二十四話 さあ!ぶっ飛ばしに行こう! 2
その後、どうにかピアンテを泣き止ませる事に成功した俺は、思いの外沢山の情報を持ち帰って来た彼女からターゲットについて色々と教えてもらった。
まず最初に言っておくと、間違い無くその魔物はこの場所にいて、またそれは邸宅の最上階兼、例の馬鹿野郎の自室内で主人を守るようにして存在しているそうだ。
それとソイツ、どうやら馬鹿野郎が黒魔術によって復活させたらしく。
またそれと同時に使役し、自身の部下のようにして扱ってもいるんだそうで、以前より魔力や攻撃なんかが強力になっているのというのも、恐らくだがそれが原因だと俺は思う。
大方その際により強くなるよう、代価や生贄を高価な物とか、希少な物にしたんだろうよ。
そんな事、容易に想像出来るさ。
だってそれをした奴は大馬鹿は大馬鹿でも、同時に金持ちでもあるんだから……まあ、そんな奴に興味なんて無いから、どうでも良いけどね。
でも、魔物の方は別だ。
だってソイツは……
地獄より舞い戻って来ると同時に死を超越し。
またその時、御相伴に与ろうとして自身にしがみ付いた亡者共全てを受け入れた事によって体は大きく、醜く膨れ上がり。
そうして恐ろしいまでの力を手に入れた、本来この世に存在してはならないモノ……
『百魔集合体・ドラシェン』っていう。
まさに俺が求めていた、裏ボスそのものだったんだから。
ピアンテが帰還し、情報も全て俺に伝わった。
なら、後にやるべき事は一つ……悪を滅ぼし、この町の人々を魔の手から救い出す!!
つまり、行動開始って事だ!!
「よしピアンテ、行こう!!」
「グス……はい師匠!!」
さっき泣いていたせいかピアンテはまだ鼻がグズグズしているみたいだけど、まあとにかく。
俺達は邸宅に駆け出して行った。
そうして門前に迫ると、それを蹴破り。
「えええぇ!?師匠、何やってるんですか!?」
次に近付く大きな玄関扉も同様、思い切り蹴り開けてやった。
「ちょっと師匠!?本当に何してるんですか!?
私てっきり、もうちょっと静かに潜入するものだと思ってたんですけど!?師匠〜!?」
さっきから背後でピアンテが騒いでいる。
まあ確かに今の行動は全てアドリブで、彼女には一切知らせてなかったから、そうなるのも仕方ないとは思うし、何だったらほんの少しくらいは俺も申し訳ない気持ちでいる。
でも、しょうがないじゃん?
ここにいる大馬鹿野郎が今までしてきた事を鑑みれば、むしろそうしてやらねばならないような気がしたんだ。
だから今この瞬間も、勿論これからも。
金を積んで出来た邸宅とはいえそこでお上品に行動してやるつもりなど更々無い。
というか、もう全部ぶっ壊してやるくらいの気持ちで突き進ませてもらうよ!!
「な、何だお前等は!?」 「侵入者!!侵入者だ!!」
すると、まあ派手にやったので当たり前と言えばそうだが、俺達は秒で使用人達に見つかってしまい。
「黒魔術・死霊召喚!!」
そしてこれもまた予想通り、使用人達は一斉に戦闘準備を始めた。
しかもそれは、刺青、手袋、スーツ、懐中時計、等々。使用人達の服や身体の随所に散りばめられた魔法陣を使用した、主人直伝……かもしれない黒魔術系統の召喚魔法であり。
それによって瞬く間に魔物だらけとなった邸宅内にて、俺達は一瞬にして囲まれてしまうのだった。
「…………はぁ」
下の者にこうもきっちりと伝授しているんだ。
ならきっとコイツらのボスには、黒魔術で人々を苦しめた罪悪感なんてものは全く無いんだろうなぁ……
そう考えるとどうにも堪らず、俺はため息を吐かずにはいられなかった。
「師匠、どうするんです!?」
そんな俺の隣では、ピアンテがやっぱり騒いでいる。
でも泣いたり叫んだり、逃げたりしようとする様子は無い。そして漏らしたりするような気配も無ければアンモニア臭が立ち込めているというような事もまた無い。
「おお、ピアンテもやっぱ成長してるんだねぇ……よしよし」
それを見た俺は弟子の成長を実感し、喜びのあまり気が付けば彼女の頭をナデナデしてしまっていた。
「師匠〜!?今そんな事してる場合じゃないですって!!ここからどうするつもりなのかって聞いてるんですよ〜!?」
すると、ピアンテからはそのようにして突っ込まれてしまった。
だけどそう質問されてもねぇ、何も答えられないんだよね。だってまだ何も決めてないんだもん。
というか、ぶっちゃけ言うとスタートから既にノープランだったし。
さて、困った困った。
どうしよう…………なーんてね。
こんなのも予想出来ずに俺が突っ走って来たワケがないでしょ?
逆だよ逆。
コレで良いんだよ、コレで。
「まあまあ、少し落ち着きなよピアンテ。
確かにノープランではあるけど、俺だって何も考えてないワケじゃないからさ……」
そう言って俺はお手入れ済みの、背中の剣を取り出す……
するとどうした事だろう。
黒魔術によって召喚されたはずの死霊達、もといアンデット系モンスター達は。
自分達が不死である事を忘れたのか、俺が武器に手を触れた途端に逃げ出して行ってしまった。
とはいっても、アイツらは不死であって不死身ではないから、この世から消滅させる事自体は全然可能だし。
それに、俺の別名『セイント・ソード』からも何となく察せたかもしれないけど、俺は聖属性を有している……つまり、アンデット系モンスターにとって俺は天敵なんだ。
だから、アイツらが逃げるのも普通……というか、当たり前なんだよね。
ま、逃がす気は無いけど。
「ほいっ!聖剣の指揮者!」
そこで、俺は剣を指揮者のようにして何分の何拍子とかは分からないけれどとにかく振るい、逃げる魔物達へと向けてその光を当てるべくひらひらとさせた。
ちなみに言っておくと、コレ別に技でも何でも無い。
ただ本当に剣を振っているだけだ。勿論技名も今考えた。
そして、それは一見するとふざけているように見えるかもしれない……けど、その光を浴びた魔物達が端から消滅し始めるのを目の当たりにすれば、きっと分かるはずだ。
それで事足りるってコトがね……ほら、今みたいにさ。
……と、いう事で呆気無く魔物達はあの世へと還って行き、邸宅に残されたのは俺とピアンテと、ポカンとしている使用人達だけになった。
「じゃあピアンテ、行こうか」
「え、あ……は、はい!!」
それを見届けた後、俺はピアンテの手を引いて歩き始める。勿論使用人達はフルシカトしてだ。
というか、まだコイツ等は動かない……いや動けないようだし、そんなモンをわざわざ一人一人倒していくつもりも無いので、ここはひとまず放っておいて正解なんだと思う。
……ってか、多分コイツ等。
もうまともな攻撃手段が無いだろうからね。
さっきから見ていたけど、どうやら黒魔術以外の術をあまりよく知らないみたいだし。まあ、あくまでも従者は従者って事なんだろう。
だから、コレで良いのさ……
「さ……流石、師匠です!!
ピカピカに磨いた剣で、あっという間に魔物達を倒しちゃいましたね!!
もしかして、師匠の考えていた事ってコレだったんですか!?」
ちなみに、その際ピアンテが発したそんな言葉を受け。俺はついつい苦笑してしまっていた。
とりあえずエタりはしないので安心して下さい!