36話:遂にリベンジです!
『デイヴィス伯爵、王都にまた孤児院設立! 善行を重ねる宰相に拍手喝采』
朝刊のニュースペーパーの見出しを見るだけで、なんだか不快な気持ちになる。
伯爵であり、この国の宰相であるデイヴィス。そしてその息子、コール。
この親子は忠実なる王家の犬だ。
コールは第二王子スチュアートの子飼いであり、彼の命令に従ったのだろう。
ブルースにカンニングの濡れ衣を着せようとした。
あの時はこちらで切れるカードがなく、まんまとやられたわけだけど。
諦めたわけではない。
当然、リベンジに燃えていた。
「ではお母様、行ってきます!」
「行ってくるよ、キャサリン」
学校へ行くブルース、商会の工場へ視察に向かうジェラルド。
二人を見送った私は自室で知らせを待つ。
ソファに座り、届いているお茶会の招待状を確認しながら。
「奥様、報告書が届きました!」
部屋にやってきたモナカから封筒を受け取り、すぐに中身を確認する。
報告書に最後まで目を通した私は、思わずニヤリとしてしまう。
「……やっぱりね。宰相とはいえ、伯爵家。しかも伯爵家の序列では男爵家に近い。それなのに孤児院を乱立するなんておかしいと思ったのよ」
「奥様、雇った人間は、デイヴィス伯爵の何かを掴んだのですか?」
「ええ。孤児院を建てると免税枠が増える。だから最初は税金対策と思ったわ。そうであっても施設を建て、運営するには費用がかかる。いくら人気取りのためとはいえ、お金を使い過ぎと思ったの。一体、どこにそんなお金が? そう思ったら……」
調査報告書をソファの前のローテーブルに置く。
「どうもデイヴィス伯爵が所有する商会は、裏取引で相当な儲けを出しているようなの。裏帳簿が手に入れば、デイヴィス伯爵は宰相を辞職、爵位剥奪されるはずよ」
「裏取引! なんてことを! 宰相という立場の方が……」
「クリーンなイメージを保つために、善行に励んでいるようだけど、そこで使われているのは裏金よ。違法な取引……そこには人身売買も含まれている。そんな悪党を野放しにするわけにいかないわ」
そこでモナカに指示を出す。
「デイヴィス伯爵が会長を務めるカーラン商会へ人を潜入させて。そして裏帳簿を手に入れるのよ」
「かしこまりました」
絶対に悪事を暴いてやるわ!
◇
「モナカ、その後、報告書は上がっていないの?」
「それがですね、奥様……」
モナカによると、カーラン商会への潜入はどうやらうまくいっていないというのだ。というのもデイヴィス伯爵の商会は、産業スパイを警戒しており、事務職員をすべて貴族の女性にしているという。
「つまり裏帳簿を隠している金庫の場所は分かっている。でもそこへ近づける人間を潜り込ませることができないのね」
「はい。奥様が雇っているスパイ組織もそうですが、業界的に女スパイは存在していません。女性が必要となる場面では、女装するそうですが、カーラン商会は建物の出入りでボディチェックをしているとのこと。ゆえに女装での潜入も難しいようで……」
「あら。そうなのね。ハニートラップを請け負う場合はどうしているのかしら?」
するとモナカは私に近づき耳元で教えてくれる。
「なるほど、そうだったのね!」
ハニートラップを仕掛ける場合、体を許さないと疑われる。ゆえにスパイ組織では娼婦を使うという。あくまでハニートラップ専用要員であり、潜入には向いていないとのこと。
「奥様、私が潜入しましょうか? お知り合いの貴族の女性で、こんな潜入をできる方はいないと思います。何より宰相の身辺を探っていることがバレるのは、危険です。そして丁度、秘書の女性が結婚退職したとのこと。秘書ができる令嬢やマダムを探しているそうです」
「秘書の募集……そうなのね。それはもたもたしていられないわ。だからと言って、モナカを潜入させるわけにはいかないわよ。いいわ、私が潜入する!」
こうして私はその日の晩、寝室へやって来た濃紺のガウン姿のジェラルドに、カーラン商会へ秘書として潜入するつもりだと伝えた。
「カーラン商会へ秘書として潜入か。危険はないのか?」
「ちゃんと変装をしますし、カーラン商会自体が扱うのは、ワインや食料品です。実際に商品が保管されている埠頭の倉庫で働くわけではなく、あくまでオフィス勤務ですから。それに会長であるデイヴィス伯爵は宰相の職務で忙しく、名ばかりの会長職です。接触の機会はほぼないでしょう。それに接触する前に、裏帳簿を手に入れ、私は消えます」
「そうか。では適当な身分はわたしの方で用意しよう。……それで、今回は秘書か。女の秘書なんて聞いたことがないな。一体、どんな変装をするんだ、キャサリン?」
ぽすっと私をベッドに押し倒したジェラルドが、私の髪をひと房手に取り、キスを落とす。その瞳がなんだか期待で煌めいている気がする。
「……変装ができたら、潜入前にわたしが確認しよう」
そう言いながら、ジェラルドの唇が、私の唇に重なる。
そして後日。
変装した私は執務室を訪れる。
執務机は、また乱れることになるのだけど……。
補佐官はさすがに学習したようだ。
書類のための新たな棚が設けられている。
これでもう、絨毯に書類が散らばる心配はなくなった。
お読みいただき、ありがとうございます!
完結のお知らせです。
⇒俺様ツンデレ溺愛系/一途な純愛/不意の優しさにキュン
『婚約破棄の悪役令嬢は娶られ、翻弄され、溺愛される』
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まさか、まさかの展開で最後まで飽きさせません。
ざまぁもあるハッピーエンド、一気読みでスカッとどうぞ!
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