93話:脳が喜ぶ!です!
バカンスシーズンが終わり、ブルース達も学校が始まった。
ブルースは特別交換留学から帰国し、新学期からは通常通り、王立レーモン学園へ通うことになる。そして三年生はこの時期、校外学習がある。
この校外学習では毎年内容が変わるが、今年は農業体験!
秋が種まきとなるレタスの農作業を体験するという。
生徒交代で定期的に当該の畑に通い、約一か月後には収穫となり、皆でレタスを使った料理を食べるというのだ。
そう言えば前世豆知識で、かのマリー・アントワネットも宮殿の敷地の一角で農園を再現し、農作業に挑戦していたとか。貴族からすると農作業は、普段の生活の対極に位置するものであるが、興味は尽きないようだ。その結果が、王侯貴族の通う王立レーモン学園の校外学習であり、農作業体験なのだろう。
その一方で。
キャサリンの記憶を振り返っても、女学校時代に農業体験の記憶はない。そう考えるとこの王立レーモン学園の農作業体験は、画期的でもあった。
「それではお父様、お母様、行ってまいります!」
農作業を体験することから、普段の制服ではなく、汚れてもいい服装が必須となっていた。よってブルースは水色のシャツにグレーのカーディガンと同色のズボン、そしてまだ陽射しが強いことからストローハットを手に屋敷を出た。
「キャサリン、その様子だと、もしや農作業体験に興味があるのでは?」
「! 分かります?」
「そうだろうと思い、実は手配をしておいた」
ジェラルドは先回りして、臨時用務員モナリザが今日の郊外学習に同行する手筈を整えてくれていたのだ。しかもジェラルド自身も、作業用の白シャツに茶色のズボン、そしてハンチング帽を目深に被っている。これは学園の厩舎に臨時で雇われた馬丁の変装! ブルースが一年生の時の体育祭では、この姿で大活躍している。そして今日はこの姿で私に同行するというのだ!
ジェラルドとタッグを組んで動くのは、久々になる。これはなんだか嬉しくてたまらない!
すぐに髪をまとめ、チャコールグレーのワンピースに着替え、眼鏡をかけると、ジェラルドと共に屋敷を出た。
馬車が走り出すと、隣に座るジェラルドは、こんなことを教えてくれる。
「今回向かう農園は、あの校長の親族が運営する農場らしい。学園の行事に協力することで、税金面でも優遇措置を受け、それどころか補助金迄もらっているとか。あの校長、なかなかのやり手だ」
そういう情報にジェラルドが詳しいのは、学園理事をしているからだろう。
「そもそも校長は平民出身で学園経営に長けていた。最初は貴族の寄付で平民の子供たち向けの学園を作り、運営していたが、そこで貴族への人脈を広げたんだ。その結果、男爵位を賜ることになった。知っての通り、長い物には巻かれるのが得意な、日和見主義者。うまいこと貴族社会に馴染み、至る現在というわけだ」
校長については、過去にいろいろと思うところがあったが、彼に構う暇がなかった。だがスチュアートも大人しくなった今、この校長に埃がないか調べてみてもいいのかもしれない。
「さあ、見えて来たぞ、キャサリン」
そんなことを話していると、王都の中心部を少し離れた郊外の農園に到着した。
◇
今回の校外学習はA組~C組共通で行われる。
とはいえクラスごとにチーム分けされ、ブルースとミユは別々のチーム。
でも畑に出て、種まきのために浅い溝を作り始めると……。
時折二人が視線を合わせ、微笑み合っている。
私は畑から少し離れた厩舎でその様子を見ていたのだけど、二人は大変、微笑ましい!
「ポチリーナ!」
白シャツに麦わら帽子の王子様はなかなかに珍しい姿。
しかも鍬を片手に持っているのだから。
「まさかここでお会いできるとは思いませんでしたよ」
私の所へ駆け寄ったスチュアートは、ニコニコと笑顔で、頬には土がついている。
もうこれではお子ちゃまだ。
「殿下、お顔に土が」
ハンカチで頬を拭くと、ぽうっと赤くなる。
何を恥ずかしがっているのかしら?
だが次の瞬間、サーッと青ざめ、「それでは僕は作業がありますので」と踵を返し、駆けて行く。
「王族のあんな姿を見られるのは、こういう時だけだろうな」
「ジェラルド!」
馬の手入れに使うブラシを手に、ジェラルドが殿下を見送る。
鍬を片手にしたスチュアートも珍しいが、馬丁として馬の手入れに追われるジェラルドもまた珍しい。何せジェラルドは公爵なのだから。
「キャサリン、さっきここの農園の管理部の人間がいたから、話をつけておいた。厩舎の横に井戸があるだろう? その奥の道具小屋の横に、猫の額ほどのスペースがある。そこはこの農園で働く者達が、自分達が食べる野菜を育てているそうだ。そこでレタスの種をまいていいそうだ」
「! 本当ですか!」
「ああ。さすがに手入れは頻繁に行えないが、種まきをやってみたいのだろう?」
まさにその通り!
私もまた公爵家の令嬢であったことから、庭いじりは勿論、農作業経験はない。
前世では小学生の頃に朝顔の種をまいたぐらいだ。
でも農作業や庭園いじりに興味がないわけではなかった。
というわけでジェラルドと二人、こっそりレタスの種まきに挑戦した。
「ふうーっ、ジェラルド、なんだか楽しかったわ!」
「普段、やらないことを体験すると、脳が喜ぶからな」
まさにその通り!
種まきを終え、井戸の水でジェラルドと二人、手を洗っていたまさにその時。
生徒たちも種まきがひと段落し、もう一つの井戸の方へ順番に移動を始めていた。
その流れに反するように、校長が離れの建物に一人向かっている。
この農園は校長の親族が運営しているのだ。
親族に会いに行った……だけなのかもしれない。
だが、何か気になった。
「ジェラルド」
「何か気になるんだな、校長の行動が」
私が頷くと、ジェラルドが「離れの様子を探ってみよう」と言ってくれた。
お読みいただき、ありがとうございます!
お盆返上で脳みそをふりしぼり、連載できる量の原稿を書き終えました!
ぜひお読みいただけると嬉しいです~
そして。8月はいろいろありましたヾ(≧▽≦)ノ
まずはとあるコンテストで4つの作品が一次選考突破、現在二次選考中です。
読者様の応援に心から感謝ございます!
詳しくは活動報告を投稿していますので
もし気になる方がいらっしゃいましたらご覧くださいませ~
そして完結と新章スタートのお知らせです!
【完結】全47話一気読み!
『悪役令嬢です。
ヒロインがチート過ぎて嫌がらせができません!』
https://ncode.syosetu.com/n4280ji/
ラストは絆に心がほっこり。
ざまぁがあってもハートフルなハッピーエンドです!
【新章開始】コンテスト二次選考中
『転生したらモブだった!
異世界で恋愛相談カフェを始めました』
https://ncode.syosetu.com/n2871it/
章ごとに読み切り!
恋愛・結婚・夫婦の悩みに主人公がズバリ回答!
【新章開始】コンテスト二次選考中
『悪役令嬢は我が道を行く
~婚約破棄と断罪回避は成功です~』
https://ncode.syosetu.com/n7723in/
感動の前章から続くあの二人の恋の行方は――。
新章「風媒花とヒヤシンス:変わらぬ愛の物語」を
ぜひお楽しみくださいませ!
上記作品、すべてページ下部に目次ページへ遷移するバナーがございます。
よろしくお願いいたします☆彡