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十話 わからせてあげよう……

そうして幕を開けた、俺と赤髪野郎の戦い。


とは言え、奴にとってはそうなのかもしれないけど。

俺にとっては『教育』みたいなものでしかなく。


それはすぐに決着が付いた。


結果は勿論、俺の大勝利だ。

剣技も魔法も実力も、全て見せつけた上での勝利だからそう言い切ってしまっても良いくらいにはだ。


当然……アスファルトだっけ?

お見通しだったそんな名前の奴の援護射撃も、まずそれをさせる隙すら与えずにコテンパンにしてやったよ。


これからする予定の話が、素直に聞けるように〝敢えて〟ね。


そこで俺は振り返った。

視線の先には地に伏した赤髪野郎がいる。


「どう?まだやるかい?」


「クソ……バケモノかよ……」


でも、まだそんな事を言える余裕はあるみたいだ。


少しお仕置きが足りなかったかな?

とは思ったけど、これ以上やると気を失いかねないので話し始める事とする。


「じゃあ、そんな化物から三つほど忠告しておいてあげるよ。


まず一つは、『俺の手を煩わせるな!』って事。

全く、こんな所にまでピアンテを連れて来て、ストーキング……じゃなくて追跡するのが面倒だったんだからね?」


「いや、それはお前が勝手に……」


「二つ目は『他人様に迷惑を掛けるな』だよ。

別に何も、女の子を盾にしたからとかじゃない。


それが誰であろうと、その犠牲の上に成り立つ結果なんて『それが無いと自分達の実力だけでは無し得る事が出来ませんでした!』って言ってるようなものだと思わない?そんなものは虚しいだけだよ」


「…………」


「……まあ、正直に言うとね。

今の二つはどうでも良いんだ。


俺が一番、君に伝えたいのは最後の一つ。

『仲間を見捨てるな』って事さ。


俺は君達の戦いを一部始終見ていたんだけど……それだけにあのぽっちゃり君を、君が見捨てた時はがっかりしたんだ。


本当に、どうしてなんだい?

彼とはずっと一緒にやって来たんだろう?

信頼だってきっとあったはずだろう?


それなのに……


はっきり言うけど、君の敗因はそれだよ。

それと、今の君はもうそれ以上強くなれないと思う。いや絶対無理だね。


自分可愛さに、いくら絶望的な状況だったとしても。

仲間も、仲間との絆も。何もかもを放り捨てた今の君じゃあ、絶対に今より強くなんてなれやしない」


「へっ!何を言うかと思えば!

確かにダンジョン攻略に仲間は必要だが、それが敗因なワケないだろ?何ワケ分かんない事言ってんだよ!」


はぁ、コイツダメだな。全然分かってない。


そこで、俺はある話をこの赤髪野郎に聞かせてやる事にした。


少し、長い話にはなるが……



かつては俺自身もそう思っていた。

己の力だけでどうにでもなるって。


まあ自分で言うのもアレだけど、俺はその時点でも充分に強かったから、特にそう考えてしまってたんだと思う。


ちなみに、そんな風に考えていたのは魔王討伐の旅の終盤……くらいまでだったかな。


だから恥ずかしい話だけど、そう言う俺自身も結構後になってからそれは違うって気付いたんだ。


……それは、いよいよ魔王と戦うって時だ。


その時も俺は単身で、しかも『まあ余裕でしょ』って感じの、油断しまくりな状態で戦いに挑んだ。


確かに、確かに魔王との戦い自体はすぐに終わった。


それは事実だ。だからまあ、俺は俺自身の力だけでどうにかしたって事になるワケで、さっきの話と矛盾してしまう。


だけど違うんだ……その時にあるものを見てね。


気付いたんだ。気付かされたんだ。

俺は一人で戦っていたんじゃ無いって事にさ。


まあ、戦いこそそれに近い感じだったのは間違い無いけど。


当時の、それこそ『平和を取り戻すぞ!』って意気込んでいた人々は、俺の戦いを見て……なら、自分に出来る事をやろうって、一生懸命に動いてくれていたんだ。


例えば、ある人は補給部隊として俺に食料や傷薬なんかの、色々な物資を届けてくれた。


他には、先に魔物達の動向を調べて俺にその情報を教えてくれたり。武具の調整をしてくれたり、時には建物を急造して俺のための休憩所を作ってくれたりしてもらった事もあって。


……ここまで言えばもう、分かるでしょ?

そう。さっきも言ったけど、俺は決して一人じゃなかったんだ。誰かに支えられて、その上で戦っていたんだ。戦えていたんだ。


それに、敵側にも目を見張るものがあった。


俺はその中に見たんだよ。

身一つで俺に真っ向勝負を挑んだトロール。

その体を鍵として、扉とその奥にいる主人を守り戦い続けたドラゴン。


そして、そんな想いを胸に、俺と全力で戦った魔王と言う名の少女。


そんなものをね。


彼女達は自分のためにじゃない。

仲間のため、仲間の未来のために勇敢に戦ったんだ。確かに敵側勢力ではあったけど、そんな事は関係ない。むしろ、そんな事は些細な事でしかないと思う。


……そう。そこで俺は。

人々からは『助け合いの精神』を。

魔物からは『仲間との絆』を。


そう言ったものを教えられて、初めて本当の意味で強くなれたんだ。俺一人じゃ決して辿り着けなかった、境地に達する事が出来たんだ。


……そんな言い方だと、ただの精神論っぽく聞こえるかもしれないけど、そうじゃない。


あ、でも。これは個人的な意見なんだけどさ。

それもそれで大きくはあると思うよ?誰だって仲間が傷付くのは見たく無いだろうし。それで強くなれる部分もきっとあるはずだよ。


でも、それとはまた違ってはっきりとしたメリットだってちゃんとある。


実は、俺ってその時までは良く言えば剣技一本って感じで、悪く言えばそれだけって言うか、なんて言うか……


とにかく、それ以外の戦い方を殆ど知らなかったんだよ。


それを変えてくれたのは仲間達だった。


人々は俺に魔法の扱い方や剣技以外のスキル、その他にもいわゆるサバイバルの基本とか、自分達の知識や経験を活かして俺に様々な事を教えてくれたんだ。


ま、〝こっち〟から見れば随分と豊かな世界出身の俺なんて、本当なにも知らない子供みたいなものだったからね。


タメになる話ばかりというか。あの時の俺にとってはタメになる話しかなかったよ……


まあとにかく。

そんな風にしてもらって初めて、今の俺は存在していると思ってる。


それが無かったらもっともっと俺は弱かったんじゃないかな?


いや、きっとそうだ。

そうじゃなかったら俺はそう遠くない未来に、剣技一本な事を見破られて、対策されて、そして魔物達との戦いに敗れてしまっていたと思う。


…………とまあ、ちょっと長くなっちゃったけど、これで俺の言いたい事は以上だ。


説明は下手だったかもしれないけど……でも。

これで君にも少しは分かっただろう?


仲間って言うものが、どんなに大切かって事がさ。

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