59話(2):収穫祭
ジェラルドはお土産を見るついでに、レストルームへ行くことを勧めてくれた。その気遣いに感謝する。
「ええ、そうするわ。ありがとう、ジェラルド。ブルースも、場所取り、お願いね」
「勿論です、お母様! ミユもお母様と行っておいで」
こうしてミユと私は、モナカと共に土産物屋の建物へと向かう。
「フォード公爵夫人、見てください! ドングリを使ったこの人形、可愛いです!」
「本当だわ、ミユ。なんて可愛らしいのかしら! 小さなハリネズミもあるわね」
店内の棚には、収穫祭限定商品も所狭しと並べられている。先程体験したリース飾り、かぼちゃをくり抜いたランタン、木彫りの小物入れなど、充実している。この秋に収穫した農産物や卵なんかも販売されており、前世の道の駅を思い出す。
お土産はじっくり見るとして、まずはレストルーム。
「ミユ、レストルームはこっちよ」
順番にレストルームを使い、お土産品が並ぶ棚へ戻ろうとして気が付く。
建物の入口の扉のガラス窓から敵の姿を捉えた。
つまりはスチュアート!
スチュアートがこっちへ向かって来ている。
これは危険!とモナカに指示を出す。ミユを連れ、先に戻るようにと。
幸いなことに、土産物屋が入るこの建物には、離れた場所に二か所扉がある。
ミユを連れたモナカは、別の扉から外へ脱出している最中。
ならばここは私が囮となり、迎え撃とうではないですか!
そう。店内に入ってきたスチュアートは、私が迎え撃つ!
迎え撃つ気持ち満々だったのに、スチュアートは……。
「やはりフォード公爵夫人だったのですね。チラリとその姿が見えて、もしやと思いました」
そう切り出した時点で、なんだかスチュアートの瞳がウルウルしている。
な、なに、泣き落とし作戦でも始めるのかしら!?
そう思ったら、いきなりスチュアートが深々と頭を下げた。
周囲にいる他のお客様がギョッとしている。
それはそうだ。
王族がいきなりこんな風に謝罪するなんて、「何事!?」という事態だ。
スチュアートは自身が公務で王家の紋章入りのマントを着用していること、忘れないでくださいー!
「で、殿下、こちらへ来てください」
人気が少ない角へと向かう。そこには埃を被った甲冑が飾られている。そこへスチュアートを連れて来た。ここなら死角だ。
「一体全体なぜ、一介の貴族に過ぎない私に、急にあんな風に頭を下げるのですか!? お立場をお考え下さい」
「あの程度では足りないぐらいだと思っています。わたしは……自分がしたことの数々を後悔し、深く悔いているんです。自覚するのが遅かったのは、わたしが未熟だったせいでしょう」
そう切り出したスチュアートは、突然、これまでブルースにした数々の悪事を私に暴露した。その上で「もう今後、このようなことは二度としません」と瞳を潤ませ、改心することを私に誓ったのだ。さらに再び深々と頭を下げる。
つまりスキー合宿の事件、剣術大会の騎士団長の息子マークの件、濡れ衣カンニング事件、イザベルの一件など、すべて自身が関与したと認めたのだ!
この突然の懺悔と謝罪に、私は驚くしかない。
もしかするとスキー合宿の時の、主の言葉が書かれた本に対して行った宣誓の効果が、遂に出たのかしら?
ここにきて良心の呵責にさいなまれ、私へ懺悔し、謝罪したと。
本来、しかるべき場所ですべき告解を私にするなんて、異例なことだ。
でもそうせざるを得ないくらい、スチュアートは深く悔やんでいるのだろう。
過ちのない人生を送ることができたら、それが一番なのは確かだ。
だが人間、誰もが完璧ではない。
ブルースだって幼い頃は、平民を見下し、メイドを恐れさせる言動があったのだ。
スチュアートは自身の罪に気づくのが遅かったが、それは仕方ない部分もあると思う。彼は王子という立場なのだ。彼を強い言葉で諫め、注意する人物が身近にいなかった可能性もある。
何よりまだ彼は十代。学生なのだ。
自ら自覚し、懺悔し、謝罪を選んだのなら……。
主が告解を受け入れるように。
私もまた、認めてあげよう。
ゆえにその話を聞いた私は、こう答えた。
「心を入れ替えるとのこと。男に二言は許されません。きちんと守ってくださいね」
「勿論です」
「殿下が悔いた罪の分だけ、誰か他の方が笑顔になれることをするよう、心がけてください。自主的に奉仕活動をされるなど、謝罪の気持ちを形にしてみていただけないでしょうか」
ハッとしたスチュアートは自身の握りこぶしを胸にあて、応じる。
「はい。わたしに割り当てられている予算を使い、孤児院や病院への寄付を行います。チャリティーイベントも開催しましょう。日曜日はボランティア活動にも参加します。有言実行で」
強い決意があった上で、私に声をかけたのだと分かった。
安堵で引きつっていた頬もようやく緩んだ。
「わたしを許してくださり、本当にありがとうございます」
スチュアートはサファイアのような瞳を再び潤ませ、シルバーブロンドの前髪を震わせる。その姿は何というか、過ちを後悔するヒーローの姿にちゃんと見えた。
去り行くスチュアートの後ろ姿を見送り、ホッとしたのは束の間のこと。ミユのことを諦めたのか、聞きそびれた……!
何はともあれ、このことはジェラルドやブルースにも報告しようとパレードが行われる広場に戻った。






















































