57話:そんなの関係ありませ~ん!
大使館内で、プルン王国の画家の絵の展示を見ていると。
大使館職員に声をかけられた。
ユズ伯爵夫人とムッチリン大使が話したいと言うのだ。
ユズ伯爵は、果物と野菜の輸出入を行う専門商会を有している。その件での話があるのだろうと、ユズ伯爵夫人も私もすぐにピンと来た。
「私は展示を見ていますから、大使とお話してくださいな」
「ありがとうございます、フォード公爵夫人。話が長くなりそうでしたら、侍女に連絡させますわ」
「ええ、それで問題なくてよ」
私がモナカを連れ、来場したように、ユズ伯爵夫人も侍女を連れていた。侍女達には専用の待合室が用意されており、そこでモナカもユズ伯爵夫人の侍女も、待機している。
ということでユズ伯爵夫人は大使館職員と共に部屋を出て行き、私はそのまま展示品を鑑賞することにした。
プルーン畑で一斉に花が開花した様子を描いたものから、国王のパレードの様子を描いたものまで、幅広いモチーフの油絵作品が展示されている。
「あのマダム、今、お時間よろしいですか?」
大使館職員の女性が声をかけてきた。
「こちら、手土産として帰りにお渡しするプルーンの紅茶煮でございます。昼食会では出していないのですが、ご試食が可能です。よろしかったらいかがでしょうか?」
そう言うと彼女は、瓶に入ったプルーンの紅茶煮を示した。
先程の昼食会でしっかり食事をしている。
でもプルーンの紅茶煮の一粒や二粒を食べられないわけがない。
「ありがとうございます。せっかくですから、いただこうかしら」
「ぜひ。そちらのソファへご案内いたします」
展示室内にはソファがあり、そこに案内された。
私が座ると大使館職員は一旦、その場を去り、プルーンの紅茶煮、そして紅茶を乗せたトレンチを手に戻って来た。さらに彼女の後ろに下男がおり、彼はわざわざサイドテーブルを運んでくれた。そこにトレンチを置くと「どうぞ、お召し上がりくださいませ」と言い、二人は去って行く。
丁寧な対応に感動しながら、早速、プルーンの紅茶煮を銀のフォークを使い、食べてみる。
口元に近づけた瞬間から、ベルガモットの香りを感じた。どうやらアールグレイで煮込んだようだ。
「まあ、甘くて上品なお味!」
単品で食べても美味しいが、パンケーキと一緒に食べてもいいかもしれない。これをお土産でいただけるのは嬉しい限り。五粒のプルーンの紅茶煮は、あっという間に食べ終えてしまう。
そこからは紅茶を飲みながら、展示されている絵を眺めた。
貴族の婚礼を描いたその絵画では、プルン王国の伝統衣装も描かれている。色彩豊かな衣装で、実物はもっと鮮やかなのだろう。
そこでふと思った。
ユズ伯爵夫人は、ムーギからセクハラされていないかしら?
そんなことを考えていると、あくびが出る。
たっぷり昼食を食べたのだ。午後のこの時間は眠くなるわよね。
紅茶を飲み干し、トレンチにカップとソーサを戻す。
再び欠伸が出る。
ソファの肘掛と背もたれに身を預けると、瞼が次第に重くなった。
◇
気づくとそこは天蓋付きベッドの上。
ベッドボードに枕やクッションが沢山並び、そこにもたれている状態だった。
右手には窓があり、左手を見ると、サイドテーブルがあり、そこには……青のパンジー!
やはりあの押し花のカードは……!
そこでカチャッと音がして、ムーギが両手を組み、自身の頬にあて、体をくねくねさせながら部屋に入って来る。
もうその姿を見ただけで、鳥肌ものだった。
「まさかもう一度会えるとは! あの時はどうしたのですかー? 追いかけっこ、楽しかったですよぉ~」
なんでバレているの!?
「わたくし、人のことは顔ではなく、ボディで覚えるんです。そしてあなたのあの舐め回したくなるようなナイスバディは、一目見て忘れることなどできませーん!」
ボディで覚える!?
しかも酔っ払いでもないのに今の発言!
普段からセクハラなんだわ!
「でもまさか公爵夫人だなんて~! さすが上物です。舐め回しがいがありそうですね」
「そうです、私はフォード公爵の妻です! 私に手を出せば、ただではすみませんよ!」
「ムフフフフフ。そんなの関係ありませ~ん! 外交特権、万歳です!」
最悪だ。
ムーギは両手を持ち上げ、あの時のように指をエスパーみたいにくねくねさせ、こちらへと迫る。
逃げようと体を動かそうとするが、なんだか鉛のように重い。
そこで思い出す。
プルーンの紅茶煮と紅茶。
あのどちらかに眠りを促すようなものが入っていたのでは!?
そしてその効果がまだ続いている。
今日の「プルン王国フレンドシップデー」に怪しい要素はない。
それに大使館で襲われるなんて想定外。
ジェラルドが実はそばにいて、ピンチを救ってくれることなんて、ない。
モナカは……
モナカを連れてきているが、パーティーが終わるまで控え室で待機している。
ユズ伯爵夫人は……
私は先に帰ったと伝え、彼女にこの状態をバレないようにしている可能性が高い。
つまり、助けが来る可能性はゼロ。
絶体絶命の大ピンチ!






















































