43話:遂にミユが真相を語ります!
剣術大会で見せた意志の強さ。
その一方で普段のブルースは、とても心優しい。
優し過ぎて、そしてミユのことも大好き過ぎて、聞きたいことを聞けずにいる。
成長したと言っても、ブルースはまだ王立レーモン学園の二年生。
いろいろな経験も足りない。大人のちょっとしたサポートはあってもいいはず。
そこでブルースから話を聞いた私は、ミユと私の三人でのお茶会を提案した。
ジェラルドも同席したいかもしれないが、彼には“公爵様”のオーラもあるし、ミユも話しにくいかもしれない。そもそも大勢の大人と子供の組み合わせでは、緊張するはずだ。だからこそのブルース、ミユ、私の三人。
こうしてお茶会は、この話を聞いた二日後。
学校の授業が終わってから、公爵邸のガゼボ(東屋)で行われることになる。
ミユの大好きな『レーズン・ガーデン』のレーズンサンドに加え、イチジクのタルト、プラムのパイなど、旬のフルーツを使ったスイーツを多数用意させることにした。
急に私が参加するお茶会に誘われたのだ。
ミユは緊張するだろう。
まずは和ませるために。
スイーツを食べるよう、勧めよう。
そう考えていた。
こうして迎えたお茶会の日。
エントランスホールで見た時から、ミユが緊張している様子が伝わって来る。これはやはりスイーツをすすめ、リラックスさせよう。ちなみにミユの緊張緩和のため、私は深緑色のドレスを着ていた。グリーン、ブルー系の色は、気持ちを落ち着かせる効果がある。
ガゼボに案内し、着席した。
私の合図で、お茶会がスタートする。
味は普通の紅茶だが、甘い香りが漂うキャラメルティーに、ミユの表情が柔らかくなる。
昼食を食べた後も、みっちり勉強をしているのだ。
小腹は空いているはず。
キャラメルティーのこの甘い香りに、緊張が少しは緩んだようだ。
「ミユ、あなたが好きなレーズンサンドも用意しているわ。遠慮なく食べて頂戴」
「ありがとうございます! ではいただきます」
私の目論見は成功のようで、ミユの顔は、スイーツの味で完全にほころんでいる。
しばらくはバカンスシーズンの別荘での思い出話に興じ、場が温まったところで、切り出す。
「ねえ、ミユ。新学期も始まったけれど、勉強でも私生活でも、何か困っていることはないかしら?」
途端にミユの表情が硬くなる。喜んで食べていた好物のレーズンサンド。それは半分残した状態で、お皿に置かれてしまう。
「と、特には何もございません、フォード公爵夫人」
俯き加減で「本当に、何もないです」と、か細く答える。
こんなミユを見るのは初めてのこと。
明らかにおかしい。
ブルースの顔が心配そうに曇る。
何がミユの心を閉ざしているのか。
しばし考え、ミユが俯き加減であることから、その姿をじっくり眺め――そこで気づく。
ミユがお化粧をしていることに。
それはナチュラルメイクで、じっと見ないと分からない。
でも間違いなくメイクをしている。
学校ではお化粧は禁止なのに。
「ねえ、ミユ。私は女学校に通っていたの。そこは校則も厳しくて、制服も地味。だからこっそりお化粧をしたことがあるの。でも先生にバレて、実はすごーく叱られたことがあるのよ」
私の言葉にハッとしたミユは、自身の顎の下の方へ手を触れる。
「ミユ。私達はいずれ家族になるのよ。大切な家族の様子がいつもと違ったら、心配になるわ。どうしたのかしら? 何か困っているのではないかしら?――そんな風にね。力になりたいと思うものよ」
ミユが顔を上げ、私を見た。
「あなたはまだ学生。大人の助けも時には必要よ。ブルースと私、信頼してくれるなら、話して欲しいわ。あなたの苦しみは、私の苦しみでもあるの。解決策を模索して、一緒に乗り越えましょう」
「フォード公爵夫人……」
目に涙を浮かべたミユは、ついに重たい口を開いた。
ミユはクラスメイトの侯爵家の令嬢から、嫌がらせを受けているという。その嫌がらせが始まったのは、新学期が始まってから。
最初はミユが髪につけているリボンが「派手過ぎる」だった。次に「香水がきつい」。
この世界、香水は高級品であるが、貴族は日常使いしている。それはミユの年代の令嬢でも当たり前のこと。でもつけ慣れていることから、つけ過ぎで香りがきつい……なんことには、ならないはず。実際、今日のミユだって、香水が強過ぎると感じることはない。よって「香水がきつい」は、いいがりだろう。
そんな小姑のような小言から始まり、こんな言葉へとつながっていく。
「ブルース様と別れなさい! あんたみたいな格下が、公爵家の婚約者なんて! 生意気なのよ!」
授業が終わり、教室でブルースが来るのを待っているミユに、侯爵令嬢イザベル・バークリーは突然こんなことを言い出しのだ。
しかもミユの胸倉を掴んで!
侯爵家は、武人の一族であることも多い。バークリー侯爵家の先祖も、かつて戦争で武功を立てた一族。その血を引くからだろうか? 侯爵令嬢イザベルは、令嬢とは思えない荒っぽい振る舞いをしている。
胸倉を掴まれ、突き飛ばされたミユのブラウスは、ボタンがちぎれてしまった。
胸元が露わになり、ミユは慌てて手で隠す。
残暑が厳しいこの季節、まだカーディガンやブレザーは用意していない。
こんな恥ずかしい姿。ブルースには見せられない。そうミユが困っていると、救世主のようにスチュアートが現れた。
「イザベル。君は令嬢としてあるまじき行為を働いた。なんて乱暴なのだろう? 君みたいな生徒がクラスメイトなんて、驚きだ。さっさと立ち去るがいい。教師を呼ぶよ」
スチュアートはイザベルを一喝し、追い払った。
さらに「そんな姿をブルースに見せたら、彼、心配してしまうよ。君を守ることができなかったと、ひどく落ち込むだろう。今日は僕の馬車で送るよ」と提案したのだ。
ブルースは真面目で責任感も強いので、確かにスチュアートの言うように、自身を責めるだろう。ブルースに迷惑をかけたくない――そう思ったミユは、スチュアートの提案に従うことにした。
ミユがスチュアートの馬車に乗り込むのをブルースは目撃していたが、これが真相だった。
また別のある日。
移動教室の間に、ランチボックスの中身をめちゃくちゃにされてしまう。
犯人は、侯爵令嬢イザベルだとミユは思った。
なぜならイザベルだけ、移動教室への到着が遅かったのだ。
犯人の件はともかく、ブルースがこの事態を知ったら絶対に心配する。それに格下のくせに婚約者……。確かに一理あると、ミユは思ってしまったのだ。
一人、隠れてランチを食べようとすると、スチュアートが現れた。
「僕は特別に屋上でランチを摂ることが許されている。そこなら誰も来ない。一緒に食べよう。ブルースを心配させたくないだろう?」
コソコソ隠れ、ランチを食べるところをブルースに目撃されるのは……スチュアートの提案に応じ、ミユは屋上へ向かった。
さらに別の日。
侯爵令嬢イザベルは、ミユがブルースに贈られたタンザナイトのペンダントを奪おうとした。その時のやり方も強引。教室で皆が帰った後、ミユに馬乗りになり、無理矢理ペンダントを奪おうとしたのだ。もみ合いになり、イザベルの手をミユが払うと……。
「生意気よ!」
頬を叩かれ、その際、イザベルの爪で、ミユの顎の辺りに傷ができた。それを誤魔化すため、ミユはお化粧をしていた。寝坊をして、ブルースと一緒に登校できないとなった時。それは普段しないお化粧に時間をとられていたからだ。
遅れて登校し、馬車乗り場でスチュアートに会ったのは、偶然だと思うとミユは締め括る。
そしてこれを聞いた私は――。
侯爵令嬢イザベル・バークリーにはざまぁが必要であると判断した。
お読みいただき、ありがとうございます!
活動報告で書いた通り、7月4日の奇跡が起きました……!
目次のタイトル下の筆者名をクリックすると、活動報告が閲覧できます。
URLは長いのですが、記載しておきますね。
【感謝】読者様、ありがとうございます!
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/2371542/blogkey/3313189/
というわけで!
御礼記念のサプライズ更新です。
いつも支えてくださり、応援くださり、心から感謝です。
ありがとうございますヾ(≧▽≦)ノ