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エルミナ・リローデッド:銀河探偵  作者: うしの昴
CASE:EX 1『ネリアの小さな事件簿』
51/52

第5章:たまにはこんな日も

 

 標準時 13:34|航行3日目・シャトル〈デネブ・ヴィジョンⅢ〉・通信ラウンジ(中継ステーション停泊中)


 ――


 中継ステーションへの寄港は、予定通りに進んでいた。数百人が常駐する程度の小さな施設だが、カラビヤウ通信中継機があり、船内ではこの一時間だけ通信が可能となる。ネリア・フレイズはその間に、最も信頼する人物へと相談していた。


「──そういうわけで、容疑者は四組。今朝までに整理した内容です」


『なるほどね……で、動機の目星は?』


「ぬいぐるみには録音機能が付いてて……シアタールームに忘れたとき、議員たちの会話が録音されたんじゃないかって。だから、それを消すために、もしくは──」


『……よくまとめたわね』


 エルミナの声はいつものように静かで淡々としていた。その背後には、グレイ警部のホログラムが浮かび、複数の捜査案件を並行して処理している様子がうかがえた。


『あなたの推理は、おおむね正しいと思うわ』


「……ほんとですか? でも、誰が犯人でも確信が持てなくて……」


『視点を変えるのよ。あなたなら、もう鍵を握っているはず』


「……視点、ですか……?」


『録音に価値があるとしたら──誰が、それを“活かせる立場”なのかを考えて』


「……“活かす”? まさか、それを──」


 ネリアの目が見開かれた。出航の時間は迫っている。


『エルミナさん、ありがとう! 私──やってみます!』


 ――


 標準時 16:22|船内・プライベートキャビン前廊下


 ネリアは呼吸を整え、軽くノックをした。


「……どなた?」


「昨日、お話ししたネリアです。少しだけ、お時間いいですか?」


 扉が開き、現れたのは──ストールの女性だった。穏やかな表情のまま、ネリアを見つめていた。


「ええ。どうぞ、お役に立てるかしら?」


 ネリアは部屋に入らず、その場で深呼吸を一つ置いて言った。


「実は、もう分かったんです。ぬいぐるみを持っていった人」


「まあ、見つかったのね」


「いえ、まだ。でも──わたしは、あなたが持っていったんじゃないかと考えています」


 一瞬、空気が凍る。女性の表情は変わらなかったが、その眼差しが、かすかに揺れた。


「理由はあります。録音機能付きのぬいぐるみがシアタールームに放置されていた。議員たちの会話が録音されたかもしれない。それに気づいたあなたは──その中身が“スクープ”になると考えたんじゃないでしょうか?」


「なぜ私が、そんなことを?」


「あなた、“記者”ですよね?」


「証拠はあるの?」


 ネリアは小さくうなずいてから言った。


「いくつか、あります。まず──“料理”。あれだけ楽しみにしていたと言いながら、料理を半分近く残していた。しかも、一枚も写真を撮っていない」


「普通の旅行者なら、記念に撮ります。でも、記者なら……カメラを使えば正体がバレると考えるかもしれません」


 女性の笑みがわずかに引きつる。


「それから、ストールです。私はレストランに入る時にショールを預けました。ぬいぐるみが持ち込めないのも、衛生面のほか、スープなどで汚れないようにする配慮。でも、あなたは預けなかった」


「……空調が寒くてね。それでお腹の調子が悪くて……あまり食べられなかったの。だから記録も──」


「それが本当なのかもしれません。でも、もし本当にあなたが犯人なら、きっとそのストールに“ぬいぐるみの繊維”が付いているはずです。犯行の際、それを使って隠して持ち去ったなら……どうか、調べさせて頂けませんか?」


 ネリアは、深く頭を下げた。これは正式な捜査ではない。ただの旅の途中に起きた小さな事件。だからこそ──説得するしかなかった。


 静かな時間が流れ、女性はやがて溜息をついた。


「ああ、もう。降参ね」


 彼女は部屋の奥へと引き返し、ほどなくして、パンダのぬいぐるみを抱えて戻ってきた。


「バレたなら仕方ないわ。……解析中だったけど、本当にただの映画鑑賞だったみたい。不倫をすっぱ抜けるかと思ったのに……最後には返すつもりだったけど、あの子には謝るわ。ごめんなさいね、私も手柄が必要だったのよ。

  ──ただ、こんなに熱心に捜査されるとは思わなかった」


 ネリアは、ぬいぐるみを受け取り、しっかりと胸に抱いた。


「ありがとうございます。──ただ、あの子の思い出を、暗いものにしたくなかったんです」


 ――


 標準時 17:01|船内・ロビー


「パンダさん!」


 女の子がぬいぐるみを受け取った瞬間、ネリアの胸の中に温かい安堵が広がった。


「ちょっとお散歩してたみたい。ちゃんと約束、守ったでしょ?」


「うんっ! ありがとう、お姉ちゃん! 本当に名探偵だね!」


 ネリアは「そうじゃないよ」と口を開きかけて、やめた。


 パンタが肩にそっと前脚を乗せると、静かにうなずいた。


(まあ、いっか。たまにはね)


 女の子の手が振られ、パンダさんが高く掲げられる。その笑顔を見送りながら、ネリアはいつもより少しだけ胸を張っていた。

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