めんどくさがり令嬢の、めんどくさライフ 6
執事長より、ライオット殿下からの訪問状を受け取ったティーファは、アンジェリーナにどう伝えるかを考えつつ、廊下を歩いていた。
(・・・・やっぱり、誰の入れ知恵か。すぐにお解かりになれますよね。なんと云っても、アンジェリーナ様は、婚約者筆頭候補として王家が認めているのですから・・・・・)
さて、どうしましょうか。とアンジェリーナの部屋の前に着き、ティーファは意を決して、扉を叩いた。
コン、コン、コン。
返事が返ってくるのを待つ。一回目のノックで返事がないので、ティーファはもう一度、扉を叩いた。
コン、コン、コン。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
返ってこない返事にティーファは、まさか。と思いつつ、失礼だとは解かっていても扉を開けた。
「失礼いたします。アンジェリーナ様!」
「きゃああっっ。・・・・・て、ティーファっ。わたくしの返事を待たずに開けるなんてっ」
「その件に関しましては、お詫び申し上げます。・・・・が。そこでなにをなさっているのですか? アンジェリーナ様」
「・・・・・・お、ほほほほほほほ・・・・・・」
テラスの支柱にどうやって作ったのか、布製の綱を結び付けて、ちょうど、柵を跨ぎ乗り越えようとしていたアンジェリーナがいて。ティーファは、やっぱり・・・・。と額をおさえていた。
「アンジェリーナ様。危ないですから、こちらにお戻りくださいませ」
「・・・・・このまま下に降りても大丈夫だけど?」
「アンジェリーナ様。ここはっ、2階ですっ。下まで布の綱はあるのですか!?」
「ええ。ちゃんと地面についているわよ。と、いう訳で。わたくしは、このまま外へ出ますからね。ライオット様が来られたら、わたくしは・・・・・」
「アンジー。また、そんな危ないことをして。もしかして、先日来ていた大道芸人たちの演技を、真似てしている。ということではないよね?」
「ら、ら、ら、ら、ライオット様!?」
アンジェリーナとティーファが話している間に、到着していたライオットが、下から両手を広げて笑っていた。
ティーファに部屋に戻されたアンジェリーナは、身なりを整えて、応接室で待っているライオットのところに行く。その表情は、とってもめんどくさそうであった。
「アンジェリーナ様。お顔にとってもめんどくさいって、出ています」
「あら? そう? それじゃあ、いまからお会いするのは無理よねぇ~~」
「それでも良いから、入りなさいと。ライオット殿下から言伝を預かっております」
「・・・・あんのくそ殿下」
「アンジェリーナ様。あまりお言葉が酷いと、マナー教師を呼ばれますよ?」
「それはそれで、めんどくさいのよねぇ~~。マナーもなにも、もう全部収得しているから。眠たいだけだもの」
話しをしながら、廊下をゆっくりゆっくりと歩く。まるで、牛歩のような歩き方に、ティーファは少しだけ先にある扉を見た。
「・・・・アンジェリーナ様。応接室の扉が開いています。ライオット殿下が、お待ちでいらっしゃいますよ」
「・・・・なんで、開いているのよ。閉めるでしょう」
「普通は、ね。アン、ちょっと殿下の笑顔が怖いから。早く来てくれないかなぁ?」
と傍に来ていたテンが、この通りっ。と手を合わせて云う。アンジェリーナは、仕方ないわ。とくんっ、と顎をあげると、のらりくらり歩いていたのをやめて歩き、応接室に入った。
「ごきげんよう、ライオット殿下。先ぶれが届いてすぐにいらっしゃるとは思っていませんでしたので。おもてなしの用意が間に合いませんでしたわ」
「おや、そうかい? 先ぶれを出してから、出たからね。先ぶれがすぐに届くと思っていたんだよ」
嘘つけ、このエセ王子め。とアンジェリーナは思いつつ、にこにこして向かい側に座る。ティーファは、お茶の一式を持ってきてくれていた同僚から引き継ぎ、黙々と淹れていた。
「・・・・・ところで。次の公務は一緒に行くのだけど。覚えているよね?」
ライオットの言葉に、アンジェリーナはスケジュールを思い浮かべる。確かに、教会来訪の公務がライオットとあり。アンジェリーナは、勿論です。と返した。
「勿論ですわ。教会へ行くのでしたよね。あ、もしかして別のご令嬢と行かれることになったのであれば、わたくしは、一向に構いませんので。そのご令嬢とご一緒してくださいませ」
「その予定はないから。予定通りに、アンジーを連れて行くよ」
「さようでございますか。遠慮などされなくてもよろしいのですよ? 殿下。わたくしよりも、もっと殿下にお似合いのご令嬢がいらっしゃるでしょう」
「そうかな? 公務に連れて行くのなら、アンジェリーナ以外は思いつかないけど。ひとりで、行くのは体裁があるからね」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」」
ヒュオオオオオオオ・・・・・・・。
なんだか、ライオットとアンジェリーナの周りに吹雪が見えてしまい、ティーファとテンは天井を見上げて、まったく。と呆れるしかない。このままではらちが明かない。とテンは、ティーファからお茶の一式を受け取ると、ライオットとアンジェリーナに給仕した。
「殿下、アンジェリーナ様。とりあえず、お茶でもお飲みください。せっかく、ティーファが淹れてくれたのに。冷めてしまいます」
「それもそうよね。ティーファが淹れてくれたのだし」
「確かに。ティーファが淹れてくれたのだからな」
お互いに、笑みを浮かべて言い、テーブルに出されたカップに手を伸ばした。