41話:二人の様子が何だかおかしいです!
バカンスシーズンは終わり、新学期が始まった。
休暇中、我が公爵邸の海辺の別荘に、ミユの家族たちと滞在し、ビーチ遊びを満喫。さらにミユの両親が所有するロッジにも招待され、そこでも楽しい時間を過ごすことができた。そしてブルースとミユは、二週間の語学留学も体験している。学園が用意していた語学学習のプログラムの一環で、これは他国の文化を知るいい機会になったようだ。
バカンスシーズンを通じ、ブルースとミユは、遊びも学びも存分に堪能できたと思う。
よって新学期がスタートすると、ブルースは毎朝元気よく学園に向かっていた。
ところが。
気づくと、ブルースの元気がないのだ!
一体どうしたのかと、夕食の席で尋ねると……。
「最近、ミユに避けられている気がするんです」
これはビックリ。
一体どういうことなの!?
ブルースから話を聞くことになる。
いつもブルースとミユは、登下校を同じくしている。
登校は、ブルースがミユのことを屋敷まで迎えに行く。
下校は、ミユのクラスまでブルースが迎えに行くことになっている。
だが新学期が始まり、しばらくした時。
ブルースがミユのクラスに迎えに行くと、彼女の姿がない。
そこで教室にいた女生徒に、ミユがどこに行ったか知らないかと尋ねた。
「男子と一緒に馬車乗り場へ向かいましたわよ」
「その男子は、確か……スチュアート第二王子じゃなかったかしら?」
この回答を聞いたブルースは驚く。
スキー合宿、剣術大会、濡れ衣カンニング事件。
スチュアートとは、もはや因縁の関係。それでもスチュアートが、直接ミユに絡んだことはなかった。しかもスキー合宿以降、表向き、スチュアートがミユに接触することはなかったのだ。それがここに来て……。
もしかして何かあったのでは!?とブルースは不安になる。
急ぎ、馬車乗り場へ向かった。
その瞬間を見た時、ブルースは心臓が止まりそうになる。
なぜならスチュアートに肩を抱かれるようにして、彼の馬車へ乗り込むミユの姿が見えたのだ。
信じがたい光景。
その様子は、無理矢理乗せられているという感じではない。脅されているような素振りはなかった。それに馬車乗り場はその時、他にも生徒と馬車が多数いた。もしピンチな状況だったとしても。そしてそこにブルースがいなかったとしても。他の生徒に助けを求めることは、十分できる状況に思えた。しかしそれをせずに、ミユは馬車へ乗り込んだ。
一体、なぜなのか。
ブルースが茫然としている間にも、スチュアートとミユを乗せた馬車は、走り出してしまう。
慌てて学園の馬丁に声をかける。そしてフォード公爵家の馬車を、乗り場へ回してもらうよう頼む。だがこの時間、帰宅する生徒が多い。すぐに馬車を回してもらうことは、できなかった。
ようやく馬車に乗り込むことができたが、今から追っても間に合わない。しかもスチュアートの馬車がどこに向かったかも、分からない。ミユの屋敷へ向かったのか。それとも王宮へ向かったのか。
追跡は諦め、ブルースは帰宅することにした。
ただ、ミユはスチュアートのことを警戒して過ごしていたことは、ブルースも知っている。それがあんな風に馬車へ乗り込んだということは、理由があったはずだ。それは明日、共に登校する時に聞こう。
なんとか雑念を振り払い、宿題に取り組む。そしてジェラルドと私と夕食を摂る時も、いつも通りに振る舞った。本当はその胸中は、穏やかではないのに。
こうして迎えた翌朝。
ブルースの睡眠は、浅い眠りの繰り返しだった。
何度も目が覚め、ミユのことが気になってしまう。
そんな眠れない夜を過ごし、朝を迎えると……。
ミユに会える。話を聞けると、不思議と元気も湧いたという。
これを聞いた私は、前世のスマホ、インターネット、電話がいかに便利だったかと思ってしまう。メッセージアプリを使えれば「教室に迎えに行ったけど、いなかったよね。何かあった?」と即日で尋ねることができるのに!
でもこれも一長一短かしら。すぐにメッセージを送ることができても、未読スルーや既読スルーに悩むこともある。
ともかく登校するための準備を整えたブルースは、いつもより少し早く、屋敷を出た。
ミユに会いたい気持ちが高じ、早めの出発になっていたのだ。
ミユの屋敷に着くと、エントランスにはいつもの光景が見えた。
制服を着たミユと、彼女を見送るため、母親と使用人が見送りに出ている。父親は既に仕事へ向かっているので、これが見慣れた朝の景色だった。
馬車がエントランスに着くと、はやる気持ちを抑え、ブルースは礼儀正しく朝の挨拶を行う。そしてきちんとミユをエスコートして馬車に乗せる。着席後、馬車が走り出すと、見送るミユの母親と使用人に手を振り、頭を下げ――。
ようやくミユに「昨日、どうしたの?」と尋ねたのだ。
対するミユの答え。
「ごめんなさいね、ブルース。先生に急に呼ばれちゃって。補習があったの」
ブルースの目を見ようとせず、視線を下に向けたミユから告げられた言葉。
嘘をつかれたと悟るには、時間がかかった。
なぜならブルースは、ミユを信じていた。
彼女の口から出た言葉を、信じかけるぐらい。
そうか。補習を……いや、違う。
ミユが嘘をついている――そう理解したブルースは、筆舌し難いショックを受けた。