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エルミナ・リローデッド:銀河探偵  作者: うしの昴
CASE:EX 1『ネリアの小さな事件簿』
47/52

第1章:さあバカンスへ!

標準時 06:12|こと座α星系・港湾コロニー〈ヴィルラ・ベガ〉発着ターミナル


――


『チケット、ちゃんと持って来てるでしょうね?』


そう問いかけた声は、どこか楽しげだった。

スクリーン越しに映るのはエルミナ・キャスライン。淡い陽光を反射する髪をゆるくまとめ、車内で頬杖をついている。どこかの惑星で移動中のようだ。


「はいっ、もちろんです!忘れ物ないか十回は確認しましたから。でも、エルミナさんは仕事中なのに……こんな豪華な席まで用意してもらって、一緒に乗れたら良かったのに」


ネリア・フレイズは、いつも以上に浮かれつつも、残念そうに言葉を洩らした。今回は念願の長期休暇を取り、エルミナと旅行に行く計画を立てているのだ。


『いいのよ。このタウ・セチでの案件はあと二、三日かかりそうだし……それに、私はリプリントで移動しちゃう方が楽だから』


嘘ではなかったが、エルミナには一つだけ秘密があった。

彼女はアルクビエレ・ブリッジ航路特有の空間揺れがひどく苦手なのだ。特に今回は、五日間の長旅。寝込んで船旅を終える未来がありありと見えた。


「そういうものかぁ……私、ベガの外に出るの初めてだから、不安だなあ」


今回の目的地──アルタイル・スカイリゾートは、こと座α星ベガの隣、わし座α星アルタイルにある。

とはいえ“隣”とは名ばかりで、その間には約十五光年もの距離がある。この時代でも、片道に五日はかかる長旅だ。そのため、こと座α星系の住民の多くは、他星系に出ることもないまま一生を終える。


『ふふ、そう言うと思って案内人を雇っておいたの。さっき到着したって案内が──』


エルミナが言いかけたそのとき、ネリアの背後に毛むくじゃらのホログラムが現れた。

浮遊する投影機から映し出されるのは、四つ脚の動物型AIだった。


「こんにちは、ネリアさん!キャスラインさんからガイドを任されました、サモエドTYPE-P04です!」


「わっ……! もしかして案内人って、この子ですか?」


ネリアが驚いて振り返ると、サモエドが嬉しそうに尻尾を振っていた。

犬のようなホログラムだが、目のまわりには黒い縁取りがあり、毛色もどこか変わっている。

ネリアは「自分の知らない犬種なんだろう」と一人納得する。


『そう。建設中止になったサンサーラ施設に配属予定だった子なの。当局が持て余してたから、ちょっと借りてきたのよ』


ネリアは「なるほど」と頷くと、サモエドの顎にあたるあたりの空間を、そっと撫でてみせた。


「この子がいれば寂しくないかも。席から案内役まで、何もかも用意してもらっちゃって……

 アルタイルで合流したら、雑用は私めになんなりと仰せを!……なんちゃって」


ネリアが召使いの真似をして、大袈裟に一礼する。

エルミナが微笑んで首を振るのと同時に、ターミナル内にアナウンスが響いた。


『トライスター・ライン〈デネブ・ヴィジョンⅢ〉ご搭乗のお客様は、ゲート3よりシャトルへお進みください。アルクビエレ・ブリッジ航行中は通信機器をご利用いただけません。お急ぎのご用件がございます場合は、お早めにお済ませください──』


『そろそろ時間みたいね。それじゃあ、向こうでまた会いましょう。何かあれば、中継駅で連絡して』


ネリアはエルミナに手を振りながら通信を切った。

もう一度、チケットやキャッシュデバイス、キャリーケースを確認すると、ひとつ息を吸い、ゲートの方向へ向き直る。足元のサモエドに語りかけた。


「よーし。サモエドくん、行こうか。初めての星系外、楽しみだなあ……よろしくね!」


「はいっ! アルタイル星系の見どころはバッチリ学習済みですので、お任せください!」


ネリアは期待に胸をふくらませながら、意気揚々と歩き出した。

──もちろん、この旅路で少しだけ厄介な事件に巻き込まれるとは、夢にも思っていなかった。


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