73話:突然の呼び出しです!
今日の図書館での出来事を、寝室に来たジェラルドに話すことにした。
新緑の季節を迎え、ジェラルドのガウンは薄手になり、色も明るいグレーになっている。私も淡いラベンダー色のガウン姿だ。
「なるほど。殿下としてはブルースもいないのだから、コールと同率首位を取りたいところなのではないか。よって勉強に集中するため、あえてミユには声をかけなかった。それでも殿下が座った場所とミユがいた場所は近かったのだろう?」
「そうですね。通路とひとつテーブルを挟んで隣でした。殿下がいる場所からミユを見ることはできました」
「ふむ。その状況でフェリクス殿下が現れたと。もしそのままフェリクス殿下がミユに声をかけ、二人が勉強を始めたら、スチュアート殿下は気になるだろうな。視界に二人の姿が入るだろうから。集中して勉強することは難しいかもしれない」
これには今度は私が「なるほど!」と唸ることになる。
「自身が勉強に集中するには、ミユには一人で勉強して欲しい。もし誰かと勉強するにも、令嬢にして欲しいと殿下は思ったのでは?」
「つまりスチュアート殿下がフェリクス殿下に声をかけたのは、自身のためだったのですね」
ジェラルドは「そう思う」と頷く。
スチュアートはミユのことを好きなのだ。よってジェラルドの推論は正解に思えた。
◇
その後も図書館でミユ、スチュアート、フェリクス達が勉強をすることがあった。でもミユは令嬢仲間と一緒。スチュアートは腰巾着二人とフェリクスと勉強をしている。
何事もなく時は流れ、テスト期間が始まった。
その間はみんなテストに集中しており、平和な時間が流れている。
私も学校に行かず、公爵邸でお茶会の招待状を書いていた。
ところが。
「国王陛下から呼び出しが来た。キャサリン、今から共に宮殿へ向かおう」
ヘッドバトラーではなく、ジェラルドが直接、私の部屋に来て告げるので、ビックリしてしまう。日中、執務をしている時に何か私に用事があれば、ヘッドバトラーか補佐官が私の部屋に来て、ジェラルドからの伝言を聞かせてくれる。だが国王からの呼び出し。緊急事態なのだろう。
「了解しました。すぐに準備いたします」
モナカに昼の正装である立襟長袖のアイリス色のドレスを用意してもらい、すぐに着替えることにした。ジェラルドは白のフロックコートにアイリス色のタイを合わせている。清廉さを感じさせる装いにドキドキしてしまう。でも今は浮かれている場合ではない。
馬車に乗り込み、急ぎ宮殿へ向かう。
その馬車の中で一体何事なのかとジェラルドに確認するが――。
「王家からの早馬が来て、伝えられたことは『至急、宮殿へ顔を出すようにと国王陛下からのご命令です』としか言われていないんだ。詳細は何も語られていない。そして陛下に呼び出されるような案件が何かあるか考えたが……特にはない。よって何のための呼び出しかは想像もつかない」
こうなるともう、国王に会い、話を聞くしかない。
ただ、ジェラルドは元宰相のデイヴィス伯爵のような裏取引や不正は一切していなかった。よって悪事の指摘などで呼び出されたわけではないだろう。
そうではあっても不安は募る。
「キャサリン。安心しろ。悪い話ではないはずだ」
隣に座るジェラルドが私の手をぎゅっと握りしめる。
「覚えているかい、キャサリン。ホワイトフォレストのスノー・ディア(白い鹿)の件。崖からの転落事故を防ぐきっかけになり、キャサリンは褒章をもらうことになった。あの時も今日みたいに早馬が我が家に来て、急に宮殿へ来るように言われた。しかも指名されたのはキャサリンだ。驚き、わたしは随行する形で一緒に宮殿へ向かうことになった。何事かと思ったが、朗報だったわけだ。大丈夫。今回も悪い知らせのわけがない」
懐かしい話に頬が緩む。あの時はジェラルドの死をなんとしても回避したくて、必死だった。そのための奮闘により、現在ホワイトフォレストでの転落事故はゼロを維持し、誰もスノー・ディアを狩ることがない。
そんな感じでジェラルドと励まし合いながら、宮殿に到着。
待っていましたとばかりに侍従長がエントランスホールで私達を迎え、すぐさま謁見の間に案内される。通常、先客がいることが多く、待機室に一度案内されるのが慣例。それがいきなりそのまま謁見の間に通されるなんて!
さすがにこれにはジェラルドの表情も硬くなっている。
「フォード公爵夫妻、到着いたしました」
一足先に謁見の間に入った侍従長の大声が扉越しでも聞こえてきた。
すぐに扉が開き、侍従長が目で中に入るよう、促す。
ジェラルドにエスコートされ、緊張しながらも中へ入る。
謁見の間は国王の権威を示す場所でもあった。
天井は高く、巨大なシャンデリアが飾られ、壮大なスケールのフレスコ画が頭上に広がっている。玉座の後ろには巨大な王家の紋章のレリーフ。室内全体を飾る黄金の装飾。鏡のように磨き込まれた大理石の床。
もう、圧倒される。
玉座の対面に当たる場所まで移動し、そこでジェラルドと私と順番に挨拶を行う。
「よく来てくれた、フォード公爵。フォード公爵夫人」
ジェラルドと年齢の変わらない国王であるが、たっぷりの顎鬚により、貫禄がある。何より財を示す黄金の王冠を被り、黄金でできた玉座にいることで、とてつもないオーラがあった。どこかスチュアートの面影があるが、その存在はまさに百獣の王たるライオンのようだ。
「さて。今回は二人にお願いがあってな。ロイター男爵家とフォード公爵家との間で結ばれている婚約話。これを白紙撤回にしてもらえぬか?」
お読みいただき、ありがとうございます。
【お知らせ】第二部開始
『 悪役令嬢に転生したらお父様が過保護だった件
~辺境伯のお父様は娘が心配です~』
https://ncode.syosetu.com/n2700jf/
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