三十話 …………戻ろう2
「…………」
散々ビビらされた挙句、過去編を打ち切りにされた虎野郎はとうとう言葉も出なくなったのか。
遂に、絶望に満ちた表情で黙り込んでしまった。
「えぇ!?師匠、普通そこで止めます!?
せめてもうちょっとだけでも聞いてあげましょうよ!?」
そして、そんな野郎の肩を持つピアンテ。
まあ確かに、彼女ならばきっとそうする……もっと正しく言えば、そうツッコむのは分かっていた。
だからこそ、俺はすぐに反論する。
「あのさぁピアンテ、よく考えてみなよ?コイツはこの町の人達をずっと苦しめてた悪者なんだよ?
例え、それに何かしらの理由があってんだとしても、やられた側からしたら『それがどうした!』って話だとは思わない?
じゃあ理由があったら何やっても良いの?
仕方ないの?それで許すの?
ていうか、それだったらパサレーが同じ事をしても良いって事になるじゃん?彼女だってコイツに苦しめられてたんだから、それなりに納得出来る理由はあるはずだよ?
どうピアンテ?
それでも君は、コイツの話を聞いてやろうっていうの?」
反論は以上だ。思っていた事は全部言った。
だから本当の本当に、これ以上何も言うつもりは無い。
すると、それを聞いたピアンテは……
「なるほど…………それもそうですね!!
じゃあ師匠、帰りましょうか!!」
割にすんなりと俺の意見を受け入れ、さっさと帰る準備を始めた。
……俺が言うのもアレだけど。
その思考はちょっと、サイコパス気質があるように感じる。
まあ、それはそれとして。
その後で俺達は虎野郎に背を向け、それが当たり前かのようにしてそのまま帰宅したのだった。
……というワケで。
結果として、虎野郎には恐怖心を与えるだけ与えまくって、形的にはそのまま放置しちゃったも同然なんだけど……大丈夫かな?
また、悪さをしないかちょっとだけ心配なんだよね。結局、言質も取ってないしさ……まあでも、流石にやらないか。
もう裏ボス的存在はいなくなったんだし。
あそこまでコテンパンにしてやったんだし。
っていうか、もしまた悪事を働こうとしたのなら、その時もまた俺がシメてやれば良いのか。
うん、それもそうだな……じゃあ気にしなくていっか!!
「で、ですがセイントソード様!!
あの者の一族は、今までもずっとこの町を守り続けて来たのです!!
ですからもう一度!!もう一度だけでも機会を与えてやっては頂けませんか!?
今度からはあの者も心を入れ替えて……」
「一度ダメだったんだから二度目は無いよ。
だってそれだと、『じゃあ一度だけなら何をやっても良いのか』って話になっちゃうとは思わない?
だからせめて、もう一度やる気ならしっかりと罰を受けさせた後にすべきだと俺は思うよ 」
「で、ですが…………しかし今一度。
今一度やってみなければ批判も何も出来ないというものです。セイントソード様もそうは思いませんか?」
「その結果がこれでしょ?じゃあそうは思わないね」
「…………」
「あと、さっきから何か勘違いしてるみたいだけど。
町長さん、アンタもアイツらとグルだったんだ。
だからしっかりと罰を受けてもらうのは、アンタも一緒だからね?」
「……人間風情が、獣人の私をコケにしてタダで済むと」
「それは俺への挑戦と受け取って良いのかな?」
「ヒ、ヒィィ……!!決してそんな事は御座いません!!セイントソード様!!どうかお許しを……!!」
「良いよ。アンタもちゃんと罰を受けてくれるならね」
「……はい」
そうして俺と、ある者との話し合いが終わり。
町長の家を後にした俺達は漸く、パサレーの元へと向けて歩き出したという所だった。
彼女よりもこちらを優先した理由については、上記の会話から察してくれると助かる。
……いや、やっぱり簡単にでも説明しておこうか。
実は、あの虎野郎とここの町長はグルだったらしく。
それで虎野郎は、今の今まで素晴らしい地方政治の裏方を務める事が出来ていて。
一方で町長は、そのおこぼれに与れたりと……それはそれはもう、互いにズブズブな関係だったようだ。
で、俺はついさっきそれを知ったから。
あの虎野郎と一緒に町長も、この町の……いわゆる自警団?的な組織のいる所で、それ相応の罰を受けさせるため話し合いに来たってワケ。
結果はさっきの会話からも分かる通り、勿論平和的に終わった。町長はちゃんと罰を受けてくれるってさ。
ちなみに虎野郎の方も、もうすぐ自警団の人達が身柄を取り押さえに行く頃だと思うよ。少し前にちゃんと話しておいたからね。
いや〜それにしても、町長さんが話の分かる人で良かった…………とは全然思っていない。
アレも本当、『ザ・小物』みたいな奴だった。
だって調子に乗ろうとした割にはすぐビビるし……でもそのクセ、悪事にはばっちり手を染めてるんだよ?
マジで何だよアレは……羊っぽい獣人だったけど、全然ホワイトじゃなくて心の中まで真っ黒じゃん……
アレこそバケモノだな……色んな意味で。
「師匠〜!!言われた通り、町長を自警団の人達の所まで送り届けて来ましたよ〜!!」
とか何とか思っていたら、ピアンテが戻って来た。
俺と別行動していた理由は既に彼女がバラしてしまったから、それについての説明は省略させてもらおう。まあそういう事なのだ。
「ピアンテ、お疲れ様。
じゃあ今度こそパサレーの所に……うっ!?」
俺は彼女に労いの言葉をかけ。
そして、その直後に鼻を両の手で覆った。
「…………うぅ、ぐすん、ぐすん」
すると、そんな俺を目にした途端に、ピアンテの瞳から大粒の涙が溢れ出したかと思うと。
「うわ〜ん!!酷いですよ師匠〜!!
私だって分かってますよ!!
自分がニオってる事くらい!!
でも、師匠がまずは悪い奴を懲らしめないとっていうから、恥ずかしいのを堪えて行って来たって言うのに……
そんな態度って……あんまりじゃないですか〜!!
うえ〜ん!!うえ〜ん!!」
次の瞬間には大泣きを開始してしまった。
まあ確かに、そう指示したのは俺だ。というか泣かせてしまったのも俺だ。
そこは本当に申し訳なく思っている……思ってはいるけど!!
でも、仕方ないだろう!?
今のピアンテの服は、すっかり乾き切ってしまっていて。だからつまり、それはより刺激的なスメルに変わっていて……
まあ、それ以上は言わないけど!!
とにかくそんな感じなんだからさ!!
「うわ〜ん!!うわ〜ん!!
信じてたのに!!信じてたのに〜!!
師匠〝だけ〟はそんな事しないって、信じてたのに〜!!」
そう心中で言い訳する俺の前では、未だにピアンテが泣き続けている。しかもそのついでに、俺の心に刺さるような事ばかり喚いてもいる。
そして、その言葉から察するに。
彼女は自警団の人達といた時にも俺と同様、何かしらのリアクションを見せつけられてしまったのだろう事は容易に推察出来た。
まあでも、そうは言ってもね……ほら、ココの人達って殆ど獣人じゃん?
そういう人達って嗅覚が鋭いみたいだし、彼等にとっては拷問レベルだったんだろうし……って考えると、そっちはマジで仕方ないと思うんだよね。
だから、自警団の人達を責めないであげて欲しいんだ……責めるなら俺だ。俺一人にしておいて欲しい。
✌︎('ω')✌︎