42話:間違った脳内補完です!
ミユが嘘をついている――そう理解した瞬間、ブルースはとんでもない衝撃を受ける。
それでもブルースは、ミユを信じると決めていた。
よって嘘をついているのなら、何か理由があるのだろう――そう考えることにしたのだ。本当は聞きたい。でもぐっとこらえ、ミユに「なぜ嘘をついているのか?」と、問い詰めることはなかった。
その結果、ミユはいつも通りで話し始める。
文学の授業で習った、ある作家の幻の本を読んでみたい。
王都にできた新しいカフェに、ブルースと一緒に行きたい。
その様子にブルースは、スチュアートとミユが馬車に乗り込んだことなど、幻だったのでは?と思えて来ていた。
ところが。
別の日。
昼休み、ランチを一緒に食べようと、ミユのところへ行くと……。
「ごめんなさい、ブルース。数学の授業で分からないことがあって、今から職員室へ行くの。今日のお昼は別々にしてもらえる?」
毎日二人は、昼食を共にしていた。
しかもミユは毎日のように、ランチボックスを手作りしている。ブルースに食べてもらうために。よってお昼を食べる時、二人は互いのランチボックスを交換していた。
つまりブルースは、毎日ミユの手作りランチボックスを食べていたのだ。
お昼は別々。そうなるとランチボックスの交換もないのか。それを尋ねると「ごめんなさい」としか言われない。あの時のように。視線を伏せ、睫毛を震わせるミユ。
「どうして?」と聞きたいが、そうすることでミユを追い詰めることにならないか。
「分かった。残念だけど、仕方ない。また明日、楽しみにしているから」
「……うん。明日、ちゃんと用意する。今日は本当にごめんね」
そのミユの言葉に、もしかしたらとブルースは思う。
寝坊して、ランチボックスを用意できなかったのでは?
屋敷の調理人が作ったランチボックスだから、今日は無理なのでは?
ミユを信じようとブルースは、そんな想像まで巡らせていた。そしていつも二人で昼休みを過ごす、庭園のベンチへ向かう。そこで一人、ランチを食べ始めるが……。
味気ない。
義務的に食べ物を口に運んでいるようだった。
調理人が作った料理は間違いなく、美味しいもの。
でもミユの作る、少し焦げていたり、形が崩れていたりする料理の方が、数百倍美味しく感じる。
すぐに食べ終わり、ベンチの背もたれに身を預け、空を見上げた。
まだ残暑が厳しく、その空は夏空。
そこで視線を目の前の庭園へ戻そうとして、見てしまう。
通常開放されていない屋上に、ミユとスチュアートの姿が見える。
見間違いか?
瞬きをして、もう一度見る。
二人の姿はハッキリ見えていた。
目を手でこすり、再度見る。
二人が座ろうと身を低くしている様子が見えた。
どうしてなんだ、ミユ……?
ブルースの中で不安が募る。
この日の帰り、馬車の中で、昼休みの件を尋ねることにした。
「ミユ、昼休みに言っていた数学の件はどうだった?」
「ちゃんと教えてもらえたよ。大丈夫」
屋上にスチュアートといた件は、やはり話してくれない。
そこでブルースは考える。
数学の件は解決した。
一人ランチを食べようとしたら、スチュアートに声をかけられたのでは?
王族であるスチュアートから誘われたら、断りにくいだろう。
もし僕が一緒にいれば「ブルースと食べるので、ごめんなさい」と言えた。でも僕がいないから、押し切られた可能性がある。なおかつそういった形であっても、スチュアートと一緒にランチをとることになり、僕に申し訳ないと思っているのでは?
そうだ、きっと、そうだ。
愛は盲目と言うが、この時のブルースは、なんとかミユを信じようとしていた。そのせいで間違った脳内補完をしている。
そして今日。
この日の朝、いつものようにミユを迎えに屋敷へ行くと……。
「ごめんなさいね、ブルース様。ミユは寝坊をしたみたいなの。まだ準備ができていないのよ。先に行ってもらって構わないわ」
ミユの母親からこう言われたブルースは「では準備ができるまで待ちます」と伝える。すると「遅刻するかもしれないわ。ミユのことは気にせず、学校へ行ってください」と説得されてしまう。
ここは仕方なく学校へ向かうことにした。
学園に着き、教室へ向かったが、ミユが間に合うか心配だった。
席から窓の外を見ると、正門が見える。
クラスメイトに声をかけられ、話したりしながらも、チラチラと正門の方を気にしていた。
すると。
正門ではなく、馬車乗り場の方角から、スチュアートと校内へ向かうミユの姿が見えた。
どうして……!
でもそれは偶然、馬車を降りた時に、一緒になっただけかもしれない。
同じクラスなのだ。
そこで一緒になれば、校内に並んで歩いて向かっても、何も変なことではない。
ミユに会いに行こうと思うが、時計を見ると、始業時間が近かった。
なんとか動揺を鎮め、昼休みを待つことにした。
そしてその昼休み。
いつものベンチに並んで座ると、朝の件をミユは詫びてくれる。
その上で手作りのランチボックスを渡してくれるが……。
寝坊したのに、ランチボックスを用意していたのか?
もしかしてミユの手作りではない……?
尋ねようとミユを見る。
だがミユは、ブルースの顔を見ようとしない。
避けられている。
それはもう直感。
不安に駆られたブルースだったが「食べましょう、ブルース」と言われ、まずは確認を込め、ランチボックスの中を見る。
少し焦げたウィンナー。サンドイッチのパンは、サイズが揃っていない。
間違いない、ミユの手作りだ。
その事実に嬉しくなり、先程の不安が薄れる。
さらに焦げたウィンナーに粒入りマスタードをつけ、食べ始めると、もう先程の不安が消えていた。
結局、ブルースはミユが本当に大好きだった。
彼女の愛情を感じると、負の感情なんてすぐに消えてしまう。
結果的にランチを食べながら、いつも通りに会話をしていた。
このまま昼休みは終ると思った。
だが。
ランチを食べ終え、まだ時間があるので会話を始めたところ……。
ミユが視線を自分に向けないことに、気づいてしまう。
「ミユ」
自分の目を見て話して欲しいと思い、ミユの顎をクイっと持ち上げると、「いや」と言われてしまう。
「えっ」と固まるブルースに、ミユは慌てて「ごめんなさい」と言うが……。
やはりミユに避けられていると実感してしまう。
これが今日のお昼の出来事だった。
つまりブルースは、ジェラルドと私に夕食の席で、全てを打ち明けたのだ。
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