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11(遥斗)

 彼女――理世と2人で話すことができただけでも、嬉しいのに、つい名前で呼び合うようにして浮かれてしまい、更に理世の手を取って、昔のように口付けてしまった。

 ヤバい。やり過ぎた、と思ったけれど、真っ赤になった理世を見て、「ああ、やっぱり彼女だ」と思い、笑ってしまった。昔も手の甲へのキスは、あの世界では普通だったのに、彼女はなかなか慣れなくて、いつも顔を真っ赤に染めていた。


「簡単に話すよ。君の名前は『リーゼロッテ』俺は『ラインハルト』という名前だった。俺が10歳、彼女が8歳の時に出会った。君の婚約者候補として」

「わたしの?」

「そう、君は――分かりやすく、日本語に直して説明するよ。君はある国の貴族――伯爵位に相当する位の家に生まれ、ある理由で8歳の時に神籍に入り、神殿で暮らしていたんだ――」


 俺は昔を懐かしみながら、梨世に前世の話を始めた。



 ***



 俺はある国の王とその第2夫人の間に生まれた、第1王子だった。そして、1年後に正妃との間に第2王子が生まれた。

 俺の母は産後の肥立ちが悪く、俺を産んですくに亡くなった。そのせいで、俺の立場は芳しくないものだった。それに、このままいけば弟と王太子の座を競うことになる。けど、俺には後ろ盾が居ない。そもそも、その歳まで生きていられるかも危うい。それを理解してからは、俺は目立たないよう心がけた。


 そんな時だった。『女神の愛し子』が見つかったという。

『女神の愛し子』は、言葉通りその魂が女神に愛され、体に印を持って生まれる子供のことだ。聞けば、その子は8歳だと言う。どうして今まで見つからなかったのか不明だが、胸に印を持った紛れもない『女神の愛し子』だと言う。

 その『女神の愛し子』は女の子で、今は神殿に身を置いているらしい。


 そして、この国で産まれた『女神の愛し子』に最大の敬意を見せると共に、他国に移動しないように、王族の男子がその子の婚約者となることとなった。

 初の顔合わせの時、彼女――リーゼロッテを見た時、俺はきっと一目惚れをしたのだろう。弟は顔立ちは整っているが華がないと、彼女に対し興味を持つことはなかった。

 確かに派手ではないが挨拶の時の笑顔が柔らかで、あたたかな雰囲気をまとった少女だった。王宮には見かけない素朴で純真な少女。俺は一目でそんな彼女に惹かれた。


 弟が降りたため、俺は問題なく彼女の婚約者という立場を手に入れた。成人(あの国では16歳)になるまでは、王族として王宮に身を置かなければならないが、その後は神籍に入り、彼女が16歳になる歳に婚姻の儀を交わす事になった。

 彼女は『女神の愛し子』という立場に奢ることなく、身の回りを世話する侍女にも気安く礼を言うような、穏やかで優しい性格の持ち主だった。やはり第一印象は間違いなかったと実感した。

 俺は一目惚れに加えて、彼女のその性格や穏やかな笑みを浮かべる彼女に、どんどん好きになり、婚約者になれたことを喜んでいた。

 しかも、神殿で彼女に会う時は、王宮での息苦しさから逃れられる。早く成人して彼女と共に暮らしたいと、強く願うようになっていた。

 それも、いずれ叶うと思いながら。



 ***



 昔を懐かしみながら、俺は話せる程度を掻い摘んで話したのだが――


「梨世?」

「う〜〜っ、どうしてそう好きって簡単に言えるの⁉」


 またもや耳まで真っ赤に染めた梨世が、両手で頬を押さえて俯き加減で呟く。


「そんなに恥ずかしいか?」

「恥ずかしいよっ! もうっ、もうっ、どうしてしれっと真顔で言えるのよぉ」


 あうあうとぼやく理世が可愛い。本当に、こういう所は変わらないんだな。

 そんな理世の様子を見ると、つい笑みを浮かべてしまう。が、それを理世に見られて「笑うなぁ」と情けない抗議が来た。


「ごめん。本当に変わらないんだな、って」

「変わらない?」

「うん。素朴で、小さなことにも喜んで、そして、可愛い」


 あ、ヤバい。つい「可愛い」と言ってしまったら、またもや顔を赤らめて、もはや湯気が出そうなほどになっていた。

 その姿が本当に可愛くて、懐かしくて、表情が引き締まらない。本当に、懐かしい。君が君のまま、変わらないでいてくれて良かった。


「――話を戻して、俺たちの出会いとかはそんな感じだった」

「……分かった。話してくれてありがとう。でも、その後はどうなったの?」

「うーん……、今は説明できないかな」

「どうして?」

「言っただろう。人1人の人生――良いことも悪いこともある。それに、1日で語れることでもないんだ。聞いても、理世も整理できないと思う」


 それに、これ以上語るのは、女神の制約に引っかかる。

 理世が自分で記憶を取り戻したのなら、別なのだが。記憶を取り戻して欲しい気持ちと、忘れていたままのほうがいいと思う気持ちが綯い交ぜになる。

 昔は昔だ。思い出しても変えられるものではない。それなら、今を大事にした方がいいのだろう。だから、これ以上は女神による制約がなくても、自分から語ることはしたくない。


「あの、1つ聞いてもいい?」

「『女神の愛し子』って何ですか?」

「『女神の愛し子』とは、巡る魂の中で、女神が惹かれた魂に、女神が印を付けるんだ。リーゼロッテの時には、胸にその印があった」


 そう言うと、理世は制服の上から左胸の上に手を添えた。

 やはり、今も愛し子としての印があるのだろう。あれは体に現れるものの、魂に刻み込まれるものだから。巡って次の世界に移った時に、前の世界の創造主が気にかけていた魂だと分かるように。


「愛し子は『聖女』達と違って、特に何をしなければならないということはない。ただ、愛し子に選ばれた者のほとんどは、普通の人間と変わらないんだ」

「聖女? 普通の人間?」

「前世での世界は、この世界から言えばファンタジーな世界と言えるだろう。魔法があり、何より女神だけが唯一絶対の神だった」

「魔法……確かにファンタジーかも。わたしも魔法を使えたの?」

「少しばかりね」

「じゃあ、『女神の愛し子』って――」

「言葉通り、女神に愛された魂の持ち主の事だよ」


 女神の他にも従属神は居たが、あの世界では女神が最高神であり、創造主の世界だった。

 そして、愛し子はその魂の在り方を女神に愛された存在――だから、その魂が歪まないように、余計な力を持たせない。一言で言うならチートというような、強大な力を持つことを好まない。

 その力によって、その魂が歪んでしまう可能性があるからだ。

 どれだけ好ましく思っても、優遇することはない。その魂の生き様さえ、女神は愛しいと思うから『女神の愛し子』と呼ばれるのだ。


巡る魂について

魂は他の世界を巡って転生するというのが設定になってます。(ただし、同じ世界に転生するのあり)

その中で、他の世界から来た魂が女神の目に留まり、『女神の愛し子』として印をつけられます。


あと、遥斗は前世の事があるので、「好き」とか平気で言ったり、前話の手の甲にキスなどはしますが、理世のことになると好きすぎて時々ポンコツになります。(名乗ったのに、名前を訊くのを忘れたり)

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