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その容姿夫人のごとし 竹中半兵衛

あまり記録が残っていない半兵衛なのでこんなせってもありかと思って書きました

竹中半兵衛重治。

稀代の軍師と称されたこの男の背後には、いつも三つの影があった。

それは、彼の姉――伊々、百、そしてお良だった。


***


半兵衛は幼い頃から体が弱く、長く走れば息が上がり、無理をすれば熱を出した。

皆がいつもいるところ半分ぐらいしか顔を出すことができないので半人前兵衛

それが縮まって半兵衛という通称になってしまった。

けれどその分、彼の目はよく物を見て、頭は静かに先を読む。

人の心も、戦の道理も、まっすぐに受け止め、考え抜く男だった。


そんな弟を、三人の姉は支えた。

知恵も勇気も半兵衛に劣らない

しかも体力もあり体が丈夫

だたし、女だった


やがて――つい、世話を焼いてしまう

というか行きすぎてしまう。


***


弘治二年、長良川の戦い。

家督を継いだばかりの半兵衛に「大将として出陣せよ」と命が下った。


その夜、またしても半兵衛は熱を出していた。

顔色は赤くほてって、立っているのがやっとだった。


「わしが行かなければなりません。でも……」

そうつぶやいた弟の額に、そっと手を当てたのは長姉の伊々だった。


「お前が描いた策を、誰かが実行すればいいだけの話よ」

伊々は静かに立ち上がり、弟の甲冑を着ける。


翌朝、“竹中半兵衛”として戦場に現れたその武者は、

まるで氷のような采配で兵を動かし、勝利を掴んだ。


竹中の名が世に出たその日、半兵衛は寝床で静かに地図を見つめていた。

「勝てば、それでいい。……姉上、ありがとう」


***


稲葉山城襲撃――世に伝わる“奇襲策”は、半兵衛の策によるものだった。

だが、動いたのは次姉の**もも**だった。


主君・斎藤龍興が、女と酒に溺れて政を顧みない

「正しきを全うすべし」

主君に天誅を加えるべく半兵衛には策を練ってもらった。


百は静かに髪を結い上げ、短刀を帯びた。

「半兵衛の策は完璧。周りの者で実現すればよい」


夜、百は手勢を伏せておいて

小袖を羽織って城門に近づく

「誰じゃ」城兵が誰何する

「竹中家の者でございます

 城中に御用があってまいりました」

 「なんじゃ女か、通れ」

横柄な態度の城兵をすれ違いざま

隠し持った脇差でズバ


(峯打ちでございます

 死にはしませんのでご安心を)


油断していた残りの兵も片づけた

城門は簡単に制圧


結局、手勢を率いて斎藤飛騨守を含む六人を討ち

龍興を逃亡させた。


女の姿で現れた“軍師”に、兵は何も言えなかった。

その目の奥に、怒りではなく“責任”が宿っていたからだ。


半兵衛は、それを知っていた。

「姉上は、わしよりも人の心に火を灯す」


***


信長と浅井が敵対した頃、半兵衛は秀吉に請われて調略にあたった。


彼の名は、浅井家の重臣たちに知られていた。

だが、実際に彼らに接触していたのは三女のお良だった

もともとお互いに近くに住んでいた一族同士

それなりに知った者もいる


「限られた時間でたくさんの人と会い

 説得しなければならない

 体力に不安のある半兵衛よりも、私がやる」

女なのも幸いし

お良はさほど怪しまれずに各家の家中に入り込める。


家中の雰囲気を感じ取りながら

半兵衛に説得の書状を書いてもらう。


「もともと内情を知ったうえで

 欲しいもの、困ることを分かったうえでの説得なんだから

 きかないわけはないわよね」


お良の届ける書状の威力は協力で、浅井家家臣のうち

美濃の国に近い者どもは力になってくれることを約束してくれた


***


松寿丸救出の一件。

官兵衛の裏切りなのだから人質は殺して首を持ってこいという


「そんな小さい子供を人質だからと言って殺めるなど

 あってはなりません」

「命に、理はありません。助けられる命は、助けるべきです」

三人の姉が強く押し、詰め寄ってくる。


「あなたは黙ってて」

悩む官兵衛を後に

伊々が偽首を用意し、

百がそれを届け、

お良が松寿丸を不破矢足の屋敷に匿った。


忠臣、侍としての立場に悩むものの

弟の意志を感じ、先に動いていた。


***


世間は語る。

「竹中半兵衛、その容貌は婦人のごとし」と

当たり前である

平時は呼び出されれば登城するものの

戦時の甲冑の中身は姉だった

半兵衛が小柄で華奢なことも幸いした


ある者は蔑み、ある者は美談に仕立てたが、

事実、その名の背後に“女たちの姿”があったことを、誰も知らない。


***


晩年、床に伏した半兵衛が口にしたのは


「わしは、この世に何かをなせたといえるんじゃろうか」


伊々は座したまま答えた。

「あなたの頭から生まれる作戦を、私たちが実現しただけです」


百は横顔を見つめて、ぽつりとつぶやいた。

「支えたくなるような人だったのよ。だから、つい……ね」


お良は目を伏せながら言った。

「あなたのふりをするのも楽しかったわよ」


その夜、竹中家の屋敷には、静かな風が吹いていた。

火がゆっくりと揺れる音の中で、

姉たちは、眠る弟の手を順に握った。


「もう、いいのよ」

「あなたは、よくやったわ」

「私たちも、ね」



半兵衛が早世したので姉がみとる形になるのですが、もっと長く活躍しても良かったと思います

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