60話:緊張感が漂います!
パレードを見ながらスチュアートの件を報告した。
ジェラルドとブルースは喜ぶより、困惑気味だ。ミユは「根は善良な人だったのですね!」と笑顔になり、彼女の善性を噛みしめる。ただ、三人とも寛容で、懐が深く、出来た人間だった。最終的にスチュアートの決意を汲み、見守ることを決めたのだ。
こうしてパレードを見終わり、レストランで食事をしたが、スチュアートの姿を見かけることもない。ひとまず彼の決心を信じることで、この日は終了だ。
帰りの馬車で、打ち上げ花火を見ながら帰宅となった。
そんな収穫祭で楽しい週末を過ごしたと思ったら。
ブルースとミユには、テストが待っていた!
恒例のテスト勉強を、毎日二人で頑張っている。
「ミユ、この問題、大丈夫?」
「実は躓いていたの。教えてくれる、ブルース?」
「勿論だよ、これはね……」
私は疲れた脳に栄養補給できる、クルミ入りチョコレートとコーヒーを差し入れた。
その怒涛のテストが終わると……。
ブルースがなんと同率で学年首位を獲得!
この日は通常の夕食とは思えない、豪華な料理がテーブルに並んだ。
「なんだか今日は晩餐会みたいだな」
「ジェラルド、今日はブルースのお祝いです。料理人が頑張ってくれました」
どんな豪勢な料理が並んだのかと言うと……。
まず、この世界でも王侯貴族から熱い支持を受けるキャビア、トリュフ、フォアグラを使った料理が登場! 次に雛鳥の丸焼き、鹿肉のステーキと、食べきれない程のご馳走が続く。最後は誕生日でもないのにホールケーキも出て、我が家はお祭り騒ぎ。
ちなみに同率首位はあのコール!
スチュアートの腰巾着だったコールは、元宰相の父親の不祥事があったが、それを乗り越えたようだ。成績が落ちなかったのは、すごいと思う。さらにこのテスト結果を受け、コールから直接ブルースに謝罪の言葉もあったと言うのだ! 濡れ衣カンニング事件のことを詫びる言葉が出た上に、自分がシルバンに命じて事件を主導したことも、きちんと認めた。
濡れ衣カンニング事件は、シルバンが真犯人ではないと分かっていた。よって穏便に済ませることにして、水面下で処理している。それを踏まえ、コールは自身が真犯人だと公表しても構わないとまで言っていたが………。ブルースはコールにこう伝えたという。
「もうその事件を蒸し返す気持ちはない。代わりに自分に詫びたように、シルバンにも心からの謝罪をして欲しい」
この結果。
ホリデーシーズンが始まる頃には、ブルース、コール、シルバンはすっかり仲良しになり、王立レーモン学園の秀才トリオと言われるようになった。
そう、季節は巡り、ホリデーシーズンへ突入した。
ホリデーシーズンの始まりは、社交界シーズンの幕開けでもある。
その始まりを告げるのが、宮殿で開催される舞踏会だ。
これを皮切りに貴族達は、続々舞踏会や晩餐会を催す。
学校もホリデーシーズン休暇に入ったので、ブルース、ミユ、ミユの両親、ジェラルドと私は、その宮殿の舞踏会へ参加することになった。
「ブルース!」
「ミユ! なんて素敵なドレスだろう。よく似合っているよ!」
エントランスホールで私達は合流。
皆、この日に相応しい装いだ。
ブルース、ジェラルド、ミユの父親は、王道の黒のテールコート。
ただし、宝飾品や小物で個性をアピール!
ブルースのタイにはブルートパーズの宝飾品。ジェラルドのポケットチーフには、ブルーダイヤモンドでイニシャルが飾られている。ミユの父親は、エメラルドのカフスボタンをつけていた。
対する女性陣は三者三様。
ミユは若々しいパステルピンクにレースのフリルが可愛らしいドレス。ミユの母親は、落ち着きのあるオールドローズ色のドレスだ。私は、バニラ色の身頃からロイヤルパープルの裾へとグラデーションするドレスで、金粉をふりまいたかのように、ビジューが散りばめられていた。
こうして宮殿に到着し、ホールへ向かうと、そこはもう華やかな雰囲気に包まれている。
ゴールドの装飾品と沢山の生花で飾られたホールは、ゴージャスなシャンデリアに照らされていた。そこに集う紳士淑女たち。楽団が軽快な音楽を奏で――。
「今年のドレスは、東方の生地を使ったものが流行するそうよ」
「そういえば東方には、珍しい絵画があるそうね」
招待客たちの談笑する声が響き渡る。
程なくしてラッパの音が、国王陛下夫妻をはじめとした王族の入場を告げた。
国王による社交界シーズンの始まりを告げる挨拶。続く王太子とその婚約者による最初のダンス。そしていよいよ舞踏会がスタートだ。
ブルースはミユと、ミユの両親、ジェラルドは私とダンスを始める。
同じ相手との連続のダンスは、あまり推奨されていない。これは暗黙の了解である。よって二曲目のダンスはミユの父親と、その後はブルースと踊ることになった。ブルースやミユも同じようにして、パートナーチェンジを行う。
こうして三曲連続でダンスをすると、休憩となった。
「!」
目にも眩しいシアン色のテールコートを着て、白のマントをつけたスチュアートがこちらへ向かってくる! 黒のテールコートを着た、腰巾着の騎士団長の息子マークや護衛騎士も一緒だ。
スチュアートは、ブルースには何もしないと私に宣誓した。
だがミユを諦めたかどうかは、分からない。
ミユをダンスに誘うつもりなのでは!?
「ミユ、こっちへ」
ブルースがミユをその背に庇う。
そのブルースの一歩前にジェラルドが出る。
私はミユをガードするよう、その横に立つ。
ミユの両親は、ハラハラドキドキでこの様子を見守っている。
スチュアートは、ブルースやジェラルドの鋭い視線を気にすることなく、ミユの方へ向かっていた。
これは間違いない。ミユをダンスに誘うつもりだ!