96話:実は……!です!
「ただいま戻りました、お父様、お母様!」
ブルースが笑顔で帰宅した。
まだ夏の陽射しが残る中での農作業。
ブルースは私達と同じ。
いい汗をかいたので、まずは入浴。
そしてそれが終わると、夕食だ。
その夕食の席ではブルースが、校外学習での様子やレタスを使った珍しい料理を食べることができたと、楽しそうに語ってくれた。
実はその料理の数々をジェラルドと私も楽しんでいたのだけど……今回、臨時用務員と馬丁としてこっそり同行していたので、それは秘密だ。
「満腹になりました。今日はたっぷり日光も浴びたせいか、眠くて仕方ありません。入浴も終えているので、僕はもう休みますね」
「ええ、ブルース。明日も学校なのだから、今日はゆっくり休むといいわ」
「はい、お母様、そうします」
こうしてブルースが早々に部屋へ引き上げ、ジェラルドは私の部屋へとやって来る。
いつもここからワインを楽しみ、大人の時間へ突入だが、今日はそうならない。
なぜなら。
「キャサリン。今日持ち帰ったクローブが入ったスパイスがあるだろう」
「はい。何か分かりましたか?」
「わたしはその道の専門家ではないから、商会のスパイスに詳しい人間に見てもらうつもりでいた。それでも一応、中を改めてみることにした結果。ある物を発見した」
ジェラルドが発見したもの。
それは……。
「一旦、容器の中のクローブを、全部取り出したんだ。すると中に奇妙な物が入っていた。これだ」
ソファに横並びで座っていたが、ジェラルドは着ていたバスローブのポケットからどんぐりの実を取り出した。そしてそれをローテーブルに置く。
前世でも見かけたことがある、栗のようにぷっくりしたしたどんぐりだ。この世界ではオークの実とも呼ばれている。
「このどんぐりの帽子のような部分は殻斗と呼ばれている。これを外したところ、見てご覧、中に粉末が入っている」
どんぐりの帽子。まるでベレー帽のような可愛い形をしている。
「粉末。本当ですね。何ですか、これは……? どんぐりの実をすりつぶしたものですか?」
「まだ何であるかはわたしでは分からない。よって明日、商会の薬品部門の研究所で分析してもらうつもりだ」
「薬品……? 食料品部門ではなく、ですか?」
どんぐりは食用できるものも存在している。とはいえ、王侯貴族ではなく、平民が食べる物とされているが。そしてスパイスの中に入っていたのだから、食品なのではないかと思ったのだ。そこで尋ねると、ジェラルドは「違う、薬品部門だ」と言い、持論を披露する。
「今、この大陸ではある薬物が問題になっている。その薬物を摂取すると一時、多幸感に満たされるという。その一方で、意識障害が出て、身体機能にも問題が生じる。だが強くその薬物に依存し、摂取することが止められなくなり、廃人も同然になってしまう」
「それは……確かに新聞で読んだことがあります。まさかレーモン王国でもその薬物が!?」
「いや、我が国では対策をきっちりとっているから、その薬物が使用されることはない。ただ、どうもその薬物をこの国内で製造している者がいるらしいんだ」
そしてそれは、ある人物の元で働いていた人間から寄せられた情報だという。
「今日、皆で行ったあの農園。実はそこから逃げてきた使用人を国で保護している」
「え、そうなのですか!?」
「その使用人の男性は、あの農園で普通に農作業に従事していた。農園は区画が二つに分かれており、もう一つの区画への立ち入りを禁止されていたのだが……。ある日、足を踏み入れてしまい、そこで通常の農作物とは別に、何か特殊な植物を栽培していることに気付いてしまった」
そう、不法薬物の元になる植物を栽培していることに、気が付いてしまったのだという。
「だが証拠がなかった。命からがらで逃げて来たから。そこで秘密裏に国王陛下から依頼が来たんだよ。例の宰相の件で、見事なスパイ活動を披露した公爵夫妻に、ぜひ秘密裡に証拠を見つけてきて欲しいと」
秘密裡に動くことになったのは、証拠隠滅を防ぐためだったという。
「そうだったのですね……! では今回、私が農作業をしたいから手を回してくれたわけではなく……」
「ブルースから校外学習について聞いている時、君が興味を持っていることに気が付いていた。ゆえに先に君のために、根回しをしていたんだ。すると後から国王陛下に話を持ち掛けられた」
そこでジェラルドはこんなことを言う。
「わたし達夫婦は違法薬物の事件とは無縁だ。むしろ恋愛沙汰でいろいろ大騒ぎしていたから、よもや校長もわたし達が薬物の件で動いているとは思っていない。完全に油断していたと思う」
「なるほど。ではジェラルドは校長の行動にもあの時、目を光らせていたのですね。だから離れに向かった時、後を追ったと」
「そうなる。わたしはそうだったがキャサリン、君は違う。自身の勘で怪しさを感じた。なんだかキャサリンはスパイの素質がありそうだ」
そんな風にジェラルドから言われると、嬉しいやら恥ずかしいやら。
それを誤魔化すようにジェラルドに尋ねる。
「分析が終わり、薬物だと判明したら……」
「家宅捜査だろう」
「そうなったらあの校長は……」
「無関係です、では済まないだろう。間違いなく、厳しい取り調べを受け、終わりだろう」
スキー合宿での一件、カンニング濡れ衣事件の時は、クビにできないかと思ったりしたけど……。遂にそうなるのね。
「明日には全てが動く。今日のところはここまでだ、キャサリン」
そう言うとジェラルドはどんぐりの殻斗を元に戻し、テーブルに置くと。
ゆったりと私を抱き寄せた。
お読みいただき、ありがとうございます!
な、なんと!
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なろう人生初です!
https://syosetu.com/issatu/index/no/221/
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筆を折らず書き続けてよかった……(感涙)
これも読者様の応援のおかげです。
いつもありがとうございますヾ(≧▽≦)ノ