59話(1):収穫祭
ジェラルドが手に入れてくれた青のパンジーの取引リスト。
でもそれは完全版ではなかった。リストに並ぶ名前は、男爵や裕福な平民の名ばかり。上客は別のリストで管理しているようだった。
そして現状あるリストに並ぶ人物で、私に横恋慕しそうな名は……。
特にない。
元々公爵令嬢だったこともあり、交流するのは王族、同じ公爵家、侯爵家や伯爵家が多かった。それはキャサリンの両親がそうなるようコントロールしていたためだ。前世記憶が私も覚醒していなかったので、両親の采配のままの社交をしていた。
ただ、舞踏会には男爵家の人間も出席している。当然、挨拶程度はしているだろう。でもそれであの青いパンジーのカードが届くとは……にわかには思えない。
ムーギの日記もあり、上客リストを出せと脅すこともできなくはない。
だが、さすがに「なんのために!?」となるだろう。それに上客なだけに、ムーギが渋る可能性もある。最悪、逆切れもしそうだ。上客リストを渡すくらいなら、日記の裁判、受けて立とう!となるかもしれなかった。
さらに青のパンジーの押し花以降、動きはない。つまり今のところそのカードが送りつけられたぐらいで、実害は何も出ていない。よって無理をする必要はなかった。
ということで青のパンジーの件については、引き続きジェラルド預かりで調べてもらうことになった。
◇
ぎゅっと私を抱きしめ、体を離したジェラルドはいつも通り、ベッドで仰向けになる。そして腕枕をした私の額に優しくキスをした。
本当にジェラルドは体力があるようで、すぐに呼吸の乱れも落ち着く。逆に私はしばらくの安静が必要な状態。彼の胸に頬を寄せ、鼓動が落ち着くのを待つ。
「キャサリン。青のパンジーのことばかり考えても仕方ない。気分転換に、収穫祭に行かないか?」
ジェラルドの方で調査を続けてくれていたが、青いパンジーの件は、やはり気になってしまう。毎日一度はジェラルドに、何か動きがないか聞いてしまっていた。
ちなみにムーギからは、お詫びで生プルーン、ドライプルーン、プルーンエキスが、巨大な木箱で各十箱届いている。表向きは「試供品」として。本当はお金で日記を取り戻したり、口封じをしたりを考えたようだが……。ジェラルドは一切応じるつもりはないと表明。さらにこの国においてジェラルドを狙えば、国同士の戦争にさえ発展しかねない。ゆえにムーギは悶々とし、まさに生き地獄を味わっている。
よってムーギはどうでもいい。でも青いパンジーの件は気になり続けていた。そしてそんな私を気遣い、ジェラルドは気分転換を提案してくれたのだ。それに対する答えは勿論……。
「ええ、ぜひ、行きましょう!」
こうしてブルースはミユを誘い、学校が休みの週末。
ジェラルドと私を含めた四人で、収穫祭へ向かうことにした。
この日のミユは、パウダーピンクのふわふわとしたドレスを着て、それはもう抱きしめたくなる可愛さ! そのミユをエスコートするブルースは、ミルキーブル―のセットアップ。
ミユとブルースを見ていると、まさに童話のプリンセス&プリンスみたいで実にお似合い。
一方のジェラルドは、深みのあるオリエンタルブルーのスーツ姿で、こちらは痺れそうなカッコよさ。私は明るいラベンダー色のドレスだ。
四人で一緒の馬車に乗り込み、収穫祭の会場へ向かう。
するとその会場に。
スチュアートと腰巾着の三人がいた!
コバルトブルーのフロックコートを着ているスチュアートは、どうやら収穫祭で行われた公式行事のために、会場入りしていた。
よってその姿を見つけた時は、警戒心が働いたが、公務中なのだ、スチュアートは。ミユに絡むことはできないはずだ。
「ブルース、ミユ。安心していいわ。殿下は公務で参加しているのだから。二人には手を出せないはずよ。それにこれだけ大勢の人がいるのよ。気づかれないわ」
「確かにそうですね、お母様。ミユ、大丈夫だ。僕もお母様もいるから、殿下のことは気にせず、収穫祭を楽しもう」
「ありがとう、ブルース。フォード公爵夫人もありがとうございます! 収穫祭、楽しみましょう!」
こうしてスチュアートのことは頭から忘れ、まずは秋の味覚を楽しむ。キノコのキッシュやカボチャを使ったタルトなど美味しいものが沢山ある。
「ブルース、改めて野菜は美味しいわ!」
「うん。僕も子供の頃から食べているけど、野菜を食べないなんて、勿体ないよ!」
すっかり野菜好きに育ってくれたブルース。ブルースのおかげで野菜好きになったミユにほっこりする。
お腹を満たした後は、落ち葉や松ぼっくりを使ったリース作りも体験。
「リース作りなんて人生初の体験だ」
「ジェラルド、とても上手だわ。販売できそうなクオリティ」
ジェラルドの手先が器用過ぎて感動してしまう。
リース作りの後は、ダンスも楽しんだ。そしてメインイベントのパレードを見るため、ジェラルドとブルースが場所取りをしてくれることになった。
「キャサリン、場所取りはブルースとわたしに任せるといい。今のうちにお土産屋でも見て来ては?」
これは女性陣に、レストルームに今のうちに行っておいでということ。
ジェラルドは本当に気が利くわ!