49話:少し丸くなったようです!
リンゴ狩りではミユからスチュアートを引き離すことに大成功だ。
焼きリンゴを流暢に食べていたスチュアートは、その後、ミユにちょっかいを出す暇はない。一人最低五個は収穫すること。このノルマを達成する必要があったのだ。しかも時間制限もある。
慌ててリンゴを採っていた。
その際、ちゃんとルールを守ったところは褒めてあげていいだろう。
こうしてフルーツ狩りは無事終了。収穫したリンゴを持って、キャンプ場へ戻った。皆が持ち帰ったリンゴを受け取った料理人は、早速スイーツ作り。その間、生徒はフルーツ狩り体験についてレポートを書く。
皆がレポートを書き終えた頃には、アップルパイが出来上がっていた。みんながフルーツ狩りに行っている間に、料理人はパイ生地の準備を進めていたようで、アップルパイはスムーズに完成だ。
キャンプ場には甘い香りが漂い、皆、「お腹空いた」「楽しみですわ」とざわざわしている。焼き立てのアップルパイが、テーブルに次々と並べられていく。
こうしてみんなでアップルパイを食べることになったのだけど。スチュアートは「このアップルパイも美味しい。だが焼きリンゴは素朴だが、絶品だった……」と呟く声が聞こえ、私は思わずニンマリ。
アップルパイの後は、自由時間となり、スチュアートはミユを散歩に誘う。すかさず私が同行を申し出て、ちゃんとミユをガード!
こうしてミユ、スチュアート、腰巾着と私の四人で、紅葉した森の中を散策することになった。紅葉が素晴らしいが、他にもリスを見つけたり、鹿を見かけたり。自然を大満喫だ。
キャンプ場に戻ると、アフタヌーンティーが用意されている。
サンドイッチやキッシュもあり、アップルパイだけでは物足りなかった生徒達が、喜んで食べていた。
食後は近くの村へ行き、そこで修学旅行土産を購入する時間となる。
村でそんなにお土産になるような物があるのかと思ったら、フルーツを使ったジャム、コンポート、ドライフルーツといろいろあった! さらに木彫りの置物、フルーツの種、タペストリーなどいろいろある。
さらにこういった加工品を作る工房や加工場の見学もさせてもらえたので、なかなか楽しく過ごすことができた。チームでの行動となり、ここもなんとかスチュアートのミユ接近を阻止。問題なく、お土産購入タイムを終えることができた。
キャンプ場へ戻ると、夕食の準備が始まっている。
ミユはテントに戻り、チームの令嬢メンバーと過ごしていた。
スチュアートもテントで腰巾着二人と他のメンバーと談笑している。
これなら二人の不用意の接近は避けられるわねと安堵できた。
夕食が始まるまでの時間、私は教師陣とおしゃべりタイム。
今回の修学旅行に校長や教頭の同行はない。
スキー合宿はホリデーシーズン中のイベントだったが、修学旅行は平日に実施されている。さすがに学園の要職者は、学校に残って通常稼働だ。
でもお偉いさんがいないからこそ、教師の本音が聞けて面白い。
そうこうしていると、夕食の時間になった。
今日はバーベキューということで、料理人が目の前で肉を焼いてくれる。
焼き立ての肉を食べられるということで、生徒達のテンションは高い。
すると早速、山盛りで肉を手に入れたスチュアートが動いた。
「ミユ、良かったらこのお肉、食べてください!」
満面の笑みでミユにお皿を差し出すが、さすがにそんな量、食べられるわけがない! 困惑するミユに代わり、私が受け取ることにする。
「まあ、ありがとうございます」
あくまで笑顔でニコニコと。
スチュアートは、「!?」と驚き、次に一瞬不機嫌そうな顔になったが、すぐにその表情は緩む。なんだかんだで私がさりげなく邪魔をすることにも、慣れてきたのかもしれない。
そんな風に思っていたら、スチュアートは……。
「昼間の焼きリンゴに免じ、君にあげますよ」
意外な反応!
これはもしかしてスチュアートが、少しは丸くなったということかしら!?
ともかく受け取ったお肉は量が多過ぎるので、結局ミユとそのチームメンバーと一緒に食べることになった。そしてお肉はとても美味しい!
さらにそこで私は、こっそりリクエストしていた、焼いたジャガイモを受け取った。バターをつけて食べると美味しいと、ミユやそのチームメンバーに勧める。
しかしジャガイモは、庶民の食べ物というイメージが強い。皆、「え」と驚くものの。ミユは我が家との付き合いが長いので、ジャガイモも食べ慣れている。率先して食べてみせてくれたのだ。
すると半信半疑だった令嬢達が、バターをのせたジャガイモを食べ始める。すぐに「美味しい!」と笑顔になった。
そこで視線を感じる。
スチュアートから「ジャガイモが気になっています」というオーラを感じた。
さっき、素直に肉を分けてくれたこともある。一緒に食べないかと声を掛けると「食べてみます」となった。
こうしてスチュアート達もバターを塗ったジャガイモにかぶりつく。
今日も、ミユのガードは完璧。そしてスチュアートは少し素直になった?
とにかくこの日も、問題なく終了です!
でも翌日。
とある理解不可能な出来事が起きるとは……この時の私は予想できていなかった。