表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルミナ・リローデッド:銀河探偵  作者: うしの昂
CASE:1『知の再装填』
1/46

第1章:甦る探偵

 捜査中に謎の死を遂げたエルミナは、自らの死体を手がかりに、密室の真相を解き明かす。

 標準時 10:12|GHO通信中継施設〈サンサーラ・ハブ・ステーション〉再出力室


 ――


 視界が徐々に光を捉え、世界が再び彼女を迎え入れる。


 エルミナ・キャスラインは目を開いた。透明な再出力ポッドの内側で、淡い金髪が美しく漂っている。


 まだ体温も記憶も安定しないうちに、彼女は無言で固定具を外し、流れるような動作で衣服に腕を通した。


「お目覚めですね、キャスラインさん! バイタル、正常値内です! まつ毛は流行に合わせて基準値より6%増量しておきました!」


 元気に吠えるような声とともに、白毛のふわふわしたホログラムが出現する。施設常駐の支援AI──通称サモエド。モデルは犬、名前に反して種類は曖昧だ。


「……再出力の時刻、予定よりだいぶ遅い」


 エルミナは腕を動かし、情報端末を起動する。英明な頭脳は、すぐに状況を推測した。


「私、一度死んだの?」


「はいっ! 標準時で2時間前に、お亡くなりです! 詳細は後ほどグレイ警部から──」


「死因は?」


「脳機能停止。おそらく酸素中毒、または窒息。今回の事件の被害者と、同じようです」


 エルミナは一拍の沈黙のあと、無言で髪をかき上げた。

 死ぬことは、すでに何度も経験していた。自分の死すら、彼女にとっては些末な出来事に過ぎなかった。


 再出力リプリント──それは、選ばれし者だけに許された“再誕”の権利。

 保存された情報から肉体と記憶を再構成し、長距離移動にも用いられる。


 人類が2兆人に達したこの時代でも、その権利を持つ者は1万人にも満たない。


 銀河人類統括機構〈GHO〉直属の、特別独立探査官──エルミナ・キャスライン。彼女もまた、その一人であった。


「調査予定先は……〈サレリス・プラント〉だったかしら」


「はいっ! 高級野菜の水耕栽培施設です! 連盟貴族向けの! 簡単な調査だったので僕は待機でした!」


「そして、私は死んだ……という訳ね。サモエド、今回は一緒に来て」


「はい! お供します! 大したことはできませんが!」


「警戒は必要ね。さて、前回の私はどこまで推理してたのかしら……」


 ――


 〈サレリス・プラント〉中枢セクションに到着したエルミナの前に仮想警察執行官──グレイ警部のホログラムが現れた。

 銀髪の老紳士の姿を取ったその仮想AIは、相変わらず折り目正しく敬礼してみせる。


「再出力、お疲れ様です。おかえりなさい、キャスライン探査官」


「挨拶は省略していいわ。事件は?」


「被害者は二名。どちらも同一施設内、同様の酸素中毒による死亡。うち一名が──」


「私、ね」


「はい。事故か事件か、区別がつかず、念のため検証してから再出力を申請いたしました」


「妥当な判断。……状況は?」


「まずは現場をご覧いただきましょう。ここは“安全”です」


 エルミナはグレイ警部のホロ投影にうなずき、ゆっくりと歩き出す。

 その背中には、リプリント直後とは思えない静けさと自信があった。


「“また”死ぬような失敗はしないわ。少なくとも、今回は」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ