25話:これにて一件落着です!
「フォード公爵、ありがとうございます。騎士団の教官は……後日、必要になるでしょうか?」
チラッと校長を見ると、彼は慌てて私から視線を逸らす。
教師二人は俯いている。
宰相の次男、騎士団長の嫡男は、スチュアートの窮地と分かるが、何を言えばいいか分からない。二人揃って、口をぱくぱくさせていた。
「屈強な騎士であっても、雪上ではこまめな休憩をとり、ナッツやドライフルーツ、チョコレートなどを食べ、それでようやく重い荷物を持ち、前へ進めるというのに。スチュアート殿下はブルースを抱きかかえ、ノンストップでロッジまで戻られたなんて。まさに奇跡ですね。ありがとうございます」
私の言葉に表情を失くしたスチュアートが、声を絞り出すようにして、なんとか答える。
「……い、いえ」
その実態は、ヤンデレな束縛系男子であるが、小説ではヒーローであるスチュアート。
だが今は……ヒーローとしてのオーラもなく、どう見てもモブにしか見えない。
「ブルースは、殿下から聞いたそうです。山小屋に行くと、オーロラが見えるかもしれないと。本当にオーロラが見えるのか、山小屋があるのか。ブルースは気になったようで。しかもその山小屋は、ロッジから10分程の場所にあると、殿下が教えてくれたとか。でもこれら全ては、殿下の勘違いだったのですよね? オーロラが見えるということも。10分で辿り着く場所に、山小屋があるということも」
「も……申し訳ありません。全て勘違いです。……わたしの勘違いで、ブルースを危険に晒すことになりました」
「勘違いは、誰にでもあることです。……ブルース。あなたはただ、オーロラが気になっただけよね? 婚約者であるミユと、何かしようとは考えていないわよね?」
「はい。僕はミユを、心から大切に思っています。きちんと結婚式を挙げ、結ばれることを願っているのです。そんな山小屋で破廉恥なことなど、一切考えていません」
キッパリ言い切るブルースは、完全に覇気が消えたスチュアートと違い、とても正々堂々としている。
これではブルースがヒーローだわ。
「校長先生。今回ブルースが騒動を起こしたこと、大変申し訳なく思います。ですが殿下も勘違いされていたようです。山小屋には、10分 足らずで着くと思ってしまった。そこでオーロラが見えると勘違いされた。そしてブルースに、うっかり勧めてしまっただけ……。それが真相だと思います。これ以上根掘り葉掘り詮索せず、この場でもう処分を決めていただくので、どうでしょうか? 公にして大事にはせずに」
校長は、ややおどおどした目で、スチュアートを見た。
蒼白のスチュアートだが、その目は「とっと終わらせろ」と言っている。
「そ、そうですね。勘違いですから、仕方ないことです。……では夜間外出をしてしまったブルースとスチュアート殿下には、明日はスキーの練習はなし、代わりに反省文を書き、雪山のリスクについて学んでもらいましょう。これで本件は一件落着で、よろしいでしょうか」
落としどころとしては上々だ。
ブルースだけではなく、スチュアートも反省文となれば、どんな理由であれ、夜間外出は禁止ということも示すことができる。
「それでよろしいかと」
そうジェラルドが答え、スチュアートも「分かりました」と応じた。
こうしてスチュアートの悪巧みは、潰えることになった。
◇
「よく追い詰めた、キャサリン!」
本日二度目となる貸し切り家族風呂。
湯船に浸かるとジェラルドは、すぐに私を抱き寄せた。
見慣れたジェラルドの体とはいえ、シチュエーションが変わると、ドキドキが止まらなくなる。
「そんな。ジェラルドが突破口を開いてくださったおかげです。雪山の行動に関する知識は、私にありませんから」
落ち着いた様子で答えているけど、心拍数は大変なことになっている。
一方のジェラルドは、大変ご機嫌な様子で自身の髪をかきあげた。
湯気が立つ中、お湯も滴るいい男のジェラルドが完成だ。
「ではわたし達夫婦の勝利だな。誰も口にしなかったが、あの状況では、殿下が嘘をついていたことは明白だ。そしてなぜそんな嘘をつく必要があったのか。山小屋での破廉恥を、そもそも持ち出したのは、殿下だ。そうなるとブルースを貶めるため、猿芝居を打ったということぐらい……あの校長や教師でも分かっただろう。だからこその殿下共々の反省文だ」
「そうですね。そしてミユもブルースと話し、殿下が何をしたかったか分かったはずです。これからは殿下を警戒すると思います」
今回の一件は、公にせず、処理することになった。よってスチュアートは変わらず、品行方正な素晴らしい殿下のままだ。この事実にスチュアートは大いに反省し、心を入れ替えて欲しいと思う。
「当然、ミユも警戒するだろう。そしてブルースも、殿下のミユへの好意に気づいた。ブルースだって自身の婚約者を守るため、頑張るはずだ。それにブルースには、わたし達がついている」
「そうですよね」
「よし。さっきの騒動で変な汗をかいたが、それもさっぱりした。後は部屋でキャサリンを抱くだけだ」
ジェラルドがそう言って額へキスをする。
今度こそ部屋へ戻り、雪を溶かすような熱い熱い夜を過ごした。
◇
この世界に転生していたと覚醒してから九年経ったが。
ブルースは素敵な令息に育ち、そして最愛のジェラルドは、変わらず溺愛ぶりを発揮してくれている。
最初は、本当に驚きだった。
覚醒した瞬間、ゾウからの熱烈な鼻チューで、顔が粘液でデロデロだったのだから。
しかも自分が、ヒロインの束縛エンドにつながる、婚約破棄を告げる令息の母親に転生していると知った時は……。
衝撃しかない。
ヒロインと息子ブルースで、ハッピーエンドを迎えてもらえたいと奮闘を始めたら、まさかのジェラルドの転落死の可能性が浮上。最愛のジェラルドの死を回避するために奔走し、ブルースも無事、ヒロインであるミユと婚約できた。
だが、そこからが本番だった。
ミユとブルースが入学した王立レーモン学園こそが、婚約破棄の舞台となるのだから。
早速、ミユからブルースを奪う玉の輿狙いビッチが現れ、そのハニートラップを回避。そして今回のスチュアート。
もしかするとまだまだ前途多難なのかもしれない。
でも、ブルースはさらに成長するだろうし、ジェラルドも助けてくれる。
そして私もいるのだから。
安心してください。何が起きても軌道修正して、ハッピーエンドにして見せます!
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書き手側の事情により更新がカメさんでごめんなさい。
この作品、書き手としてはお気に入りです。
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