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エルミナ・リローデッド:銀河探偵  作者: うしの昴
CASE:EX 1『ネリアの小さな事件簿』
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エピローグ:もう一つの真実

 標準時 09:10|わし座α星系・惑星〈エッグタルト〉・ホテル〈ミルキィ・ラグーン〉


 ――


「うわ……海ってこんな青なんだ……!」


 白いパラソルの下、ネリア・フレイズはサングラスを外して目を細めた。水平線まで続く真っ青な海、ふわふわと形を変える雲、心地よい風。まるで地球の南洋をそのまま再現したような光景だった。


「うえっ、塩辛い……でも、これが地球風の海なんですね。ベガではどこにもないやつです!」


「はい、これがアルタイルリゾートの醍醐味ですよ! 僕の調べでも太鼓判です!」


 パンタが横でふんぞりかえって鼻息を鳴らした。ホログラムであるはずなのに、なぜか日焼け止めを塗る真似事をしている。


「ふふ……人工海洋でもこれだけ再現できるのね。気候も穏やかで、地中海みたい」


 エルミナ・キャスラインはロビーで買ったというハットを軽く持ち上げ、空を見上げた。珍しく日焼け止めの香りも漂わせている。水着姿ではなかったが、少しはリラックスしているようだった。


「エルミナさんが言うなら地球っぽいんだろうなぁ……こういうリゾート、来たことあるんですか?」


「ほとんどないわ。こういうのも、たまには悪くないかもね」


「ですよね! もちろん、わたしも初めてですけど……すごくないですか? リゾート!」


「ええ。誘ってくれてありがとう。……あなたがいなかったら、来ようとは思わなかった。こういうのって、誰かと一緒だから楽しいものなのね」


「うへへ……言ってみて良かった……まあ、かなりエルミナさんのコネだけど……」


 ネリアはパラソルの下のチェアに沈み込みながら、いつものように話題を変えた。


「──そうだ、さっきの話の続きなんですけど……あのストールの違和感から犯人に気付いたとこ、めちゃくちゃ冴えてないですか? 一度閃くと他にも点と点が繋がって来て──」


「ええ、聞いてた。見事だったと思う。そういう切り口で解決するとはね」


「犯人に言い逃れさせない推理を考えるの、大変だったんですから。あれもこれも……って、エルミナさん、もしかして通信の時点で分かってたんじゃ?」


 エルミナはつかの間、空を見上げたあと、淡く笑った。


「“私も2等席だったから、あなたみたいな人の紹介がなければ、あのお店にはなかなか行けなかったと思うの”──この証言をあなたから聞いた時ね」


「なっ……!」


「普通、3人組を見たら同じ客室か、同じ等級のグループだと考える。でも親子とあなたが違う等級の席だと知っているのは、事前にレストランの提案をした時の会話を聞いていないとおかしいでしょう?」


「なにそれ! だいぶ序盤に話した内容じゃないですか!」


「ふふ……でも、証拠を積み上げて答えに辿り着いたのは、あなたよ。私は僅かな助言をしただけ」


 ネリアは膨れっ面で寝転んだが、すぐににやりと笑った。


「まあ……エルミナさんが認めてくれるなら、いっか」


「あら、認めるどころじゃないわ。あなた、少しずつ“観察する目”を持ち始めてる。

 今回、違和感を見逃さなかったのは、とても優秀だと言えるのよ」


「えへ……えへへ……!」


 ネリアが照れていると、パンタが胸の上にぽすっと乗ってきた。


「ふたりとも、ちょっと自慢話しすぎです~。僕、あんまり出番なかったですよ?」


「いやいや、パンタも一緒に頑張ったでしょ。女の子慰めたり!」


「ははっ、そうかな〜そうかも!」


 ――


 その日の午後、ホテルの部屋で、ネリアは明日訪問予定の動物園のパンフレットを広げていた。


「すごい……パンダにサイに、カバにコアラ……ベガ星系じゃ飼育できない動物ばっかり」


「地球の生態系、再現率すごいですね~! 太陽系外だとTOP3に入る豊富さとデータにありますよ!」


 パラパラとページをめくっていたネリアの手が、ふと止まった。


「ん……?」


 そのページには、〈ホンシュー・アイランド〉と銘打たれた展示エリアが紹介されていた。田園のジオラマ、小川と竹林。そこに「幻の動物」として載っていたのは──


「ホンシューエリアのアイドル……ポンタ? 種類は……タヌキ?」


 ページには、まんまるな顔に黒い目の縁取り、ふっくらとした胴体の写真が掲載されていた。


「えっ……ちょっと、パンタ……もしかしてあんた」


「へへ、なんでしょう?」


 パンタはニコリと笑って、ごまかすようにタオルの中へ顔を隠した。


「……いや、待って、このタヌキって動物でしょ!? 犬でもパンダでもなくて!?」


「ふふふ……」


 隣のチェアでエルミナが口元を隠して笑う。


 ──青い空に、波の音が静かに重なる。


 静かな休日の一日が、ふわりと風に乗って過ぎていった。

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