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 自分の部屋に戻って本を読んでいると、明け方に見た夢が僅かながらに蘇ってきた。


「あれは、前世むかしのわたし?」


 姫様と呼ばれていたので、愛し子という言葉と結びつかなかったけど、部屋の造りとか、周囲にいた人達とか、今のわたしには関わりないものばかりだけど、あれが前世の記憶なら納得出来るかもしれない。知らないけど、何処か懐かしい、不思議な感じがした。


 また、前世の夢が見れるかな?


 遥斗さんからの話だけでは全然足りない。自分自身で知りたいと思う。

 そう、そして、この気持ちが何処から来るのかを知りたい。この想いを持っていてもいいのかも……。


 遥斗さん自身も言っていた。前世むかしの記憶を持って生まれるのは望ましくないと。それでも、遥斗さんは前世の記憶を持って生まれる事にした。おそらく、今世での問題を抱えたとしても、それだけ遙人さんにとっては前世の記憶が大事だったんだ。

 何もかも忘れてしまっているわたしが、ちょっと薄情な気がしてしまう。

 それにしても、前世の記憶を持っていたのなら、それが好きな人に会いたいと思う気持ちからなら、最初に見た女子からの告白を、後に引かないように冷たく振るのも分かる気がする。

 きっと、リーゼロッテがそれだけ好きだったんだ。政略だと言っていたけど、そんな事は関係ないほどに。


 ……って、リーゼロッテはわたしなんだから、ここでモヤモヤしても仕方ないのに、何故か遥斗さんに思われているリーゼロッテに対して、焼きもちを焼いてしまう。

 ……うう、なんか頭が可笑しくなりそう。

 前世の記憶が無い事で、自分の過去にまで焼きもち焼くなんて、変じゃない。

 しかも、遥斗さんとは出会って2日なのに、こんなにも気持ちが大きくなっている。

 これも、前世の想いに引きずられているのかなぁ? お姉ちゃんに言ったら、今を生きてるんだから、前世なんて考えるなって合理的な答えが返ってきそう。悪い意味じゃなくて、今を大事にって意味で。

 うん、お姉ちゃんに意見を聞こう。



 ***



「で、どうしたらいいのかな?」

「梨世……」


 お姉ちゃんに自分の心情を吐露したら、お姉ちゃんは頭痛を抑えるかのように、こめかみに手を添えて押し黙った。


「お姉ちゃん?」

「……訊いてる。で、私にどんな答えを求めてるのよ?」

「どんなって……」


 ううん、そう言われると……あ、そうだ、お姉ちゃんは付き合っている人がいるから、お姉ちゃんならどう思うのか訊いてみよう。


「お姉ちゃんは付き合っている人がいるでしょう? その人の事をどう想って……というか、そういう気持ちをどうしているのかなって」

「……梨世、まず誤解を解くと、私はお付き合いをしている人は居ないから」

「え? だって、茉莉花まりかさんから訊いたよ?」


 お姉ちゃんの友人の茉莉花さんは、お姉ちゃんと小学校からの付き合いで、家に遊びに来るので、わたしもよくお話をする。さっぱりした性格で、見た目もボーイッシュな人。

 その人が、同じ部活の男の人と付き合っているんじゃないかと、前に言っていたんだけど……。


「茉莉花が何を言ったか、なんとなく想像つくけど、高遠たかとうとはそんな関係じゃないの。部活で一緒に作業することは多いけどね」

「そうなの?」

「まあ、私にとって1番近くに居るから、誤解されるっていうか……」


 なんとなく歯切れの悪い言い方に、お姉ちゃんは少なからずその人のことを好意的に思っているように感じた。

 そもそも、お姉ちゃんの入っている部活って料理部だよね? 男の人が居るのって珍しくないかな?


「お姉ちゃんって料理部だよね? その高遠さんも料理部なの?」

「うん、まあ。あいつんち、お母さんがいなくてさ、お父さんと弟妹の4人暮らしなんだって。長男だからって家の家事のほとんどをやってんの。料理の味を良くするのと、レパートリーを増やしたくて料理部に入ったんだって。高遠とは1年生の時に同じクラスだったから、料理部でのグループも一緒だし。それに、うちって私たちが料理するじゃん。だから、レシピとか、コツを訊いてくるんだよね」


 と、早口でちょっと言い訳というか、そこまで訊いてないよ、という事まで話す。まるで、疚しい事なんてないと主張しているようで、いつものお姉ちゃんらしくない。

 そう、訊ねると、お姉ちゃんは小さなうめき声を上げる。


「……言っとくけど、私の片想いだから」

「お姉ちゃん?」

「だから、高遠には何も言わないで」

「知り合いでもないから言わないけど……別に悪い事してる訳じゃないんだし」

「そ、そう言われてもね! あんたに好き人が出来た? って思ってたら、こっちに話振るんだもん。ビックリしたの! 梨世っては、少し前まで男子の事なんて全然気にしてなかったのに!」


 お姉ちゃんが真っ赤になって、ちょっと声を荒げて言うのが新鮮だった。

 それに、お姉ちゃんが可愛く見える。好きな人の事を話すときって誰でもこんな風になるのかな? だとしたら、わたしもそうだったのかな?

 思わず、「お姉ちゃん可愛い」と呟くと、更に顔が赤くなって、「そうじゃなくて!」と弁明してる。


「あのね、お姉ちゃんがお風呂に入ってる時に、お母さんに訊かれたの。『好きな人が出来たんだって?』って。その時にも、思ってる事が口から溢れちゃって……。お姉ちゃんも一緒なんだね」

「梨世……」

「お母さんがね、誰かを好きになるのはいい事だって。だから、自分の気持ちに素直になった方がいいと思うの」


 わたしにとっては急な想いだったけど、お姉ちゃんは去年から一緒にいた人と、部活を通して交流して想いを温めてきたんだろう。だからこそ、その想いを大事にして欲しいって思う。

 誰かを想うという気持ちを知った今なら、お母さんと同じように思えるから。

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