62話:ムンクの『叫び』のポーズをしたいです!
「スクールトリップのツアーガイド。あれはあなたではないですか?」
バ、バレたー!?
どうしてバレたのですかーーーーー!?
スチュアートのこの言葉を聞いた私は、もうムンクの『叫び』のポーズで盛大な悲鳴をあげたい気持ちになっていた。でも体で覚えた車の運転のように。体に染みついたダンスのステップは確実に踏んでいるし、公爵夫人として積み重ねた経験により、悲鳴は上げずに済んでいる。
代わりに脳内では、ものすごい演算が行われている。
スクールトリップのツアーガイドに私が変装して潜入していることを、スチュアートは掴んでいた。このネタを元に、何をするつもりなのか?
公にされたくなったら、お金を払ってくださいと要求する。
いや、王族なのだ。お金はあるに越したことはないが、公爵家にたかるようなことはしないはず。
ならば……。
公にされたくなかったら、ブルースとミユの婚約を破棄させてくださいと求める。
妥当だ。これだろう。
ミユを守りたいと思ったのに。まさか私の行動が二人を破局させることになるなんて!
ちょっと待って。
公にされても構わなくないですか?
だってスキー合宿の件もある。ミユが心配だが、ブルースはクラスが違う。ミユのために潜入したとなれば、同情もされるのでは!?
「どうやら図星のようですね、ポチリーナ」
! どうしてその名で呼びますかね、スチュアート!
その名を名乗ったのは私ですから。呼ぶなとは言いにくい。
でもポチリーナ=私=フォード公爵夫人と分かっているのだから、その名で呼ぶのは止めましょうよ~!
「どうしてポチリーナの正体に気づいたと思います?」
ここは二つの事柄を天秤にかける。
「ポチリーナと呼ばないでください!」
OR
「どうして気づいたのですか!」
どちらを口にするか。
それは……後者。ポチリーナ問題は個人的にすご~く気にかかる。それよりもなぜ気が付いたか。そちらが重要!
というわけで「どうして気づいたのかなんて……分かりませんわ」と答えることになる。
別に恥じらうつもりはなかったが、バレてしまったという後ろめたさもある。多分、私は少し頬を赤らめていたのだろう。それにスチュアートが気づいたようだ。
「少女のように頬を赤らめて。可愛らしいですね」
これには「Pardon?(なんですと!?)」と問い返したくなる。完全にバカにされているというか、おちょくられている気がします!
もはや王族だろうが関係ない。こういう子供はビシッと言わねばならないのでは!?
そう思い、睨みつけると、スチュアートはクルリと私を回転させる。
くっ、ダンスの最中であることがもどかしい!
回転が終わるとスチュアートが話し出す。
「スクールトリップのフルーツ狩り。焼きリンゴを食べさせてもらった時、ただのツアーガイドだと思っていたポチリーナに興味を持ちました」
またポチリーナ言うた……。
ミユから引きはがすための焼きリンゴ作戦。上手くいったと思ったのに、スチュアートの余計な興味を引いたようだ。
「吊り橋で助けてもらった時には、ポチリーナに恩義を強く感じました」
も~、ポチリーナ!
それで、恩義。恩義ね、恩義。
でもまあ、そうだろう。スチュアートにしてみれば、チョコレートフォンデュについて想像の翼を広げているうちに、吊り橋を渡り終えていたのだから。まさに魔法をかけられたような気持ちだったと思う。恩義を感じてもおかしくない。
「焼きマシュマロを作って食べた時、ポチリーナと一緒にいることを楽しく感じました。何よりもポチリーナのダンスの腕前に、驚きましたよ。あんなにストレスなくダンスを踊れる相手は……ポチリーナ、あなただけです」
うーん、うーん、うーん。
ポチリーナと言われた瞬間に、頭からいろいろなことが吹き飛んでしまう。
その呼び方、やめませんか、殿下……。
今も何か引っかかる言葉を言われたのに、一言の中に三度もポチリーナが登場し、話半分しか聞けていない!
「ただのツアーガイドがここまで完璧にダンスをできるのか。そこは大いに気になりましたよ。ポチリーナは何者なのだろうと」
Oh my goodness!
そこですか、そこーーーーっ!
自分がツアーガイドであることを踏まえ、ダンスは……そうか、スチュアートの足を踏みまくればよかった。でも今もそうなのだが、悔しいぐらいスチュアートはリードが上手いのだ! こちらが失敗するのが難しいぐらい!
そこで悔しがる私に、スチュアートからまさかの追い打ちがかかる。
「気になり、眠れず、そこで消灯時間が過ぎてから、教職員のテントへ向かいました」
品行方正で知られるスチュアートが消灯時間以降、テントを抜け出していたなんて! スキー合宿の時もそうだが、何気に不良気質があるのでは!?
「テントに向かいましたが、こんな時間にどんな用事でポチリーナを訪ねたと言えばいいのか。よく考えてから向かえばよかったです。僕としたことが、策もなく行動してしまい……。ところがしばらくその場でもたもたしていたら、ポチリーナがテントから出てきました」
ポチリーナ、ポチリーナ……。
「ええい、やめんかい、ポチリーナと呼ぶのは!」と言いたくなるのを堪える。
それよりも。
えーと、今、とんでもない事実を聞いたような。
「テントから出てきたのは、ポチリーナのはずなのに。月明かりに照らされたポチリーナは、昼間とは全く違う髪色でした。その横顔を見て、もしやと思ったのです」
なぁにぃ~! やっちまったな!
暢気に前世のお笑いネタを思い出している場合ではない。
それにポチリーナどころではないっ!
さすがに寝る時は、かつらをはずしている。でも枕元に置いていたし、いざとなればすぐにつけられるようにしていた。ただちょっと水を飲むぐらいなら……。そう、その時はかつらをつけずに外へ出ていた。
「スクールトリップの帰り、乗合馬車で隣になりましたよね。ポチリーナと会話をして、ぼろがでないかと期待していました。でも完璧にツアーガイドを演じ切り……。ですが言われた住所に行ってみると、実在していましたが、ポチリーナは住んでいません。そこでやはり正体は、フォード公爵夫人だと確信しました」
わざわざ足を運んだの!?
スチュアートは暇人なのかしら……。
「そして先程、チェックメイトをかけました。ポチリーナはどうでるか。しらを切られるかもしれないと思いましたが、明らかに動揺しましたよね」
Oh my goodness!
しらを切ればよかったの、私!?
も~、完全にスチュアートにやられてしまった……!
「でもなぜポチリーナはツアーガイドに変装し、スクールトリップに紛れ込んでいたのか。しかも僕達のクラスのスクールトリップに。ブルースは別の場所にいるのに。不思議でした」
え、そうなんです!?
ミユに接近するあなたをブロックするためだと、気が付きませんでした!?
スチュアートは鋭いのか、鈍いのか、よく分かりません!
「でも僕、分かりました。焼きリンゴも吊り橋もマシュマロも。全部、僕のためですよね?」
「はい?」
「僕のことが気になるのですよね!」
「は……い……?」
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そして毎日私を倒しに来る攻略対象たち。
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本日10話以上公開しています。
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