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めんどくさがり令嬢の、めんどくさライフ

めんどくさいことは嫌いなのに、めんどくさいことに巻き込まれて行くご令嬢の話になった。

 アンジェリーナ・スカイフォース公爵令嬢は、たぐいまれない面倒くさがりでいるのだが。面倒くさいことは、面倒くさくなる前に、終わらせる。という、周りからは非常にまじめなひとにも見えていた。


(あーーー。起きるのめんどくさいなぁ。このままずっと、惰眠をむさぼっていたいけど。今日は、お父様と出かけないといけないし・・・・。絶対に出かけるから、起きて来なさいって云われてるし・・・・)


しょうがない、起きるか。とふかふかのベッドからようやく身体を動かしたのは、眼が覚めてから3時間ほど経っていて。が、かといって陽が高く昇っている時間でもなかった。


(早く、お父様との用事を終わらせて、ゆっくりしましょうか。・・・・・めんどくさい)


家族と出かけるにも、めんどくさがる性分である。となると、当然のことながら、この後のこともかなりめんどくさくなるのは眼に見えていた。


 父親に連れて来られたのは、なんと王族が主催するお茶会。しかも、なにやら自分と同じように着飾った年頃の女性たちが、威嚇をしながら周りを見ているのが見え。アンジェリーナは横にいる父親を、ギロリ。と淑女らしからぬ眼で睨んだ。


「・・・・・お父様?」

「・・・・・王命で仕方なく。本当のことを云うと、絶対に雲隠れをすると思って云わなかったんだ」

「じゃあ、ここに来た。と云う事実でお父様の面目は果たせましたね。わたくしは、帰ります」

「わぁーーっっ。ま、待てっ! アンジー! ここは、父の顔を立てるとっ」

「来たではないですか」

「1時間だけでも!!」


これでは、どっちが親か子どもか解からない。アンジェリーナは、溜め息を吐くと1時間だけですよ。と返した。

 アンジェリーナの気が変わらないうちに、と父親は挨拶に行ってくる。と傍を離れる。アンジェリーナは、本当にめんどくさそうに庭園に群がる令嬢たちを眺めていた。


(・・・・・あら。男爵家の方々まで、招集をかけられているのですね。本当に、さっさと婚約者をきめてしまわれないから。こういう、とてつもなくめんどくさいことが開催されるのですわ。ほんと、さっさと決めてくださらないかしら。あの腹黒王子)


言葉にすると不敬にしかならないようなことを考え、アンジェリーナは眼についた飲食のあるテーブルへと移動した。

 並べられているデザートと飲み物に、アンジェリーナはどれを食べようかと考える。


(・・・・どれにしようかしら? さすがは、王城の料理人が作っているだけあって、どれもこれも美味しそう・・・・。う~~ん。にしても、スイーツしかないのはどういうことかしら? 別にがっつりとお肉系とか、お魚系とかあっても良かったのに。・・・・あれね、集まっているのが女性ばっかりだから、ね・・・・。ほんと、さっさと婚約者をきめれば良いのに。あの腹黒くそ殿下。・・・・あ、これにしましょう)


お皿を取り、付属になっているトングで栗のケーキを取る。それと、飲み物として紅茶を淹れてもらい、アンジェリーナはどこか座れる場所は・・・・。と探し、ソファを見つけた。

「あそこにしましょう」

早く食べたい。と浮ついていると、眼の前に名前も知らない女性が立ち塞がった。

「・・・・あの?」

じっとアンジェリーナを見てくる女性に、頬を引きつらせ、どう見ても家格の下の相手と見て取り、アンジェリーナは横を通り抜けようとしたのだが。


 ガッチャンッ。


「きゃあっ。・・・・・も、申し訳ございませんっ。あ、アンジェリーナ様っ。わ、わざとでは・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


めんどくさいやつだ。これ。とアンジェリーナは、濡れてしまったドレスと、涙目になって訴えてくる女性を見比べていた。


「・・・・・そうですか。ワザとではないのであれば、よろしいのですよ。で、そこをどいてくれません? ドレスの染み抜きをしないといけませんから」


近くのテーブルに、持っていたお皿とグラスを置き、アンジェリーナはにっこりと笑んで云う。その笑みに慄いたのか、その女性は更に声を荒げて云ってきた。


「そ、そのように怒られなくても・・・・!! わ、わたくし、ワザとではないと申し上げておりますのに・・・・!! アンジェリーナ様!」


お前は誰なんだ。とアンジェリーナの眼がとてつもなく冷たくなっていく。が、その女性はその状況に気付かずに、なにかしら喚いていた。となると、周りも気づくわけで。遠巻きながらに、アンジェリーナと女性を見て、令嬢たちが話し合う。どちらが悪いのか、悪くないのかを話しているのだろうなぁ。とアンジェリーナは思いつつ、この女性をどうやって黙らせるかを考えるのも、面倒くさくなっていた。


「・・・・・・・はぁ・・・・・」

「! や、やっぱり、まだ怒られていらっしゃるのですね!? わ、わたくし・・・・・」


「とりあえず、どいてくれませんこと? ドレスにこの染みが染み込みますと、染み取りをするのにどれだけの手と時間を取ると思っているのです? たかが、染み取りに。と思われるかもしれませんが。その時間の労力が、長引くとその者の仕事の手が止まるのです。滞った仕事が、たまりにたまり。そして、更に面倒くさいことになって行くのですよ。ですので、さっさとどいてくれませんこと? それと、あなたはどなた? わたくし、あなたとは初対面ですが。わたくし、あなたの家名も名前も存じ上げませんことよ」


どんどん染み込んでいく紅茶の色を見て、アンジェリーナはとてもつもなく冷たい眼をして女性を見る。女性は、アンジェリーナを憎々し気に見るようになっていた。


「どうかしたのか? なにを騒いでいる?」


「殿下!」

「・・・・・ライオット殿下」


女性陣から割って入ってきた唯一の男性、この国の第一皇子ライオット・コンシェルジェンに、アンジェリーナはすぐに敬意を示す。一方の女性は、眼を潤ませてライオットを見ていた。


「・・・・これは、また。アンジェリーナ嬢。せっかくのドレスに紅茶かな?」

「ライオット殿下。はい、そうです。それで、この染み抜きをしたいので、退室をお許し願いたいのですが」

「あ、あのっ。ライオット様! わたくし、ワザとではないと謝っていますのに、アンジェリーナ様が・・・・!」


ライオットとアンジェリーナの会話に割り込んで来た女性を見て、遠巻きに見ていた令嬢たちが息を飲む。ライオットは、ああ、それでか。と事情を察知し、近くにいたメイドを呼んだ。


「そこにいるメイドさん。悪いが、アンジェリーナ嬢を連れて、ドレスの着替えを。それと、染み取りを」

「かしこまりました。・・・・お嬢様、どうぞこちらへ」

「ありがとうございます。・・・・アンジェリーナですわ」


メイドに手を引かれ、パーティ会場を退室していくアンジェリーナを見送り、ライオットは何故か傍にきて、服の裾を掴み、眼を潤ませている女性を見下ろした。


「あ、あの・・・・・。ライオット様・・・・・。ほ、本当に、わたくし・・・・」

「ワザとではない。と云っていたね。アンジェリーナ嬢も、ワザとではないのであれば構わない。と云っていただろう? それで、ドレスの汚れを取りたい。と云っていたのも聴こえていたよ」

「ライオット様・・・・・」


涙を思いっきり眼に浮かべて、女性はこれでもかというぐらいに、獲物を逃がさないとライオットを見上げる。ライオットは胸が上下するのが判るぐらいに息を吐くと、傍にいたテンを呼んだ。


「テン。このご令嬢を連れて行ってくれ。私は、アンジェリーナ嬢のところに行ってくる」

「かしこまりました。・・・・では、ご令嬢。こちらへ」

「あ、あのっ。ライオット様っ。わたくし・・・・!」


テンに手を引き渡され、女性はそれでもライオットに媚びろうとする。


「・・・・それ以上は、やめておかれた方が良いですよ。ご令嬢。殿下の不評を買いたくなくば」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え? ・・・・・ひっ」


そこでようやく自我が戻ったのか、女性はライオットを見て息を飲んだ。


「では、後は頼んだぞ。・・・・ご令嬢方、少し席を外すが。どうぞ、歓談を楽しんでくれ」


傍にいた女性を冷たく一瞥し、他の令嬢たちには笑顔で言い渡す。令嬢たちは、ほぉ・・・・。と息を吐き、なにごとも無かったかのように歓談を再開した。


 別室に連れて来られたアンジェリーナは、出迎えた長年のお付きであるティーファに引き渡されていた。


「アンジェリーナ様! どうされたのですか!? そのドレス・・・・・」

「ティーファ。名前も知らない男爵令嬢に紅茶をかけられたのよ。それで、染み抜きをして欲しいのだけど」

「か、かしこまりました。とりあえず・・・・、ってっ。脱がないでくださいっ」


てきばきと自分でドレスを脱ぐアンジェリーナに、ティーファは云う。すでに上半身を脱いでいたアンジェリーナは、すとんっ。と脚元までドレスを落とした。


「お父様とのお約束の時間は、1時間ですもの。染み取りをしている間に、1時間なんてすぐに経ってしまうでしょう? なら、もう脱いでしまっていた方が楽だわ。ティーファも、その方がやりやすいでしょ」


下着姿のままソファにだらしなく横になるアンジェリーナに、ティーファは床に落ちたドレスを拾い、染みの入り具合を確かめる。


「・・・・そうですね。だからと云ってっ、せめてなにか着てくださいっ。どなたかいらっしゃったらどうされるのですか」

「誰も来ないわよ。めんどくさがり令嬢って、呼び名がついているし。あーーっ。せっかく美味しそうなケーキを食べようとしていたのにっ。王城のパーティの楽しみなんてっ。料理ぐらいしかないのにっ」


ソファにあったクッションを抱え、顔を埋めて云うアンジェリーナに溜め息を吐きつつ、ティーファは染み取りを始める。アンジェリーナは、ティーファの手の動きを見ていた。


「・・・・わたくしも、できるのに。させてくれないのだから」

「当然です。普通のご令嬢は、このようなことはご自身でされません」

「良いじゃない。そういうのがいても。・・・・にしても、早く婚約者をきめないから。こんなめんどくさいパーティばっかりして税金を使って良いと思っているのですか? ライオット殿下」

「誰かさんが、“お受けします”とひと言云ってくれれば。こんなパーティを開かなくても済むんだけど。・・・・で、なんでそこに用意してあるドレスを着ない?」

「どうして、新しいドレスがあるのかと思っていたのだけど。やっぱり、ライオット殿下が用意してたのですね」

「当然だろう? そろそろ私の眼の色をしたドレスを着て欲しいのだけど、ね」

「お断りしますわ。王室なんて、入りたくないですもの。それこそ、とんでもなくめんどくさいことしないじゃないですか。めんどくさいことなんて、お断わりですわ」


横になっていた身体を起こし、アンジェリーナはいつの間にか部屋に入ってきていたライオットに云う。ライオットもなれているのか、なにも云わずに向かいにあったソファに座った。


「ティーファも大変だね。こんな、めんどくさがりわがままお嬢様のお付きになるなんて」

「それも、何年仰られているのですか? ティーファ以外に、わたくしの身の回りなんてさせませんわ」

「それで。あの騒ぎは?」

「名前も知らない女性に、紅茶をかけられたのですわ。それで、なにか喚いていらっしゃいましたけど。どうせ、わたくしと殿下のめんどくさいうわさを聴いて、あわよくば。を狙った方でしょう」

「めんどくさいうわさって・・・・。私とアンジェリーナが、内密に婚約していて。成人の儀の日に発表されるっていうのかい?」

「・・・・・初耳ですわ。どうして、そんなとてつもなくめんどくさいことしかないうわさがっ、回っているのですか!? わたくし、存じ上げませんよ!」

「そりゃあ・・・・・。そうだろうねぇ・・・・・」


珍しく声を荒げるアンジェリーナに、ライオットは頬を掻いて云う。なにかしましたね。とアンジェリーナはライオットを睨みつけた。


「・・・・えっと。父と母に、王太子になるにはアンジェリーナを王太子妃にしない限り、ならない。ってハッキリと云ったから。かな?」

「なんてことを云っているのよ!! こんのっ、腹黒!!」

「アンジー・・・・・。いくら、幼なじみでもその言葉遣いは・・・・」

「うるさいですわ! どうりで、今夜の登城をお父様がしつこく云ってくる訳ですわっ。ライオットの婚約者だなんて! 絶対にならないってっ。ずっと云ってますのにっ。他に、公爵家があるでしょう!?」

「残念。年頃の令嬢は、アンジーだけなんだよね。あと2家のご令嬢は、いるにはいるけど。流石に、4歳と3歳だとねぇ・・・・・」

「幼な妻でよろしいのでは?」

「国の体裁!!」


平然として云い返してくるアンジェリーナに、ライオットは云う。


「わたくしはっ、ライオットと婚約なんてしませんからねっ」


「でも、お嬢様。もう王子妃教育は終わっていますし。なんなら、王太子妃としての教育もすべて終了されていらっしゃいますよ? 周りからかためられていますよね」


そこに、染み取りをしていたティーファがあっけらかんと話しに入って云う。アンジェリーナは、は? という顔をして、ライオットとティーファを見た。


「・・・・ど、どういうことですの?」

「ティーファの云った通りだと思うけど? もしかして、なにも考えずに勉強受けてた?」

「だ、だって・・・・・。反論すると、とてつもなくめんどくさくなるから・・・・。って、本当なの!? ティーファっ」


アンジェリーナが愕然としていると、ライオットがなにをいまさら。と云い、ティーファはいまさらですね。という顔をする。アンジェリーナは口をぱくぱくさせると、云った。


「だからっ! 政治や経済学が多かったのですね!? なんてこと! いまからでも遅くはないですわっ。わたくしはっ、国外へ留学しますっ」

「なんでそうなる!! 絶対に、俺と婚約してもらうぞっ。アンジー!!」

「一人称が、俺になってますわよっ。この腹黒殿下! わたくしはっ、めんどくさいことは嫌なんですっ。小さい時からずっと云ってますでしょっ」

「解かっているからっ。外堀から埋めているんだっ」

「いま、なんておっしゃいました!?」


ライオットとアンジェリーナの言い合いが始まる。ティーファは、染み取りができたのかをドレスを広げて確認する。

「・・・・あ。ちゃんと取れましたね。あとは、乾かして・・・・。って、また始まってしまいました。相変わらず、どちらも素直ではないのですから。・・・・あら、テンさん」

「・・・・またお二人とも。パーティの最中なのに。仲が良いというか、なんというか」

「あれで、コミュニケーションをとられているのと思います。・・・・・あ、アンジェリーナ様を見ると、ライオット殿下に斬られますよ?」

「見ないようにしているよ。まさか、ドレスを脱いでいるなんて思わなかった」

「そうですね。でも、アンジェリーナ様ですし。まだ、終わらなさそうですので。あっちの部屋で、お茶でもいかがですか?」

「そうだな・・・・。終わりそうにないし。お茶にでもしますか」

ライオットとアンジェリーナが云い合っている間に、ティーファは入ってきたテンと隣室に移動する。


「めんどくさいことは、嫌だと云っているでしょ!!」

「それでも、王子妃になってもらうぞ!!」


アンジェリーナのめんどくさライフはこれから始まりそうであった。





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