97話:とんでもない悪党でした!
翌日。
目覚めた瞬間にジェラルドからキスのシャワーだ。
昨晩。
校外学習に参加し、私が疲れていることを考慮してくれたジェラルドは、大変優しい溺愛で済ませてくれた。でもジェラルドとしてはいろいろ物足りなかったのだろう。
「キャサリン。ぐっすり眠っていたな。疲れはとれたか? もう回復したか?」
「はい。おかげさまで、スッキリした目覚めです。元気いっぱいですよ」
「そうか。それはよかった」
そう言って私をぎゅっと抱きしめたジェラルドは……。
朝食の時間ギリギリまで、朝の溺愛タイムだった。
◇
この日の夕方、王都では号外が配られることになった。
その号外が伝えるのは、王立レーモン学園創設以来の大不祥事だ。
校長による違法薬物の取引事件!
校長は自身の親族の農園で、違法な薬物の元となる植物をひそかに栽培させていた。乾燥させたその植物は粉末状にすると、どんぐりの中身をくり抜き、その中に入れる。そして香りが強いクローブのスパイスに忍び込ませていた。
この薬物を国外へ持ち出すとなると、検査がある。
だがそこはうまいことやっていた。
検査用のスパイスの容器には、どんぐりは入れていない。
あたかもランダムに検査をしているように見せかけ、その実は箱の蓋を外しやすい木箱を用意するなど、巧妙な誘導が行われていたのだ。しかも残念なことに、この世界は前世程、この検査が厳密ではない。テクノロジーを駆使した方法もないため、それですり抜けていたのだ。
貯蔵庫からスパイスを持ち出す際、ジェラルドはわざわざ箱を開封し、そこから取り出したスパイスを持ち帰っていた。蓋が閉じていない箱もあったのに。その理由はこの検査を踏まえ、偽装している可能性にジェラルドが気づいたからだ。
そこはもう、さすが公爵様!だ。
こうして検査をクリアし、薬物を国外への持ち出し、販売していたわけだが……。
この検査に至るまでのルートが、実に卑劣なのだ!
まず沢山あったクローブのスパイス。あれは校長の妻が会長を務める商会で、輸入しているものだ。それを農園に運び、薬物入りのどんぐりをスパイスに混ぜ、これをなんと学園に持ち込んでいたという!
校長の親族が運営する農園は、校外学習に協力している。かつ種まき体験を行い、収穫したレタスは普通に美味しい。そこでこの農園から様々な野菜や果物を、学園はカフェテリアで使う食材として、仕入れていたのだ。その荷物の中に、薬物が入ったどんぐり入りのスパイスの木箱も紛れ込ませていた。
その一方で王立レーモン学園は、卒業生の寄付により、巨大な温室を所有していた。そこは専門のスタッフにより管理されており、南国のフルーツやスパイスなども栽培されていたのだ。そして収穫したものは、王立レーモン学園の名産品として、国外へ輸出されていた。
この輸出品の中に、薬物入りスパイスを紛れ込ませていたのだ。学園の温室で栽培したスパイスと偽って。そしてこの輸出品を扱う商会は、校長の妻の親族が運営していた。
こうして家族ぐるみ、親族ぐるみで協力し、薬物を国外へ流す。
手も込んでいるし、労力もかかっている。
だがそれに見合う、それ以上の多大な利益を得ていたのだ。
完璧と思われた悪事に綻びが生じる。
逃げ出した使用人の証言、家宅捜査で押収された薬物入りのスパイス。
言い逃れはできなかった。
こうして校長の家族と親族は全員逮捕される事態となる。
「お父様、お母様、本当に驚きました。校長先生が、まさか逮捕されるなんて……。しかも王立レーモン学園を舞台にそんな悪さが行われていたことに、驚きました」
「確かに衝撃だったと思う。ここで悪の芽を摘むことができ、本当によかった」
「でも証拠品の発見に、お父様とお母様が活躍していたなんて!」
「ブルース、それは公にはしないことになっているから。私達家族の秘密よ」
こうして一件落着したわけですが。
ジェラルドと私の行動はあくまで隠密行動。
知っているのは国王陛下と重鎮数名とブルースぐらいだ。
だがこの貢献に対し、国王陛下はスペシャルな褒美をくださることになった。
ジェラルドに対しては、理事長兼校長の役職が与えられることになったのだけど……。
歴史ある伝統校の校長職への就任。これは喜ばしいことであるが、ジェラルドは既に公爵としての責務が山ほどある。
そこで有能な補佐官を数名置き、彼らが実務をこなし、ジェラルドの負担を軽減してくれることになっていた。
そして。
私には風光明媚な土地をプレゼントしてくれたのだ。
そこはとても美しい湖があり、その中央にぽっかり浮かぶ島もある。さらには秀麗な古城があった。古城といっても王室で年に一回は利用しているため、大変美しい。しかもそこで働く使用人も含め、譲与していただけるのだから……。もうビックリ!
私としてはジェラルドが証拠探しをしているとは知らず、単純に「なんだか校長、怪しいです!」という直感で動いただけだったのに。城と使用人付きの土地をもらえるなんて、もう驚くばかり。
ただ、国王陛下曰く。
「フォード公爵家には、とても世話になっているからな。しかも本来、その活躍を大々的に賞賛した上で、褒美を授けたいところだが、今回はそうもいかぬ。だが違法な薬物を根絶する上で、その密輸ルートを潰せたことは、とても大きな意味を持つ。それゆえの御礼の品。受け取って欲しい」
こんな風に言われ、受け取らないわけにいかない!
ありがたくいただくことにした。
来月になるとブルースもミユもテストが終わる。
そしていただいた土地は、王都から離れているので、その頃には紅葉も始まるだろう。
よし。
みんなで秋の古城へ行こう!