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58話:恐怖が高まると笑いたくなります!?

 ベッドに乗って来たムーギをなんとか足で牽制する。

 でも足も重く、その動きは緩慢で、簡単にムーギに掴まれてしまう。


 ムーギはパンプスを脱がし、私の足に顔をすり寄せる。


 気持ち悪い!

 不快感MAXで、蹴っ飛ばしたいのに、足が動かない。


 そこでハッとする。

 自分がもたれている枕とクッションの存在に気づく。


 なんとか枕をつかみあげ、それをムーギに投げる。

 だがそれは力が入っていないので、ムーギに当たっても、痛くも痒くもない様子。

 無駄な抵抗。

 そう分かっているが……。


「足の指から順番にぺろぺろしていきましょうか。まだ外は明るく、時間はた~っぷりありますからね~」


 肥溜めに突き落としてやりたい。


 そう思ったまさにその時、コン、コン、コンと牧歌的に扉をノックする音がする。


 口を開け、まさに私の親指を舐めようとしたムーギが動きを止めた。


 もう私は身動きができない。

 ちょっとでも動いたら、親指がムーギの口に触れそうで、嫌悪感しかなかった。


 ムーギが無反応なので、再度のノックの音ともに声が聞こえる。


「ムッチリン大使様、王家から使者が来ています」


「な~にぃ~?」


 なぜか前世のお笑い芸人のセリフみたいに思え、こんなシュールな状況なのに、笑いそうになっている。人間、恐怖が高まると、笑いたくなるものなのかしら? 脳が限界を迎えると、笑いに走ったりします!?


 心臓がバクバクして耳の奥までジンジンしていたが、ムーギは私の足から手を離し、アヒルのようにちょこまかと扉の方へ向かう。


 王家からの使者は無視できないはずだ。つまりムーギはこの部屋から出て行く。その間にここから逃げ出さないと!


 ムーギが扉を開けると同時に。


 彼の顔面に、黒に近い紫の液体がかけられたと思ったら、気絶させられ、床に伸びている。


 これには「何!?」と固まる。


 すると部屋にモナカとジェラルドが入って来た!


「ジェラルド、モナカ!」

「キャサリン!」

「奥様!」


 モナカの手にはガラス瓶。

 どうやらプルーンエキスをムーギの顔にかけ、目くらましをした。その上でジェラルドが、ムーギを気絶させたのだろう。


 まさに見事なコンボ!


 つまり王家からの使者なんて嘘で、メイドのフリをしたのはモナカだった。


「キャサリン、無事か!? 何もされていないか!?」

「はい。足を舐められそうになりましたが、他は大丈夫です」


 駆け寄ったモナカが絨毯に転がるパンプスを拾い上げてくれる。


「モナカ」


「はい。旦那様」


「奴の急所を思いっきり蹴り上げておけ。わたしがやると、取り返しのつかないことになりそうだ。君の足なら、まあなんとかなるだろう」


 するとモナカは「かしこまりました。奥様に対する冒涜を、とくと後悔するような蹴りをしておきます」と即答する。


「キャサリン、身体は動かせるか?」

「それが薬を盛られたようで、全身が重くて……」

「薬、だと……」


 そこで気絶しているはずのムーギから「うぎゃっ」という声があがるが、ゴンという音がして再び静かになる。


「モナカ。もう一発」

「勿論でございます、旦那様」


「キャサリン。君のことはわたしが抱きあげる。薬はやがて効果が切れるから、それまでは無理をするな」


 ジェラルドの声の背後でムーギが再び悲鳴をあげ、ゴンという音が聞こえていた。そして私はジェラルドに抱きあげられている。


「では撤退するぞ、モナカ」

「承知いたしました、旦那様」


 そう言うとモナカはニッコリ笑顔で私を見る。

 私はモナカに「ありがとう」と伝え、扉付近でダウンしているムーギを見る。


 なんだか頭にたん瘤が二つくらい見える気が。


 モナカは大人しい侍女だと思ったけれど、いざとなると……意外と戦闘能力があるかもしれない。


 ともかく部屋を出て、モナカの先導で歩き出す。

 モナカはどうやら待機室で、ただ大人しくしていたわけではないようだ。きっとレストルームに行くなど理由をつけて部屋を出て、館内を把握していたのだろう。迷うことなく廊下を進み、エントランスに到着した。


 その間、ジェラルドは私を抱きかかえ、早歩きをしていた。そして変に会話をして誰かに聞かれるとまずいと思い、ずっと無言で通す。


 馬車に三人で乗り込み、動き出すと同時に、私は声をあげることになった。


「どうしてジェラルドが大使館ここに?」


「青いパンジーについて調べたら、種や苗の一番の産出国が、プルン王国だった。プルン王国は、プルーンの産地として有名だ。そこから派生し、プルーンのような青い色の花の栽培も、熱心に行っている。その一つが品種改良して作り上げた、青のパンジーだ。そこでプルン王国について調べるため、まず大使館を確認したら……。ムーギに行きついた」


 そう言うとジェラルドは、馬車の中に置いていた資料を見せてくれる。


「取り寄せた資料でその姿を見て、すぐにピンときた。迷路庭園でキャサリンに手を出そうとした不届き者だと。しかも今日、キャサリンは奴が主催するパーティーに足を運んでいる。胸騒ぎがして、駆け付けた」


「そうだったのですね……! 本当に助かりました。ありがとうございます!」


 ジェラルドが資料をペラペラとめくると、確かにあのムーギの絵が載っていた。


「大使館に駆け付け、何が起きているか、どうやって把握されたのですか?」


 資料から顔をあげ、ジェラルドに尋ねる。


「ユズ伯爵夫人が一人でいるのをまず見つけた。そこでキャサリンの所在を確認したら、もう帰ったと言われた。念のためで侍女の控え室を見に行くと、モナカがいる。モナカはキャサリンが帰ったことを知らない。キャサリンがモナカを置いて、一人で帰るわけがない。おかしいと思った。そこでムーギがキャサリンに気づき、何か悪だくみをしているのではと考えた」


「でもよくあの部屋にいると分かりましたね」


 するとジェラルドがフッと口元に笑みを浮かべ、モナカは背筋をスッと伸ばしている。


「ああ、それはモナカがちゃんと動いてくれていた結果だ。どこへ行こうと、例え大使館であろうと、いざという時に備え、館内の見取り図と避難通路を頭にいれるよう頼んであるからな」


「モナカ、ありがとう!」


「とんでもないです、奥様。侍女としての役目を果たしたまでです」


 もしかするとモナカはただの侍女ではないのかもしれない!


 そこで視線をモナカからジェラルドに戻し、話を再開させる。


「私がいた部屋にも、青いパンジーがありました。そしてプルン王国は、青いパンジーを生み出した国。こうなるとあの青いパンジーの押し花のカードの送り主、それはムーギで決定ですね」


「いや、違うだろう。体目当てのムーギが、花言葉を活用するような、奥ゆかしいことをするとは到底思えない。ただ、キャサリンを探し、部屋を探している際、青いパンジーの取引先のリストを見つけた。ついでにムーギの性癖を証明するものも」


 モナカが書類の束と、本のようなもの……あれはダイアリー(日記)では!?


「モナカが持っているのは、ムーギの自筆の日記だ。そこにはこれまで手を出した女性達の名前や何をしたのかが事細かく書かれていた。筆跡鑑定すれば、本人の書いたものと証明できる」


「余罪があるということですか、ムーギには!?」


「パラっとみた限りでは相当数だ。舞踏会へ顔を出す度に、言葉巧みに女性へ近づき、手を出していたようだ。とんでもない悪党だった」


 まさにムーギは女の敵だとよーく分かった。

 私も蹴りをいれておけばよかったわ……。


「ムーギの日記を元に裁判ですね!」


 するとジェラルドはふるふると首を振った。

 私は「……?」と首を傾げてしまう。


「この国では裁けない。外交特権があるからな。よってプルン王国の裁判所にこれを持ち込むと、ムーギを脅すことにする。これがある限り、ムーギは首に剣先を突き付けられている状態。もうわたし達に悪さはできない。これ以上、女性に手を出すこともできないだろう」


 今は青いパンジーの送り主を探していた。取引先リストを確認し、ムーギにさらなる情報を求める可能性もある。よってすぐにプルン王国の裁判所に日記は持ち込まない。でもタイミングを見て、提出するということだ。


 そのタイミングはいつか分からない。つまりムーギは今日から生きた心地がしないだろう。いつ断罪されるかと戦々恐々になるはず。それにモナカにより大切な場所に、二度も蹴りをいれられている。近々で悪さはできないだろうし、何より日記を握られているのだから、大人しくするしかない。


 ムーギはまさに生き地獄ね。


 ようやく今日のムーギの言動に対する怒りも収まった。

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