48話:焼きリンゴ作戦成功です!
修学旅行二日目は、フルーツ狩り。
キャンプ場のすぐ隣が果樹園になっている。
そこで今回収穫するのは、リンゴ!
生徒達は昨日、制服姿だったが、今日は皆、私服。
女生徒は多くがワンピース。
ミユもパステルピンクの大変可愛らしいワンピース姿だ。
一方の私は昨日と同じスカーフとジャケットに、今日は濃紺のロングスカート。
スチュアートは、白シャツに自身の瞳の色を彷彿させるサファイアブルーのベストにズボンと、本日も王子様の装いだ。
「!」
私が見ていることに気づいたスチュアートは、顔を赤くしプイッと横を向く。
その様子はなんだか拗ねている幼い子供みたいだ。
見るからに王子様がやると、実にあどけなく見える。
ブルースとはまた違った、出来の悪い子供みたいで、これはこれで憎めない。
何はともあれ、チームごとに果樹園へ徒歩で移動。
到着してからは、まず果樹園のスタッフに説明を受ける。
つまりリンゴの収穫方法だ。
「ツルを指でおさえ、軽く上方向にリンゴを持ち上げるようにしてひねる。そうすると簡単にとれます。無理に引っ張らないでください。軽くひねるのがコツです! 力を込め、下に無理矢理引っ張ると、枝が折れます! そこは注意してください」
ハサミを使うわけではなく、手で収穫するのかと、生徒たちは驚きながら聞いている。
ここにいるのは良家の令嬢令息。
フルーツとは、テーブルに並べられているのが当たり前の世界の住人なのだ。驚くのも無理はなかった。
「リンゴは、大きければいいわけではないです。中くらいのサイズでも、ずっしりと重量が感じられたら当たりです! リンゴの上部が赤く、下が黄色っぽかったり、黄緑色っぽかったりするものは、まだ熟していません。全体が赤く色づいているものを選んでください」
こうして説明が終わると、早速収穫スタートだ。
チームごとにそれぞれ移動を開始。ミユ達のチームがいる木の隣に、スチュアートのチームがやって来た。「これは!」と思ったら……。ミユが手を伸ばし、届かないリンゴがあった。するとスチュアートはスッと手を伸ばし、そのリンゴを採ろうとする。
「背が届かないリンゴは脚立を使ってくださいねー!」
私が脚立を持って登場すると、スチュアートは天敵を見るような目で私を見る。だがそんな目で見られても、私はビクともしない。気にせず、ニコニコとミユに脚立をすすめる。
「ありがとうございます!」
ミユは脚立に上り、欲しかったリンゴを手に入れている。
それを見たスチュアートは頬を膨らませ、明らかにふてくされていた。
そして腹いせとばかりにスチュアートが、無理矢理リンゴを引っ張り、もごうとしている! これでは枝が折れてしまう。
ならばとスチュアートの脇腹をくすぐる。
「!?」
スチュアートは手を引っ込め、私を見る。
「無理矢理ではなく、ツルを指でおさえ、軽く上方向にリンゴを持ち上げるようにしてひねる――先程習いましたよね。無理矢理では枝が折れてしまいますよ」
ムッとしたスチュアートだったが、「それぐらい分かっています!」とばかりにリンゴを採る。ちゃんとひねるようにして採っていた。「偉い、偉い」と心の中で褒める。
スチュアートの手にあるリンゴは赤々として、食べ頃に思えた。
「これ、焼きリンゴにしたら、美味しいですよ」
「!? なんですか、焼きリンゴって」
スチュアートが興味を持った。
これはチャンス到来だ。
ミユからスチュアートを引きはがす、いい口実ができた。
「焼きリンゴを食べさせてあげますから、ついて来てください」
「!?」
この言葉にミユも反応しそうになっているが、アイコンタクトで「今度食べさせるから、今は我慢」と伝える。ミユはこくっと頷く。
こうしてスチュアートをミユから引きはがすことに成功。
スチュアートと腰巾着二人と護衛騎士を連れ、果樹園の主の家へ向かう。そこで厨房を借りられないか交渉。勿論、袖から紙幣をスッと差し出している。当然「どうぞ、どうぞ、お好きにお使いください!」と火も起こしてくれた。
厨房には調理台とダイニングテーブルが置かれているので、スチュアートと腰巾着二人には、そこの椅子に座るよう指示を出す。果樹園の主に頼み、バター、蜂蜜を用意してもらう。
さらにエプロンを借り、手早くリンゴをカット。フライパンを温め、バターを溶かす。そこへリンゴを加え、両面を焼いたら、お皿に盛り付けだ。あとは蜂蜜をかけるだけで完成。
焼きリンゴは栄養もあるし、前世では特に冬場に手に入れやすかった。ボンビーだった私はこれが昼ご飯ということもあったぐらい、懐かしいスイーツだ。
「さあ、食べてみてください。焼きリンゴです」
毒見も兼ね、まずは腰巾着の一人、騎士団長の息子マークが一口食べる。
「! 美味しい……」
その瞳が輝き、もう一人の腰巾着がゴクリと喉を鳴らす。
既にバターのいい香りが漂っている時点で「美味しそう」という雰囲気が出来上がっている。そして期待通りの味なのだから、満足できるはずだ。
もう一人の腰巾着も味見して「殿下、これは間違いないです」と太鼓判。
満を持してスチュアートも焼きリンゴを口にする。
「これは……!」
そう言うとスチュアートは一口では足りないとばかりに、さらにパクパクと口に運ぶ。どんどんお皿から焼きリンゴが消えて行く様子を、腰巾着二人は無念そうに見ている。
結局、綺麗にスチュアートは平らげてから、「焼きリンゴ。初めて食べましたが、合格と言っておきます」と上から目線ではあるものの、褒めて(?)くれたようだ。
何よりもミユからスチュアートを引きはがすこともできている。
私としてはこの成果に大・満・足です!