22話:真相究明続けます!
スキー合宿において、紅一点でミユが、スチュアート達のチームの一員に選ばれた理由。
それはミユには婚約者がいる。よって第二王子のそばに置いても問題ないから――ではない。スチュアートは、婚約者がいるミユのことを好きなのだ。だから同じチームに加えた。
大義名分は立っている。皆、スチュアートが好意でミユをチームに加えたとは、考えないだろう。
そしてミユを手に入れたいスチュアートは、ブルースを貶めることにしたのでは?
もしそれが正解だった場合。
第二王子であるスチュアートの罠だと、証明できるかしら?
山小屋でオーロラが見えることも。
徒歩十分で到達できるという話も。
言い出したのは、スチュアートである。
そう、証言できるのは……ブルースだけだ。
ブルースになりすまし、スチュアートがミユへカードを送ったことも、証拠がない。
ブルースは公爵家の嫡男。しかしこの国の権力の座の頂点にいるのは、王族だ。第二王子という立場のスチュアートが「そんなこと言っていない」と言った場合。
確固たる証拠がなければ、ブルースに勝ち目はない。
夜間外出禁止を破り、さらに禁止行為を山小屋で、ブルースは自身の婚約者としようとしていた。それを誤魔化すため、ブルースは嘘をついている。それどころか品行方正な王族のスチュアートに対し、偽証していると言い出した。これはスチュアートの名誉を汚すことだ――と言われてしまう可能性もある。
王族が、簡単に政敵や気に食わない貴族を死に追いやることができる刑。それがこの世界では、不敬罪だった。
退学なら、まだどうにかなる。でもこの不敬罪に問われては……。
つまり証拠がない限り、いくらこちらが公爵家でも、王族相手に迂闊に動けない。
するとそこに、ため息をつきながらジェラルドが戻って来た。
私達の部屋は、ベッドルームが三つあった。
その一つに、ブルースを運んでもらっていた。
「なぜだろう。どうやらブルースは、第二王子であるスチュアート殿下に、嵌められたように思える」
ジェラルドによるとスチュアートは、ミユの証言を聞くと、こう言い切ったという。校長達の前で。
「オーロラなんて、こんな場所で見えるわけがないですよね? 既に婚約しているのをいいことに、やはり婚約者を山小屋に呼び出し、破廉恥な行為でもしようとしたのでは?」
これを聞いた校長は、ブルースのおイタ行動を確信することになる。教師達も、品行方正で知られるスチュアートの言葉を、信じる流れになっていた。
やはり公爵家 < 王族という忖度も働いているのだろう。ジェラルドが学園の理事長でも関係ない。なにせ学園自体を創設したのは……王家なのだから。
規則を破り、夜間外出したのは、スチュアートにそそのかされたからだ。しかもブルースは、ミユを誘いだしていない。カードは捏造されたが、その証拠もない。一線を越える気持ちなんてなかったが、それも証明するすべがない。この時点でも退学の危機なのに。スチュアートがブルースに「嘘をついている」と言えば、嘘の証拠もないため、不敬罪に問われる。
しかも悪者にされるのは、ブルースだけだ。
裏口に呼び出されたミユは、ブルースの被害者扱いとされるのでは?
山小屋での計画を知らないミユは、婚約者を信じていた。
オーロラなんて見えないのに、見えると。まさか山小屋でブルースに手を出されるとは、思っていなかったはずだと。
こうなるとミユとブルースの婚約も、破談になる可能性もあった。不敬罪に問われたら、即破談決定だ。
ミユはブルースを信じるだろう。でも周囲がそれを許さない。王族の目もあるのだから。
そうなると泣く泣く二人は別れることになる。その傷心のミユにスチュアートは近づく。言葉巧みにミユの心の傷に入り込む。そして卒業までの時間をかけ、彼女の心を溶かしていくのではないか。
ブルースは無実の罪で学園を追いやられ、命すら失う瀬戸際に立たされてしまう。
この大ピンチな状況に、ふと思い浮かぶことがある。
私はブルースを、立派な令息に育ててしまった。おかげでブルースはミユと相思相愛となり、二人はとても仲が良い。絶対婚約破棄しない状況を作ってしまった。
だが小説の正しい流れは、第二王子であるスチュアートとミユのハッピーエンドだ。
これは小説の神の力が作用し、ブルース自らが婚約破棄しないなら、婚約破棄せざるを得ない状況を作り出そうとしている……?
さすがにジェラルドの死を回避できても、ヒロインに関わることとなると、見過ごしてもらえないのかしら。
そうであっても、諦めるわけにはいかない。
私は前世記憶を持つ転生者だが、ブルースの母親なのだ。
何か、スチュアートを追い詰める証拠は、ないのかしら……?
「キャサリン」
ジェラルドが私に声をかけた。