90話:見抜きました!です!
まさか国賓として招かれて、この国の綿花産業の闇に巻き込まれ、こんな風に人質にされてしまうなんて!
ラーク第二王子は小声で「申し訳ないです」とジェラルドに謝っている。
一方のリアーニャ第二王女は大変不服そうな顔をしたままだ。
「ジェラルド、どうにかできないかしら?」
「まずは犯人の正確な情報を掴みたい。人数がどれぐらいいるのか。爆弾はどの辺りに仕掛けられているのか」
「そうなると……。食事や水を要求し、レストルームに行かせてもらうのはどうでしょう?」
「おい!」
男の声にビクッと体が震える。
下を向いているが、足音がこちらへ近づいてきているのが分かった。
「何をごちゃごちゃ話している! 死にたいのか!」
「待ってくれ。女性たちを順番にレストルームに行かせてほしい。同じ人間としてそれぐらいは、許してやってくれないか」
沈黙が広がる。
だが。
「仕方ない。一人ずつ、順番にだ」
男は凶悪犯というわけではない。
無理矢理いずれかの隣国の村からここへ連れてこられただけで、普段は平凡な市民の一人の可能性が高い。つまり胸に爆弾を巻き付けていたりするが、本来そんなことをするような人間ではないはずだ。
ゆえにレストルームへ行くことも許してくれたのだろう。
「どいつからだ?」
ここはまず、リアーニャ第二王女だろう。
こうしてリアーニャ第二王女、ミユ、ロイター子爵夫人、私の順番でレストルームに行くことができた。
レストルームに行くまでの道中で分かったこと。
本来レクチャーが終わったら、昼食だった。
でもそのお昼の時間はとっくに過ぎ、間もなくティータイムくらいの時間ではないか。
だが綿花畑で働いていた人は、誰も食堂に来なかった。
そもそも花が咲いている今の時期の日中は、毎日する作業は朝と夕方の水やりと聞いている。
この時間帯は最初から人が少ない可能性もあった。
それでもゼロではないと思う。
そうなると彼らは家へ帰されたのかもしれない。
つまり誰一人途中ですれ違うことはなかった。
そして肝心なのは、ここ。
男の仲間とさえ、すれ違っていない。
食堂には入れ替わり立ち代わりで複数の男達が部屋に出入りしていた。
沢山の仲間が、人質の様子を確認したはずだ。
それなのに誰ともすれ違わない。
これは……どういうことなのかしら?
さらに見える範囲で確認したが、爆弾が仕掛けられている様子はない。
柱に爆弾を貼り付けておくイメージが強いが、それはなかった。
レストルームの中にも一つもない。
冷静に考えると、爆弾はそう簡単に手に入れることができるものではない。
……。
そうよ、そうだわ。
この世界で鉱山で使われる爆弾は専門家が作っており、扱いも厳重のはず。
隣国からここまで連れ去られ、奴隷同然の低賃金で働いている人間が、爆弾を沢山手に入れるなんて、まず無理だ。
そうなると……。
胸の周りにつけている爆弾。
一つは本物かもしれない。でもそれ以外は偽物の可能性もあるのでは?
もしかするとすべて偽物の可能性だってあった。
そしてあちこちに爆弾を仕掛けたというが、それはハッタリ。
嘘の可能性が高い。
レストルームから戻り、その後は次なる交渉で、コップ一杯の水とパンを一つずつ。
全員手に入れることができた。
食べながら、多少会話することは黙認されている。
小さな声で情報交換を行う。
「綿花畑で労働に従事している人達とは、一切すれ違いませんでした。それどころか男の仲間とも。順番にトイレに立つ間、別の男が食堂を見張っていましたが、それ以外の仲間らしき人間を見かけません。国王陛下が動き、兵士を送り込むことを警戒し、ここ以外の場所に仲間はいるのでしょうか?」
今、ミユが言った通りで、私も全く同じ所感を持ったことを伝えると……。
ジェラルドはこんなことを言い出したのだ。
「わたし達は男から『顔をあげるな』と命じられている。そしてずっと床とにらめっこだ。だが時折、チラチラと男の方へ視線は向けていた。見張りの男は入れ替わり立ち代わりで時間をおいてやってくる。さらにパンを配った男。水を注いだ男。違っていると思ったが……。あることに気づいた」
そこでさらに声を潜めたジェラルドは、こう告げる。
「上衣やズボンは違っていた。髪の色も。あまり顔を上げることができないので、断言できないが、髭を生やしている者、生やしていない者もいた。それだけで言えば、十人以上の男がこの食堂を出入りしていることになる。つまり十人以上の仲間がいる」
そこでジェラルドはさらに声を潜める。
「だが……靴は二種類だ。一人は牛革の黒い靴。もう一人は茶色の鹿革の靴。使い古した感じ、傷の具合。靴だけに関して言えば、二人しかいないんだ。もしかすると仲間がいると思わせているが、実際は二人しかいないのかもしれない。服を着替え、カツラを被るなどして、大勢仲間がいると、わたし達にアピールしたということだ。こんなに仲間がいるなら何もできない。諦めようと仕向けるために。だが靴までは履き替えなかった。変装の基本も知らない素人なのだろう」
小声だったので、これが聞こえた人間は限られている。だが聞いた者は「なるほど!」と唸ってしまう。
さすがジェラルドだわ!
そこですかさず私は爆弾に関する見解を伝える。
すると……。
「公爵の奥方様の分析。確かに正しいと思えます。爆弾は鉱山を所有する貴族と国家の間で厳しく管理されているのは事実です。爆弾制作に関わる専門家も登録制であり、許可なく爆弾の制作は認められていません」
シール副団長も私の考えを支持してくれた。するとジェラルドが一つの見解を示す。
「本物の爆弾ではない可能性が高く、建物の他の場所に爆弾はない気配が濃厚。仲間はおらず、二人組での犯行であれば……。例え武器がなくても、制圧はできるはずだ」
ジェラルドの言葉にシール副団長、ブルースが頷く。それを見たジェラルドは静かに告げた。
「まずは男にバレないよう、ロープを緩めよう。そして合図と同時に、動こう」
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【お知らせ】第一部完結!
『悪役令嬢です。
ヒロインがチート過ぎて嫌がらせができません!』
https://ncode.syosetu.com/n4280ji/40/
全40話、第二部開始までに一気読みはいかがでしょうか!
第一部だけで読み切りになっています。
ページ下部に目次ページにリンクしたバナーがございます~
お待ちしています!