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エルミナ・リローデッド:銀河探偵  作者: うしの昴
CASE:6『逆行のエピタフ』
21/52

第2章:時間を遡る船

標準時 1:00 |辺境宙域・カンマニエ港〈ノウティルス級超光速輸送船レトロヴァーサ〉到着ベイ


――


 港湾惑星カンマニエ──人類生活圏の辺境に位置するこの星は、まさに星間開発の前哨基地であった。

 この先、居住可能宙域は極端に減り、開拓者たちはこの港から宇宙の広野へ旅立つのが常であった。


 3光年先の開拓惑星ダラッタイアから輸送船〈レトロヴァーサ〉が帰還した時、港は騒然としていた。

 その中心には、金色の長く美しい髪をした少女が横たわっていた。その横顔はまるで眠っているように穏やかに、そして──満足そうな笑みを湛えていた。


――


標準時 1:20


 再出力から10分間足らず。エルミナ・キャスラインは検疫エリアの前に立っていた。

 人工皮膜の再生処理はまだ完全ではないが、表情にはそれを微塵も感じさせない。


 目の前にあるのは、自分自身の遺体。

 胸までかかる美しい髪を耳にかけながら、その顔を覗き込む。


「……おかえり、って言うべきかしら」


 彼女は軽く息を吐くと、自分と瓜二つの遺体の横にしゃがみ込み、検死官から簡単な報告を受け取った。


「死因は刺し傷です。胸に一カ所──これが致命傷です。

 ただ……死亡時刻は、“推定不能”としか言えません」


「そうでしょうね。航行中に殺されたなら、“時間”が折れているもの」


 この〈レトロヴァーサ〉は、超光速航行において極限の性能を持つ輸送用の巡航船だった。

 この船は超光速航行により、相対的には過去へと向かう。

 すなわち、“まだ出発していない時間”に、航路を往復したエルミナの死体だけが届いたのだ。


 エルミナは、傷口の周辺に目を凝らす。


「……この角度、深さ、刺突力。奇妙な捻れもある」


 細い指が、わずかな損傷をなぞる。


「おそらく左手……それも義手。人工筋肉系の保持動作ね。

 生身では出ない歪み方をしているわ」


 検死官が驚いたように眉を上げる。


「でも、乗員記録には義手の申告は……」


「逆に、それが怪しいのよ。

 義肢やサイバネティクスは、この宙域じゃまだ差別や制限の対象。

 “義手であることを隠す理由”があるなら、むしろ黙ってる方が自然」


 彼女は立ち上がり、静かに呟いた。


「船の中に、まだ犯人がいる。

 ……殺された私を、未来から送り出して」


 その瞬間、すべてがつながった。


「この便の出発は10分後。乗るわ。乗って確かめる。

 今から、未来の私の“死の原因”を突き止める」


 驚いた検死官が声を上げる。


「でも、それは……危険すぎます!」


「いいのよ。今回は──もう“死んだこと”が確定してるんだから」


 皮肉とも達観ともつかぬ笑みを浮かべ、エルミナ・キャスラインは搭乗ゲートへと歩き出した。

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