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エルミナ・リローデッド:銀河探偵  作者: うしの昂
CASE:3『高慢なるカッシオペー』
10/46

第4章:鎖を解きほどく乙女


標準時 18:57|コロニー〈アロー426〉 ドック区画周辺


――


 整理好き、潔癖、慎重。

 そして、犯行には必ず“順序”があった。


「吊るす順番、焼印の部位……全部、“決まったとおり”じゃないと気が済まねえタイプだ」


 ウゴは港湾ドックの作業員たちに、次々と聞き込みを続けていた。


 見落とされがちだが、すべての現場に共通していたのは、“被害者の遺体が搬入された形跡”だった。

 殺してから運ぶ──それも、手慣れた手つきで。


「ああ、そういえば。消毒液の匂いがしてた。グローブ二重にしてたし、ちょっと変だった」

「荷物の積み込みのとき、944便のことを聞かれたけど……地球便だよな、あれ」

「妙に几帳面で……ああ、確か背丈は──」


 ツァオツァオが鼻を鳴らし、ゲート42番の前でぴたりと足を止めた。


「……426コロニー、944便。これが、順番通りに並んだ“次の星”ってわけか」


 ウゴは端末を開き、エルミナに音声メッセージを送った。


「聞き込みで一人浮かんだ。潔癖、几帳面、そして地球行き944便に執着。背丈なんかも分かってきた。

 お前のGaiaコードとやらと、こっちの番号──合ってるか?」


――


標準時 19:06|コロニー〈アロー426〉 通信ロビー


――


「……ええ、合ってるわ」


 エルミナは返答しつつ、画面に目をやった。

 彼女もすでに、同じ答えに辿り着いていた。


 その手元には、太陽──SolのIDコード《42694400000000001》が表示されている。


「426:コロニー番号。944:発着便。0000000001──それは……」


 一桁ずつ読み直しながら、エルミナは確信する。


「残りは“空白座標”じゃない。これは“宇宙空間”にいる物体のアドレス」


 そして末尾の001──それは、この星域で割り振られる犯罪分類コード。

 001は「国家反逆に相当する罪」を示していた。


 エルミナはすでに、グレイ警部と944便の乗客名簿を洗っていた。


「──犯人の真の狙いは、おそらく“太陽”に相当する人物。それ以外はカモフラージュの殺人だったのよ」


――


標準時 19:09|コロニー〈アロー426〉 ゲート42番前 管制フロア


――


 通信を終えて間もなく、エルミナがゲート前に姿を現した。

 彼女は小型端末を手に、まっすぐウゴへと歩み寄る。


「間違いないわ。次の標的は──アリア・オーバス」


「名前に覚えが?」


「ある。地球政府から派遣された財政監察官。元はプロキシマの出身だけど、いまは地球本局への復帰が決まっていて──今日、944便で発つ予定だった。

 一部では、“プロキシマを裏切って地球に尻尾を振った”なんて言われてるわね」


 ホログラムに表示された人物記録には、“財政改革計画D-9に基づく人員整理”の文字が並んでいた。

 その対象者一覧の中には、ウゴの記憶にもある多くの顔があった。


 ウゴはふっと息を吐き、ポケットから銀色のスキットルを取り出してウイスキーをひと口含んだ。


「思い出した。少し前に鉱山なんかで大量リストラしたから、暴動が起こりかけてたんだ……そりゃあ、恨まれるわけだ」


「そうね。でも、断罪のために他の4人を巻き込んだ」


「いや、もしかしたら──自分が“英雄”のつもりだったのかも知れねえが……とにかく、イカれたこのクソ野郎を止めねえとな」


 ウゴは端末を操作し、整備員登録リストの末尾から復元された一枚の顔写真を見せた。


「ゼレク・カイン。元鉱山技師。2年前、職を失ったって記録がある。

 酒浸りになって、妻とも離婚したそうだ」


 ──


 グレイ警部に報告を終えてゲートに目をやると、944便の最終搭乗チェックが始まっている。


「あんたは毎日難事件を解決してるそうだが、まさに英雄って感じだな。……少し憧れちまうよ」


 ウゴが酒を含みながら問いかけると、エルミナはふっと鼻で笑って返した。


「私は英雄でも、ペルセウスを待つ乙女でもないわ。

 でも、絡みついた鎖があるなら、私はそれを解きほどいてみせる。──必ずね」


 そう言って、エルミナは冗談めかして微笑んだ。


――


標準時 19:14|コロニー〈アロー426〉 ゲート42番 搭乗通路前


――


 ふたりが通路を進むと、警備ドローンから報告を受けたグレイ警部のホログラムが、滑るように歩いてきた。


「偽造IDを使っていましたが、ゼレクと思われる人物を確保しました。現在取り調べ中です。

 オーバス氏の安全も、すでに確保済みです」


 エルミナとウゴは顔を見合わせると、お互いに小さく微笑んだ。


「今度は見落としてないといいけど」


「なに、もし俺らが見落としてても──こちらの名探偵さんが見逃さんさ」


 ウゴは傍らの大型犬を見やった。

 ツァオツァオが、大きなあくびでそれに応えた。

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