55話:Who are you?です
私の額にキスをすると、ジェラルドはゆっくり体を離し、ベッドへ横になる。
まだ呼吸が落ち着かない私に対し、ジェラルドは既に平常状態。
優しく私を抱き寄せ、腕枕をする。
私の体を気遣っての優しく甘い時間だった。
ジェラルドの逞しい胸に顔を寄せ、私は今朝の青いパンジーの御礼を伝える。
「ジェラルド、今朝はありがとうございます」
「うん……?」
「改めてあんなことを言われると、照れ臭いですが、嬉しかったです」
ジェラルドの引き締まった胸にキスをして、照れ隠しをする。
「わたしは……今朝何か言ったか……?」
「え?」
見上げるジェラルドの顔に、ふざけている様子はない。
驚いた私は、今朝届いた青いパンジーの押し花がついたカードのことを伝える。そして念のためでもう一度尋ねた。
「あ、あれはジェラルドではないの?」
「違うな。同じ屋敷に住んでいるんだ。キャサリンへの気持ちは、直接会って伝える」
まさにそれは正論。
ではそうなるとあれは誰が送ってきたもの?
「その封筒とカード、見ることはできるか?」
「勿論です」
起き上がろうとすると、ジェラルドが私を後ろから抱きしめる。
「ジェラルド?」
「青いパンジー。とても珍しい品種だ。そしてパンジーの花言葉は『私を想って』だ。そして青いパンジーの花言葉は『純愛』だ。わたしの妻に対し、横恋慕しておきながら。『純愛』、だと? 許しがたいな」
そう言いながら合間にジェラルドが背中にキスをするので、身体が反応し始めている。
背中へのキスなんて初めてなのだけど。
普段、手が届きにくい場所に与えられる刺激は……。
既に声が出そうになっている。
グッと堪えて、ジェラルドに問う。
「ジェラルド、封筒とカードを」
「それは後でいい」
うつ伏せにされ、ジェラルドが背中へのキスを繰り返す。
見えざるカードの送り主に、どうやらジェラルドの嫉妬の炎が、灯ってしまったようだ。
私の幼なじみのリックの時もそう。
リックの煽りを本気の横恋慕と思ったジェラルド。現役の近衛騎士団の団長であり、剣聖と呼ばれるリックと手合わせをして、勝利を収めてしまった。その原動力は嫉妬心。
あのカードを送った人物は、ジェラルドの嫉妬心がどれほどのものか知らないのね。
「キャサリン」
「まさか今、幼なじみのことを考えていないか?」
ジェラルドの嫉妬心は、彼の知覚を研ぎ澄ます。
私は背中へのキスに素直に反応しながら、考え事もしていたのだけど……。
「な、なんのことかしら」
「キャサリン……。君は素直だ。その分、嘘をつくのが下手。変装をして別人になりすますのは得意だが、嘘はつけない」
あっさり見破られ、その後のジェラルドは溺愛……ではなく、私を散々焦らす作戦に変更してしまう。
結論。
嫉妬の炎を宿している時のジェラルドに、嘘を絶対についてはならない!
そうではない時も。
最愛に嘘は禁止!
◇
封筒とカードをジェラルドと二人、改めて見て分かったこと。
封筒はかなり上質なもので、庶民がなかなか使うようなものではない。何より青のパンジーは希少性が高い。よって送り主が貴族であることは確定したも同然。さらに青のパンジーの流通は限られている。
「商会を使い、青のパンジーの流通を探らせる。そこでキャサリンにつながる貴族がいないか、確認してみよう」
それが送り主につながる最短ルートに思えた。
そこでこの件はジェラルドに任せ、私は……。
昼食の時間に合わせ、外出となる。
レーモン王国の友好国であるプルン王国。
プルーンの産地として知られている国だ。
今年収穫されたプルーンで作った料理を楽しみながら、自国の文化を知ってもらうためのパーティー「プルン王国フレンドシップデー」が開催されることになった。それは日中の開催であり、招待状が我が家に届いていた。
プルーンと言えば、前世知識で鉄分が豊富で、お通じに良いフルーツとされている。女性に優しいプルーンが食べられるのだ。行かない手はない。
そこでユズ伯爵夫人と共に、参加することを決めていたのだ。
ということで学校へ向かうブルース、商会へ向かうジェラルドを見送り、私はパーティーへ向かうための準備を行う。
プルーンを楽しめるパーティー。そうなるとプルーン色のドレスを着たいところだが、その発想をする招待客は多そうだ。そこで色味を少しずらし、ダリアパープル色のドレスを着ることにした。バニラ色のレースが随所に飾られ、上品で落ち着いている。キャサリンはそれではなくてもメリハリボディをしているから、これぐらいの落ち着いたカラーが最適だった。
準備は完了。
会場となるプルン王国の大使館は、王都の中心部でも少しはずれにある。我が家は宮殿に近い場所なので、ユズ伯爵夫人を迎えに行き、大使館へ向かうことになる。
「ではチャーマン、留守を頼むわ。モナカ、行きましょう」
エントランスで見送るヘッドバトラーに声をかけ、モナカと共に馬車へ乗り込む。
「お気をつけて、奥様」
「ええ、ありがとう」
「モナカ、奥様のことを頼みます」
「はい。行ってまいります」
ユズ伯爵夫人の屋敷へ向け、出発した。