72話:不思議なルーチンです!
ミユの見守りは不本意ながら、スチュアートと行う形になっていた。
というのも、昼食にあわせ、学校へ向かう。こっそりミユの様子を見守る。しかも毎度場所を変えているのに、スチュアートが必ず私を見つけてしまうのだ! そして手にはハムカツサンド、ベーグル、クロワッサンサンドと実に美味しそうなランチを毎日のように持参している。
フェリクスとクラスメイトとランチをするミユに今日も問題なしとなると、スチュアートが用意した昼食をいただきながら、午前中のミユの様子を聞かせてもらう。
恐ろしいことにこれがルーチン化されている。
そもそもスチュアートを含めた令息が、ミユに手を出さないか。そこを心配してミユの見守りをしているはずだった。だが蓋を開けたら、そのスチュアートと一緒に、ミユを見守っている……。
なんだかおかしい。
でもミユの見守りはすこぶる順調なのだ。
本当にこれでいいのかしら……?
そう思うが問題は何もないのだ。
ということで腑に落ちないものの、スチュアートと二人三脚(?)のミユの見守りが続いていた。
そのミユとフェリクスは、二度目の校内案内を二人きりでしている。だがそこはいつものボディタッチはあるものの、それ以上もない。
そのことに安心していたが……。
学校生活に慣れてきたフェリクスは、放課後、ミユに誘いをかけるようになったのだ!
「ミユ、この後、時間あるかな? 良かったらカフェに行かない?」
そんな風に気軽にミユに声をかけるのだ!
誘ってきているのは、隣国の第三王子。しかも友好国なのだ。「それはちょっと……」とはお断りしにくい。ならばここは私が……!
そう思ったら!
「ありがとうございます、フェリクス殿下! ぜひ行きましょう。ねえ、ステラ嬢、カールカン令息、クーリー嬢、皆さんも一緒に殿下とカフェへ行きませんか?」
「いいですわね!」「勿論、行くよ!」「行きましょう!」
ナイス・ミユ!
ミユは実にうまいことやっている。
クラスメイトにも声をかけ、二人きりを回避したのだ。
なんだかんだでミユだって、ブルースのそばでピンチを経験し、成長している。ブルースがそばにいなくても、ちゃんと考え、行動できるんだわ。
守られるだけのお姫様ではない。
ブルースが不在だからこそ、強くなったミユ。
もしかすると私の見守りは……もう不要なのかもしれないわね。
そんなことを思いながら、ブルースに手紙を書き、学校の様子を伝えた。
前世ほど、郵便事情がいいわけではない。それでもミユとブルースは、週に一度の頻度で手紙のやり取りを行っている。よって私がブルースに手紙で伝える程ではないのだけど……。
でもジェラルドも一言添えているし、これは……親としてブルースに手紙を書きたくなった――というのが正解かしらね。
でも季節が流れるのはあっという間だ。
だって学校ではもうテストが近づいている。
フェリクスもミユも勉強に追われ、放課後で遊ぶどころではなくなっていた。
今日、ミユは図書館で勉強をしている。
皆、集中して勉強をしているし、ここ二週間は何も問題は起きないと思われた。
そこで気が付く。
私は図書館の人目のつかない場所に一緒にいるスチュアートに告げる。
「スチュアート殿下。見守りは私が続けます。殿下は勉強なさってください。学生の本分は学業なはずです!」
「ポチリーナは僕のことを心配してくれているのですか?」
「はい。ここでぼーっと眺めているだけでは時間が無駄になります。勉強してください」
するとスチュアートはニコニコ笑顔で「分かりました」と素直に応じる。そういうところはブルースみたいで可愛らしいと思えた。
閲覧テーブルの方へ向かうスチュアートの背中を見送りながら、「しまった!」と思う。
なぜなら、スチュアートが向かう閲覧テーブルでミユは勉強している。
これではスチュアートがミユに声を掛け、二人が一緒に勉強をする事態になるのでは!?
「殿下、王宮に戻り、勉強をしてください」
そう言えばよかったと思う。
油断していた。
だが既に遅い!
スチュアートがミユに声を掛けてしまう――!
そう思ったのに。
ミユとは違う別のテーブルへ行き、そこに腰巾着二人がやってくる。
スチュアートは腰巾着の二人と勉強を始めた。
これには心底驚いてしまう。
スチュアートはミユに興味がなくなったの……?
それは早急に判断してはならない。
勉強をするのだ。
集中するために、気になる相手のそばを避けたという可能性もある。
そうだ。
スチュアートはなんだかんだで真面目。
勉強をする時は、ちゃんと勉強できる環境に身を置きたいのだろう。
「!」
フラリとフェリクスが図書館へ入って来た。
彼は館内を見渡し、「!」と何かに気づいた表情になる。
その視線の先にいるのは……ミユ!
ミユが一人。
これはチャンス!とばかりにフェリクスが足早にミユの席へ向かっている。スチュアートが大人しくしていると思ったら、今度はフェリクス!
ところが!
フェリクスに横から声を掛けたのは……スチュアート!
呼び止められたフェリクスは、スチュアートと会話しながら、チラチラとミユを見ている。どうやらスチュアートから一緒に勉強しようと声をかけられ、迷っているようだ。
フェリクスはミユと勉強をしたい。でもスチュアートから声をかけられた。
スチュアートは友好国の第三王子。
自分と同じ王族。
対するミユは男爵家の令嬢。
しかもミユと勉強の約束などしていないはずだ。
そうなると……。
フェリクスが優先すべき相手はスチュアート。
結果。
スチュアートの誘いに応じ、腰巾着二人が待つテーブルへフェリクスは向かう。チラッと名残惜しそうにミユを見ながら。
これは……スチュアートとしてはミユに近づくフェリクスを阻止できたことになる。でも自身もミユと一緒に勉強する機会はもてていない。そうなるとこれは相打ち。勝負つかず?
ともかくミユは一人で勉強を続け、フェリクスと絡むことなくこの日は終了。
その後も掃除当番でミユとフェリクスが一緒になった時も。
日直でミユとフェリクスが一緒になった時も。
さりげなくスチュアートが二人きりになる状態を邪魔している。
でもそれは常に相打ちを意味していた。
つまりフェリクスはミユとの接点を持てないが、それはスチュアートも同じ。まさに痛み分けの状況が続いている。
スチュアートはこれが本意なのかしら……?