87話:今“あるある”はいらないのです!
夜の舞踏会に出席するため、ソークでの買い物を終えると、着替えとなる。
ジェラルドは光沢のあるパールシルバーのテールコートで、タイに飾るブルーダイヤモンドの宝飾品がアクセント。
ブルースは若々しさを感じる明るいスカイブルーのテールコートで、サファイアのカフスボタンをつけている。これはフォード公爵家に代々伝わるカフスボタンで、嫡男に継承されているものだった。
ロイター子爵は王道の黒のテールコートだ。
ミユは、フレッシュなライムイエローのドレスで、白のレースがとても上品。いつもピンク系のドレスが多いミユが、この色をチョイスしたのは、とても斬新だった。あのタンザナイトのペンダントとも合っている。そしてブルースと並んだ時、二人の衣装の配色は抜群! 素敵なプリンス&プリンセスになる。
ロイター子爵夫人は、リーフグリーンの落ち着きのあるドレスで、金糸による刺繍がとても繊細で美しい。
そして私!
ロイヤルブルーのシルク生地で、スカートの裾には星を散りばめたようなグリッターがあしらわれている。身頃には銀糸で薔薇の模様が刺繍されていた。
「ではそろそろ会場に向かおうか」
迎賓館のダイニングルームで、昼食と同じメンバーでの夕食会を終え、隣室で寛いでいた。だがジェラルドのこの一声で、移動を開始する。
会場となるホールの天井はドーム型で、天井一面に絵が描かれている。まるで美術館の名画を天井に集結させたかのようで、寝転がって存分に眺めたいぐらいだ。さらにそこから吊るされているシャンデリアの豪華なこと! 純金製というが、とても重そう!
床はピカピカに磨き込まれ、まるで鏡面のようだ。壁を飾るタペストリー、飾られた南国の花々。
その雰囲気の絢爛さに加え、着飾った招待客が彩を添えている。
ハッサーク国の女性は、こういう場で赤、オレンジ、濃い黄色などの暖色系の生地に、黄金を宝飾品としてまとうのが慣例のようだ。私のようなロイヤルブルーのドレスの人はいない。だが逆に珍しがられ……。
「まあ、公爵夫人のドレス、星空のようで素敵ですわ」
「こういう暗めの色でも、こんなに素敵なドレスが出来るのですね!」
様々な方に声をかけられた。
そこに国王陛下夫妻をはじめとした王族が入場し、国賓である私達が紹介される。
「本日は友好国であるレーモン王国から、国を代表する公爵家、かのフォード公爵夫妻とそのご令息をお招きした。そしてそのご令息であるブルース殿。彼は特別交換留学生として我が国に来て、春から学業に勤しんでいた。バカンスシーズンの今、ブルース殿の婚約者も我が国に滞在している。ロイター子爵夫妻とそのご令嬢のミユ殿だ。今宵はぜひ、レーモン王国とハッサーク国の友好をさらに深められたらと思う。それでは最初のダンスといこう」
そして最初のダンスはブルースとミユ!
ミユは他国の大勢の前で、しかも最初のダンスなんて初めてのこと。ブルースはきっと留学した際、歓迎舞踏会で最初のダンスは披露しているのだろう。落ち着いた様子でミユをエスコート。周囲を気にしつつ、ミユに優しい視線を向け、声掛けをし、緊張を和らげようとしていた。
こうして始まった二人のダンス。
最初は少し、ミユがぎこちなかった。
でも元々二人はダンスパートナーとしても何回も踊っている。三ヵ月のブランクはあったが、すぐに体が覚えた感覚が戻ったようだ。息の合ったダンスを披露してくれる。そうなるともう見ている人々を魅了し、最後は拍手喝采でダンスは終わった。
その後はどこの国でも同じ。ダンスタイムに突入。私達もダンスを楽しむことになった。
しばらくはロイター子爵夫妻やブルースやミユ達と、パートナーチェンジしながらダンスを楽しんだ。
だがその後は、ハッサーク国の人々ともダンスを楽しむことになった。
そこで気が付くと、ブルースとミユの姿がない。
お互いに声をかけられ、別々のパートナーとダンスをしていたはずなのだけど……。
「ジェラルド、ブルースとミユはどこに行ったのかしら? もしかして夜の庭園を散歩している……?」
昼間見た庭園は舞踏会にあわせ、ライトアップされていた。
踊り疲れたり、ゆっくりおしゃべりしたい人々が、庭園に出て行く様子は何度か見ていた。
「さっき見たところ、隣室へ向かった。どうやら飲み物を取りに行ったようだ。様子を見てみるか?」
「そうですね」
あのリアーニャ第二王女も勿論、この舞踏会に顔を出している。
昼間のような伝統衣装ではなく、金糸の豪華な刺繍で飾り立てられた、真紅の妖艶なドレス姿で。
ジェラルドと二人、隣室を覗くと……。
いた!
ブルース、ミユ、リアーニャ第二王女……そして王女の取り巻きの令嬢!
この構図には嫌な想像しか浮かばない。
たいがいこのシチュエーションで起きることは……。
「「あっ」」
ジェラルドと二人、声をあげてしまう。
リアーニャ第二王女の飲み物を持つ手に、取り巻き令嬢の手がぶつかる。
するとグラスの中身はミユに向かい――。
転生婚約破棄ものあるあるの、飲み物をヒロインがかけられるシーンが、目の前で再現されてしまう!
今ここで、こんな“あるある”はいらないのにっ!
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
明日、8月9日(金)の朝7時に新作を公開します。
ある日、森の中で、異世界転生していた主人公は
クマさんではなく、 さんに出会うことで
物語が始まります。キーワードは……
ほのぼの/西洋/中世/魔法/ハッピーエンド/ラブコメ/溺愛
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ぜひ明日、お時間ある時に、遊びに来ていただけると嬉しいです!