めんどくさがり令嬢の、めんどくさライフ 3
貴族図鑑を広げて、アンジェリーナは頭を抱えていた。いくらめんどくさいことが大っ嫌いなアンジェリーナでも、他公爵家の3歳~5歳と云う幼い子どもに、あんな腹黒王子を押し付けるなんてことはできるはずもなく。となると、やっぱり侯爵家かしら。と考えていたのだが。どう見ても、ライオットが一番嫌がるような相手しかいなかった。
(・・・・・そう云えば、このコーシャン侯爵家のご令嬢は、学年が同じでしたわね。となると、ライ様とも面識がある訳だし・・・・)
コーシャン侯爵家の長女であるマルゲリータ嬢を候補に挙げる。ひとりだと不安だから、もうひとり。と貴族図鑑に穴が開くほど見ていると、同じ侯爵でスペクト侯爵家の次女キャサリン嬢も候補に挙げた。
(スペクト侯爵家のご令嬢も、学年が同じでしたわ。それに、次女の方ですし。ライ様にも合っていますわね。面識もあるでしょうし。コーシャン侯爵家は、お兄様が継がれるでしょうから。マルゲリータ嬢が王室に入ったとしても大丈夫でしょうし。スペクト侯爵家は、ご長女の方に婚約者の方がいらっしゃって、スペクト家を継がれると聴いていますし)
では、このお2人にライ様を押し付けてしまいましょう。
くすくすと笑い、アンジェリーナは貴族図鑑を閉じた。
一方、地獄のようなお茶会を終わらせたライオットは、執務室に戻ると思いっきりソファを蹴って憂さ晴らしをしていた。
「だぁ―――っっ。なんだって、あんなにっ。俺はっ、アンジーとしか婚約しないぞっ」
「気持ちは解かりますが。物にあたらないでください。殿下。そんなことだから、アンジェリーナ様に嫌われるのですよ」
「アンジーに嫌われる!? ・・・・・・そ、そんな・・・・・」
本気で項垂れるライオットを見て、テンは眼を細めて溜め息を吐く。
「はぁーー・・・・。そんなに落ち込むのでしたら。アンジェリーナ様以外の候補者の方を立てたらいかがですか」
「いま、聴いていたか? 俺は、アンジー以外とは結婚しない。それと、いまは2人だからその口調はやめろ」
「婚約しない。とは聴きましたが。結婚までは聴いていません。それ以前に、アンジェリーナ様と交遊を結ぶのが先かと思いますけど? 学園時代はなにをなさっていた・・・・。あ、徹底的にアンジェリーナ様に避けられていましたね。・・・・本当に、いくらアンがめんどくさがりだとしても、王族であるライをそこまで毛嫌いしているとおもてだってあらわにすることはないだろうに。・・・・本気で、ナニをしたんだ? お前」
アンジェリーナを”アン”呼び出来るテンを、ライオットはぐぬぬ。と唸りながら睨む。
「睨んだって知らんぞ。アンがアンと呼んでいいと云ってくれたのだからな。ああ、ライはそう呼ぶのを許されていないから、アンジー止まりだもんな」
「テェェェーーーン・・・・・。本気で猫かぶりをやめると、口調が荒いんだからな」
「ですます調をやめろ、と仰られたのは殿下ですよ? それは、ライもだろうが。・・・・で、本気で、マジでなにをした?」
お茶を煎れながら訊いてくるテンに、ライオットはナニかしでかしてしまったのかを、考えていた。
先延ばしにするのがいやでめんどくさいアンジェリーナは、部屋に戻るとすぐに椅子に座り、手紙を書き始める。
「・・・・まずは、コーシャン侯爵家からにしましょう。お茶にお誘いして、あの腹黒殿下をいかにして押し付けるかを・・・・。ごほん、ごほん。腹黒殿下を、お勧めしましょう」
本心が駄々洩れになってしまっているのを、律しながら。アンジェリーナはお茶会へ誘う手紙を書き終える。ついでに、と別日に設定をしたスペクト侯爵家の分も、書き終えた。
「これで、よし。ですわ。・・・・明日、一番にまずはコーシャン家に届けてもらって。お昼過ぎに、スペクト侯爵家に届けてもらいましょ。そして、わたくしは、国外逃亡の準備を進めておかないといけませんね」
まだ諦めていない国外逃亡計画を、アンジェリーナは黙々と進めていた。