23話:真相究明が続きます!
既に養護教諭は自室へ戻り、ブルースは教師の監視の元、入浴をしている。
雪が降り始めた外で倒れていたのだ。
外傷はなくても、体は冷えていた。
そうなったのはスチュアートのせいだと思うと、本当に腹立たしい。
ともかくブルースが入浴している時間を使い、ソファに座った私とジェラルドは、作戦会議を開始した。
「キャサリン。君が言う通り、殿下はミユを気に入っている。そしてその心を手に入れるため、ブルースを嵌めたのなら……。卑怯だと思う。殿下は品行方正で知られ、来年は生徒会の副会長になるだろうと言われている。頭もよく、人徳もあるのに。そんな卑劣なことをするとは……。好きな相手がいるなら、正々堂々勝負すればいいだろうに」
ジェラルドが言わんとすることは、よく分かる。ジェラルドは汚職や癒着とは無縁だった。実に健全に生きている。そんな彼からしたら、スチュアートの所業は、とてもあくどい方法に思えることだろう。
「ただ、証拠がないと、スチュアート殿下を追い詰めることができません」
「その通りだ。最悪は、不敬罪に問われること。そこだけは回避したい。その突破口は……殿下は、森の入口からロッジまで、ブルースを運んだとは思えない」
「それは……どういうことですか?」
するとジェラルドは、スチュアートの体力を指摘した。
「殿下は当然だが、学園に入学する前、王宮で沢山の家庭教師から教育を受けている。剣術や馬術も学んでいた。だが騎士になる程の訓練は受けていない。つまり、ブルースを抱きかかえてロビーに現れたが、気づいたか? 腕も足も実は震えていた。気づいてもそれは、寒さのせいと思われただろう。だがわたしには、そうは見ない」
そこであることに気づく。私はそれをジェラルドに尋ねる。
「ブルースは六歳から、剣術や馬術の訓練をかなりみっちりやっていますよね? 最近は弓の扱いも覚えました。ジェラルド程ではないですが、筋肉はついていますよね」
私の言葉を聞いたジェラルドが、フッと笑う。
「わたしを基準に考えない方がいい。正直、わたしの肉体は、騎士団に所属できるレベルだ。しかも指揮官クラス。とはいえブルースの体も、並みの騎士の基準は超えている。筋肉もついているよ。つまり殿下からすると、ブルースをあんな風に抱きあげて登場するのは、相当キツイ状況だったと思う」
「それはつまり……スチュアート殿下は、一人でブルースを追いかけたと証言しています。自身がブルースを発見したと。そしてブルースをお姫様抱っこして、ロッジまで戻って来たと言いましたが、それは違うということですか?」
「違うだろうな。実際に行動したのは、殿下の護衛騎士だろう。そもそもその護衛騎士が、ブルースに薬品を嗅がせ、気絶させたはずだ。ブルースはわたしの身長には及ばない。だが生徒の中では、五本の指に入る高さだ。しかも殿下より、頭一つ分高い。背後から回り込み、鼻と口に薬品を染み込ませた布を押し当て、殿下がブルースを気絶させようとすると……。できないことはないが、当然ブルースが暴れ、戦闘になるだろう。だが殿下の護衛騎士は皆、屈強で背も高い。護衛騎士に背後を取られたからこそ、ブルースは気絶することになった」
護衛騎士は本来、王族を守るのが役割。だが主の命令には、基本的に逆らわない。ううん、違うわ。逆らえない。
よってスチュアートの命令に従い、行動した。
ブルースを気絶させ、担いだ護衛騎士は、ロッジの近くまで戻った。そしてそこからはスチュアートにバトンタッチだ。あたかもスチュアートが救助したかのように見える演出を行う。その上で、ブルースをお姫様抱っこしてロビーに現れたわけね。
「ただ、これを指摘しても、言い逃れされるだろう。第二王子なんだ。護衛騎士を連れていてもおかしくない。それに『恰好をつけるため、護衛騎士のことを伏せた』――そんな風に言われては、殿下の好感度が上がるだけだ。可愛らしいと」
「手の内が分かるのに、それが証拠にできないなんて、歯がゆいですね」
そこで私は閃く。
待って。
先に言質をとり、問えばいいのではないかしら?
嘘をつかないと宣誓させた上で、追い詰めることは……できる気もする。
「スチュアート殿下は、森の入口付近までは、行ったのでしょうか?」
「頭に雪を載せ、いかにも長時間、雪の中にいました……という演出をしていたが、実際はどこかに隠れていたと思う。もし森の付近まで行っていたら、膝ぐらいまで雪に埋もれていたはず。だが雪がついていたのは上半身が中心。明らかに人為的につけたのだろう。あ、雪道に残る足跡が証拠にならないか……というのは、期待しない方がいい。先にブルースが歩くことで、雪道が出来ていた。その後を追うことで、新たな道は作っていないはずだ」
「なるほど。ジェラルドは雪山に詳しいですか?」
するとさすがのジェラルドも困った顔になる。
「王都は豪雪地帯ではないからな。詳しいと言われると……浅い知識しかないかもしれない」
「基本的な知識でいけると思います。ロッジからその森の入口までは、どれぐらいかかるのでしょうか?」
私の問いにジェラルドは、真剣な表情で考え込む。
「それはさっき地図も見て、外の雪の状況も確認したが……。夜である点。積雪量。雪が降って来たことによる気温の低下を考えると……二十分くらいだろうか。ロッジからその森の入口までは」
「屈強な護衛騎士であっても、天候や気温を踏まえ、ブルースを抱きかかえて動くとなると……。二十分では足りないですよね?」
「足りないだろう。途中の休憩も必要だ」
休憩……。
なるほど。突破の道筋が見えたかもしれない。