88話:諦めないようです!
ミユに飲み物がかかってしまう!
ジェラルドが神業瞬発力で動いているが、どう考えても間に合わない。
だって距離があり過ぎる!
絶対に、わざとだと思う。
やはりヒロインは一度は飲み物をかけられないといけない運命なのね……。
見ていられないわ。
一旦目を閉じる。
シンとしていた。
あ、あら?
普通、飲み物がかかり「キャーッ」になるのではないの?
首を傾げ目を開けて驚く。
目を凝らし、取り巻き令嬢とリアーニャ第二王女の隙間から見えたものは……。
腰を少し低くした姿勢で、グラスをキャッチして静止しているブルース!
絨毯の上に多少はこぼれている。
だがブルースの背に庇われたミユに被害はなし!
すごいわ、ブルース!
「も、申し訳ありませんでした!」
取り巻き令嬢が慌てて謝り、ブルースは乱れた前髪をさりげなく指で戻し、にこやかに微笑む。
「ええ。こういうリスクは舞踏会ではよくあることです。お気になさらずに。ではこれで失礼します。……行こうか、ミユ」
リアーニャ第二王女の歯軋りする横顔が見える。
それを見ただけで、計画的犯行だったと確信ができた。
一方のブルースとミユはこちらへ歩いてきて、私と……ジェラルドが戻ってきている!
ジェラルドの動きも俊敏だったわ!
ということでジェラルドと私に、ブルースとミユは笑顔になる。
本当に。
本当に!
ジェラルドや私の助けが不要なくらい、ブルースは成長したわ!
ひやっとしたものの。
この後、リアーニャ第二王女は腹いせのように、手当たり次第に令息とダンス。
メロメロになった令息に見向きもせずに、次の令息とダンスをする――これを繰り返していた。
思うに。
あの女性フェロモン満点で王女なのだ。
相手なんて選び放題のはず。
ブルースに目をつけなくてもいいのに!
さっきの一件で肝を冷やし、もう関わらないで欲しい……という願いは届かず。
翌日、綿花畑の見学に行くことになったのだが、そこにリアーニャ第二王女がまたもや現れたのだ。
◇
ハッサーク国の主要な輸出品と言えば綿だった。
王都を少し離れれば、綿花畑が広がっている。
そして夏のこの季節。
コットンフラワーの花が咲き誇っているという。
それを見るため、私達は王家が有する綿花畑を案内してもらえることになったのだ。
案内役を買って出てくれたのは、ラーク第二王子。
勝気なリアーニャ第二王女と違い、大人しいタイプ。
ゆえに。
リアーニャ第二王女が「わたくしも同行したいですわ!」と言うのを断り切れなかったようだ。
迎賓館のエントランスに、迎えの馬車と共にやってきたラーク第二王子。
そのそばには、露出多めのマゼンタ色の伝統衣装を着た、リアーニャ第二王女の姿があった。
昨日より、さらにスカートのスリットは深くなり、谷間の露出面積も増えている。
ポロリといきそうで、見ているこちらがドキドキしてしまう。
というか……。
昨晩、私も似たようなこの伝統衣装を着て、ジェラルドと……。
いろいろな変装をしたが、昨晩のジェラルドは一番気持ちが昂っていたような……。
なんでもスリットから覗く太ももは、たまらないらしい。
おそらくこの世界では、太ももを含めた足全体は秘匿されるべきもの。よって、それがチラチラ覗くだけで……。
もしジェラルドが、ミニスカ生足女性を見たら、どうなるのかしら?
というか、今、まさに目の前に露出が多いリアーニャ第二王女がいるのよ。
私も子爵夫人もミユも。
白、淡いグリーン、パステルピンク色のドレスを着ているが、腕の部分がレースで、露出ほぼなし。
やはりリアーニャ第二王女に目が吸い寄せられるのでは!?
そう思い、ジェラルドを見る。
ライトグレーのセットアップのジェラルドは、白のトーブにグリーンのマントのラーク第二王子に挨拶をしており、その隣にリアーニャ第二王女がいるが……。
昨日と同じだわ。
完全に眼中にない!
これには心底嬉しくなる。
若い色気のある女性に、鼻の下を伸ばす夫。
それは最悪以外の何ものでもない。
だが、公爵様はそんなことがないのだ!
さすが私のジェラルドだわ。
スパダリで妻に夢中なんて最高!
嬉しくて抱きつきたくなるのを我慢する。
「ではフォード公爵夫妻、ロイター子爵夫妻はこちらの馬車へ。ブルース殿、ミユ殿、そして僕と妹はこちらの馬車に乗ります。前後は護衛の騎士がつきますので」
こうして綿花畑へ向け、出発となる。
朝から夏の陽射しが降り注ぎ、気温がぐんぐん上昇してきている。
レーモン王国のカラッとした暑さとは違い、ハッサーク国は少し湿度もあるようで、日本の夏を思い出す。
窓を細く開け、扇子であおぎながら、子爵夫妻とおしゃべりをしていると。
商店街や貴族の邸宅エリアを抜けたと思ったら……。
右手に、淡い黄色の花畑が見える。
コットンフラワーの花はやはりハイビスカスに似ていた。
中心部がワイン色で花びら全体は明るい黄色。
ただハイビスカスの畑なんて見たことがない。
ゆえにこの景色はまさに圧巻だった。
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