私はトルクヮートと微笑み合った。
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何卒よしなに。




