十九話 また、旅に出よう!!
まず結果から言うと、魔王は病気でも何でも無いから大丈夫との事だ……でも。
「まあ強いて言えば、これは恋のやま」
「おい止めろトロール!!余計な事を言うな!!」
「す、すまない。危うく口を滑らせてしまう所だった……」
ブラックドラゴン君と、魔王の様子を見に来たトロール君がそんな事を言っていたような気がするんだけど、本当に大丈夫なのかな……?
と、まあそんな風にして俺も結構心配していたんだけど。
でも暫くしたら魔王の赤面も治り、普通に受け答えが出来るようになったからそれは杞憂だと分かった。
(ちなみにピアンテはね、あたふたしまくってて正直あんまり使い物にはならなかったかな。まあ本人に言うとまた凹んじゃうから言わないけど)
そして、元気になった魔王と一緒に俺達は。
紅茶とドームケーキを食べて、文句を言う代わりにまた幾つかの情報を『極秘!裏ボス情報メモ』に書いてもらい。
それでまた、城を後にして裏ボスを探す旅を再開する事にしたんだ。
……まあ流石の俺も元病人っていうか、いや正確に言えばそうじゃないんだけど……とにかく。それに近い状態だった魔王に、いきなりクレームなんて入れられないからね。今回は我慢しとく。
「じゃあ、また来るよ」
「本日は色々とありがとうございました!!」
という事で俺はいつも通り軽い挨拶を。
初入城のピアンテは元気良くそう言って頭を下げ。
「セイントソード様、またいつでもお待ちしております」
「お二人の旅の成功を祈っております。それではまた」
それ見たトロール君、ブラックドラゴン君もまた深々とお辞儀するという。
いつも通りのやり取りを終えた俺達はまた、歩き出した。
まあ、さっきも言ったけどどうせまた来るからね。
だからもしまた文句があれば、それはその時に言おうと思う。
「ま、魔王様!?」
……そんな時だった。
急に背後からトロール君の声が聞こえてきたかと思うと、突然魔王が城から飛び出して来て俺の手を掴み止めたのは。
「ええと、その…………旅の途中で見つけた綺麗な花ばかりに気を取られてないで、さっさとまたココに帰って来なさいよ!」
「え?」
でも珍しく城の外まで来たというのに、魔王はよく分からん事を話したかと思うと俺の返事も待たず、またすぐに城の中へと戻って行ってしまった。
「…………」 「…………」
「…………」 「…………」
ポカンとする俺達と、そして魔物二匹。
とはいえ、ずっとそうしているワケにもいかないので。
「……ピアンテ、行こっか」
「そ、そうですね」
俺達は魔王のせいで出来た微妙な空気を身に纏ったまま、また裏ボス探しの旅を始めるのだった。
「なあブラックドラゴン……魔王様の言った、『綺麗な花』というのは……」
「ああ、十中八九女性の事を比喩して言ったのだろう。
しかも、帰って来いとも言っていたぞ?それはもう、愛を伝えているも同然なんじゃないか……?」
「……そうか。あの魔王様が。
今まではそのような事、口にも出せなかったというのに……成長なされたんだな……」
「うぅ、魔王様……立派になられて……」
だから当然、客人のいなくなった魔王城の門前で、そのような会話がされていた事を俺は何も知らない。
それともう一つ。
「……………………私がもっともっと強くなれば。
アイツは、私の事だけを見ていてくれるのかしら……?」
魔王がそんな呟きをしていた事も、俺は勿論知らなかった。
魔王城を後にした俺達が次に向かったのは、俺が魔王討伐の旅の途中で五つか、六つ目に訪れた町……だったかな?
いや、村だったかも……まあ良いや。
とにかく、そこが目的地だ。
だから俺達は山を越え谷を越え、その他諸々を乗り越え、歩いて歩いて歩きまくり、その場所を目指し突き進んだ。
……もう少し詳しく言うと。
怪鳥の巣窟となっている『ガルダ山脈』という山脈では、俺達の上空を常に旋回し続けている鳥型魔物から木の下石の下と身を隠しながらも何とか移動し。
その後に広がる、横幅が町一つ分はあるかという程長い『マッカラ大河』では。
大きな魚型魔物の魚影に怯えたピアンテが俺に抱きついて来たせいで二人共バランスを崩して川に落ち、なかなか大変な目に遭った。
……流石の俺も、水中で戦うのなんて久し振り過ぎてさ。
そして、マッカラ河川を越えた先にあった渓谷、『ドラゴンバレー』では、名前の通り強力なドラゴンが多く棲息していて、常に周りを警戒しつつ移動しなければならなかったのがなかなかの苦痛だった。
ちなみに、ピアンテが漏らした回数の最も多い場所もココだったと思う。
それを言うとまた泣くから、彼女には口が裂けても言えないけど……実を言うと、さっき言った『なかなかの苦痛』の三割くらいはピアンテのお漏らしが原因だ。
そのせいでしょっちゅう止まって、洗濯をしなきゃいけなかったし。最後の方は常にアンモニア臭に包まれてたし。
あとは、途中で下着の予備がなくなって、魔物の皮でそれを作らないといけなくなったりとか。
勿論俺も手伝わされたりとかもしてたからね。
まあぶっちゃけ言わせてもらうと、クソ面倒臭かったよ。
……とまあ、それはそれはもう、流石の俺も疲れを感じる程の旅路だったんだ。
まあ、その場所自体も魔王城から結構離れてたし、体力面でもそれは普通に疲れるものではあったんだけどね。
でも、良い事もあった。
それは弟子の成長をこの目で見れた事だ。
この辺りの魔物ともなるとなかなか手強くて、正直ピアンテは大丈夫か、ついて来れるか。結構心配だったんだけど……
それでも、彼女は何とか喰らい付いてきて。
時には戦い、時には追い払い、時には逃げ、時には漏らして……と、そんな風に過ごしているうち。
レベルも上がって、色々な魔法も覚えて。
肉体的にも、技術的にもピアンテはかなり成長したんだ。
今だと、少なくともこの世界の戦闘職の中では中級者くらいにはなってるんじゃないかな?恐らくだけど、でも俺がそう思うんだから大体当たってるとは思うよ?
「喰らえ!!業火変化球!!」
そんな彼女は今、タイリクマーマンとかいう陸棲型の魚人のような魔物と戦っている最中だった……のはさっきまでの話で、もう倒してしまったようだ。
「やったやった!!やりましたよ師匠!!
私、始めて自分だけの力で魔物に勝利しちゃいました!!」
うんうん、流石〝一応は〟俺の弟子。やっぱり確実に成長はしている。
これが少し前までは初心者のひよっこ冒険者だったと思うと、何だか感動するようなしないような……とにかく、色々と思う所があるよね。
(ちなみに今ピアンテが使用した火変化球というのは、俺が元いた世界の野球の話をした後に、いつの間にか彼女が編み出していた技の一つだ。もしかするとピアンテは魔法開発的な方向の素質があるのかもね。
戦闘センスは微妙だけど……)
とはいえ、ピアンテが勝利出来た要因には。
『魔物が俺にビビっていたから』ってのがあって、しかもそれはかなり大きな理由の一つなんだけどね……
まあ、こればっかりはどうしようもないんだけど。
でもこのままだとピアンテがそれを自分の実力と勘違いしてしまうかもしれないし、どうしたもんかなぁ。
今度、『戦闘能力をコントロールして抑える』みたいな、某大人気作品っぽい特訓でもしてみようかな?
……まあそんな方法あるのかとか、そもそも可能なのかとか、その辺りの事は全然分かんないんだけどね。
「おや……師匠!あそこに何か開けた場所がありますよ!次の目的地かもしれません!」
とか何とか考えていたら、やっと目的の場所が見えてきたようだ。
まだ確定ではないけど。
とはいえ、そうでなくとも休憩は出来るはず。
「よし!じゃあさっさと行って、今日はそこで身体を休めよう!久し振りの長旅で結構疲れちゃったからね」
「おお!良かった……これでやっと、ゆっくり休めるんですね!ならこうしちゃいられません!師匠!早く行きましょう!」
と、いう事で俺達は。
逸る気持ちを何とか抑えつつも、足早にその場所へと向かってまた歩き出した。
感想どころかポイントもゼロ…ふえ