84話:どなたです?
遂にハッサーク国に到着した。
レーモン王国よりさらに南に位置しているので、駅に降り立つと暑さを感じる。
肩から手首までがレースになっている白のドレスを着て正解だと思った。これなら日焼け対策ができつつ、暑さもなんとかしのげる。ちなみにミユの母親であるロイター子爵夫人も、同じように腕の部分がレースになったドレスを着ていた。ミユはシャーベットピンクのドレスに白のアームカバーをつけている。
ジェラルドは麻のアイスブルーのセットアップ姿で、見た目からして大変涼し気。ロイター子爵はオイスター色のスーツで、ハンカチで額の汗を拭っている。
駅の職員の案内で改札を出ると、国賓扱いだからか。迎えが大勢来ており、そこにブルースの姿を見つけた。
白シャツにコバルトブルーのズボンという姿のブルースはしばらく見ない間に身長も伸びている!
さらに凛々しくなったと感動していると、ブルースの背後からひょこっと顔を覗かせた女性がいる。顔しか見えていないのに。女性フェロモンの塊みたいだ!と思った。肉厚な唇と言い、唇のそばのほくろといい、セクシーさ満点の顔つきをしている。
「お父様、お母様、お久しぶりです!」
駆け寄ったブルースは、私達へ挨拶をすると、ロイター子爵夫妻に再会の喜びを伝える。そしてミユを見ると……。
「ミユ……!」「ブルース!」
二人がハグをしたと思ったら、その間にあの女性フェロモンの塊が割って入ってきた。
「ブルース、皆様のこと、紹介くださる?」
そう言って私達や自身の紹介を望んだセクシーな女性、彼女は自身が名乗ることで、リアーニャ第二王女であることを明かしている。ブルースが留学しているハッサーク国立アカデミー付属高等学院の同級生だという。
本来、国王陛下夫妻と共に、謁見の間で会うべき王族の一人である。なぜ駅まで来ているのかと言うと「ブルースのご家族に、早くお会いしたいと思いまして!」とジェラルドと私を見てニコニコ笑う。ミユとロイター子爵夫妻には全く関心がなさそうに思える。
一方、私達はリアーニャ第二王女に目が釘付けになってしまう。
なぜなら、その容姿と服装が、自然と目を引くものなのだ。
健康的に日焼けした肌、シルクのような黒髪でルビー色の瞳。
目元から下を覆うように透け感のあるベールをつけている。
ハッサーク国の伝統衣装はへそ出しスタイル。
ロングスカートをはいているが、深いスリットが入っており、太ももの半分が見える。
露出が多い。
レーモン王国の女性は、足はスカートでしっかり隠していた。
ゆえにレーモン王国の男性陣が、チラチラ見える太ももに興奮してもおかしくない。そう理性では理解できる。だが実際に興奮していたら、絶対に嬉しくない。
そこでジェラルドを見ると、そもそもリアーニャ第二王女が眼中になかった。
これにはホッとする。
対するロイター子爵の目は泳ぎ、顔が赤くなっていた。
もう生理現象で、これは仕方ないわね。
「皆様、馬車の準備ができております。どうぞご案内いたします、こちらへ」
宮殿の職員に案内され、馬車に乗り込む。
馬車は四人乗りということで、ジェラルド、私、ロイター子爵夫妻。
ブルースとミユ、そしてリアーニャ第二王女が同じ馬車になった。
「第二王女がなんだかブルースにベッタリで心配になります」
馬車に乗り込むと思わずジェラルドにそう訴えてしまう。
「確かに気になるが、相手はこれから謁見する王家の一員。それに今のところ、ブルースにまとわりついているだけだからな。一旦様子を見るしかない」
確かにジェラルドの言う通り。
だがまさかハッサーク国で、あんなセクシーな第二王女にブルースが付きまとわれていたなんて!
レーモン王国ではミユが第三王子フェリクスにプロポーズされて大変だったのに。ハッサーク国ではブルースが第二王女に狙われるなんて、何の因果なのかしら?
何はともあれ迎賓館に案内され、そこでハッサーク国の国王陛下夫妻に謁見することになった。
謁見の間は、青のタイルのモザイクと黄金で飾られ、とても美しい。
国土のほとんどが内陸にあり、海に面していないことから、青色への情景が強いと聞いていたが、それが実感できる造りだ。正面の玉座のファブリック、そこにつながる階段に敷かれている絨毯は深海を思わせるディープブルー。
「国王陛下夫妻、および王子、王女のおな~り~」
カチャッという金属音と共に両開きの扉が開き、ハッサーク国の王族が謁見の間に入場する。
ハッサーク国の国王フラベド・ジャン・トリスは、白髪で、顎鬚はもくもくとした雲のよう。白のトーブという前世の砂漠に住む方々が着ていそうな衣装に、青緑色のマントを左側の肩から斜め掛けしている。
王妃アルベド・ユマ・トリスは、黒髪を綺麗にまとめ、しっかりアイメイクと濃いルージュ。オレンジ色のガラベーヤというワンピースを着ている。黄金の刺繍、装飾品でゴージャス。
王太子は遊学中で不在。第二王子のラークは、褐色の肌で黒髪のおかっぱで赤黒い瞳。父親とお揃いの衣装で、マントは明るいグリーンだ。読書の好きな大人しい性格と聞いている。
第三王子のフェリクスはレーモン王国にいる。そしてコリーナ王女は留学先にいるということで、リアーニャ第二王女が最後に入ると、扉が閉められた。