44話:作戦を決行です!
『親愛なる君へ
君と話をしたいと思い、公爵邸でお茶の席を設ける。
でも僕は君と話したことがない。
二人きりだと、君の美しさに緊張してしまいそうだ。
そこで僕からの提案。
仮面お茶会にしよう。
アイマスクかハーフマスクをつけて来て。
ブルース・ヘンリー・フォードより』
ブルースがこのメッセージカードを、あの侯爵令嬢イザベル・バークリーの鞄に忍ばせると。
『親愛なるブルース様
メッセージ、ありがとうございます!
ブルース様にお茶会に誘っていただけるなんて!
夢のようです!
それにそんな、美しい、だなんて……。
仮面お茶会、参りますわ!
お慕いしていますイザベル・バークリー』
すぐに返事が来た。
こうしてブルースと私は準備を始める。
仮面お茶会という名のざまぁ作戦を実行するために。
ジェラルドも協力してくれた。
そして週末の日曜日、決戦のティータイムを迎える。
公爵邸のエントランスでイザベルを迎えるブルース。
鮮やかなシアン色のセットアップを着て、ジェラルドを真似し、真ん中分けした前髪の半分を後ろに流すようにしている。それだけでもこの日のために、特別にお洒落をしました――そんなアピールが感じられた。そして白のアイマスク。こちらもスペシャル感を出すための演出に、一役買っている。
そこへイザベルがやって来た。
紅葉のように鮮やかな赤いドレス。大ぶりのパールのネックレスにイヤリングと、まるで舞踏会へ行くようだ。ミユが髪につけていたリボンに対し「派手過ぎる」とイザベルは言ったというが……。彼女が今つけている赤いリボンの方が、そのサイズ、色、生地の質感と言い、「派手」だと思う。
しかもアイマスクをつけているが、それは黒にゴールドの装飾がついたもの。その上で赤いドレスでは、もはや安っぽい娼婦にしか見えない。
それはさておき。
メイドに扮した私は、二人の様子を観察しながら、移動を開始する。
仮面お茶会の会場は庭園だ。
ミユとの思い出のガゼボ(東屋)を使わせるつもりはない。
庭園の一角に、アイアン製のテーブルと椅子を用意し、急遽セッティングした形だ。
でもそこには令嬢達が喜ぶようなお菓子を沢山並べている。
マカロン、チョコレート、焼き菓子、タルト、メレンゲ菓子などなど。
一足先に到着し、他のメイド達と共に、ブルースの到着を待つ。
するとけばけばしいイザベルをエスコートして、ブルースが登場した。
つくづく似合わない二人だと思う。
まるで女悪魔と天使だわ。
着席したイザベルは、予想通りの反応を示す。
「きゃ~! このマカロン、限定味ですよね! 黒ブドウのマカロン! 食べたかったのですが、いつも売り切れなんです。嬉しいわ。さすが公爵家ですわね」
「お母様が君のために、予約したんだよ」
「まあ、公爵夫人が! 光栄ですわ!」
イザベルはどうやら権威にすこぶる弱いようね。
ブルースに興味があるのも、“未来の公爵夫人”に興味を持っているとしか思えない。
そこでブルースが合図を送り、メイドが紅茶を注ぐ。
こちらも王都で老舗の紅茶専門の限定フレーバーなので、イザベルのテンションは高くなる。そして仮面お茶会が始まると、イザベルはマカロンを早速食べながら、ブルースに尋ねる。
「仮面お茶会だから、メイドや執事もみんな仮面をつけているのね!」
「そうだね。面白いだろう?」
「はい!」
最初は学校の話をしている。
だが話題は次第に、いわゆる“恋バナ”へシフトしていく。
そこでブルースは巧みな話術により、イザベルの本音を聞き出す。
「僕はね、イザベル。本当は君のような、大輪の華みたいなレディに興味があるんだよ」
「! そうなのですか、ブルース様!」
「だって僕はフォード公爵家の跡取りだよ。地味なレディを連れて社交界に顔を出せないよね。その点、イザベル、君は……」
ここでイザベルに送ったブルースの流し目!
あ、あれは反則よ!
ジェラルドゆずりのワイルドさを感じさせる、流麗な目つき。
全国の令嬢マダムを失神させる流し目だわ!
一体いつの間に、あんな流し目を身に着けたの!?
思わず鼻息が荒くなり、隣にいるモナカが笑いをこらえている。
「でも僕には婚約者がいるからね。ミユは絶対に僕を手放さないと思う」
ブルースは着実にイザベルのハートを鷲掴みにしつつある。
「そんな、ブルース様! 私が協力します!」
「無理だよ。君のようなレディが、何かできるわけがない。……残念だな」
再びの流し目に、私は悶絶しそうになる。
ジェラルドと同じ碧眼。
反則よ、これは!
「そんなことありません、私、できます!」
「言葉ではいくらでも言えるよ。行動で示さないと、信頼は得られない」
するとイザベルの口元がニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
そしてブルースの信頼を得るため、自身の行動を示し始めた。
既にミユに対して行った嫌がらせの数々。
それを自身の成果として、自慢気に話し出したのだ。それを話している時のイザベルは、頬を高揚させ、実に生き生きしている。誰かを傷つける行為をしたのに、こんな表情ができるなんて。許しがたい人間だわ!