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6(莉里)

再びお姉ちゃん視点。なかなか本人にいかず。

 目の前の男の言うことが信じられなかった。

 前世? なにそれ。でも、この男が言うことが本当なら、この男と妹が前世で恋人同士――だったかもしれない――ってこと?

 私に前世の記憶なんてないけど、前世の記憶を持つ人がいるという話は聞いたことがある。それに、そういった不思議なことを、完全に否定するほど頭は硬くないつもりだ。

 でも、身近な人が関わってくるとなると、あっさり納得できるほど、簡単ではない。しかも、可愛い妹の前世では恋人だったという男が目の前に現れたのだから。


「……ちょっと待って。あんたはその彼女に会って、どうしたいの?」

「どうって、」

「しかも、彼女はあんたのことを覚えているの?」


 妹に普通に彼氏ができたって言われても、相手を見る目が厳しくなりそうだってのに、前世で恋人だったからということで、妹に近づくなんて、それって、重度のストーカーじゃない! 百歩譲って妹も覚えていて、この男に会いたいって思っているなら、なんとか納得するけど。でも、妹は知らなさそうなのよねぇ。

 妹が前世とやらを思い出し、この男が彼氏になる事が幸せなのか、私には分からない。


「あんたの気持ちはわかったけど、相手はどう思ってるの? 来世でまた出会って、恋人になろうって誓いあったりしたの?」

「それは……」

「もし、違うのなら、その子は思い出さないほうが、幸せなのかもしれないと思わないの?」


 この男がどれだけの想いを持って生まれ直したのか、私には分からない。だけど、今も昔の想いを抱えて生きているなんで、私から見ると、未練たらたらな気がするのよねぇ。未練がなければ、生まれ変わる前の記憶を抱えてくるなんて面倒なこと、しないと思うもの。

 まあ、この男がどんな思いで前世の記憶を抱え込んでいるのかは分からないけど、妹を巻き込まないで欲しいの。切実に。


「だから、もし心当たりがあったとしても、相手の気持ちを考えると、教えることなんてできないのよね」

「……。確かに、自分勝手な想いなのかもしれない。でも、必ず見つけると誓ったんだ」

「……」

「そのために、同じ世界に生まれるようにもしてもらったのに」


 ()()()()? ということは、この男の、ひいては妹――おそらく妹のことだと思う――の前世は、地球のどこかではなく、別の世界ってこと? いや、マジで話のスケールが大きくなってきた。でもって、この男のストーカー度が桁外れに大きいことが分かった。

 妹が、こんな質の悪い男に付きまとわれるのって、ヤバくない?


「と、とにかく、あんたの言いたいことは分かった。でも、相手の気持ちもあるから、あんたに協力する気にはなれないかな」

「そうか。でも、俺の話は嘘じゃないって、思ってくれたんだな」


 と、切なげな表情から、控えめな笑みに変わった。

 ドクン、と鼓動が強くなる。

 やだ、この男、こんな笑みを浮かべることもできるんだ。いつもはすました顔をして、何をしても面白くないような顔をしていたのに。

 ま、私もよくは知らないんだけど、友達とかの話では、クラスから浮かない程度の付き合いしかしないとか、告ってきた子をことごとく振っているとか、そういう話を聞いていただけで、今まで会話したことも無かったからねぇ。


「……ま、そんな顔で切々と語られちゃあね」


 毒気を抜かれて、頭をかきながら投げやりに返した。


「でも、知っていることを話してはくれないんだな」

「!」

「これだけ詮索しておいて、心当たりがないなんてことはないと思うけど? しかも、君に近しい人で、大事に思っている――そんな人を、俺に知られたくないんだろう?」


 思わず体が強張る。ヤバい。踏み込みすぎた。どうでもよければ、こんな風に深く聞かない。面識ない、知らないの一言で済むことなのに。聞いて予防線を張ろうとしたのが不味かった。

 それなのに、さらに失敗を重ねてしまう。


 カタン、と音がした方向を見ると、そこには妹の梨世がいた。


「梨世……」

「君は、昨日の……」


 なんて事だ。私がしつこく質問したせいで、妹が図書室に来る時間になってしまっていたなんて。


「お姉ちゃん、それに昨日の……どうして2人でここに居るの?」

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